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夜桜が揺れる夜
もう桜は散ってしまっておりますが・・・・・・
相変わらず、こういう季節物をリアルタイムで公開できないこのブログ(汗)。

この人目線のお話は、初めて書きました。
そういう意味でも、ちょっと異色のお話です。
... Read more ▼
夜。
昼間には青空の下、華やかに咲き誇っていたであろう満開の桜は、一転して違う表情を見せていた。
暗闇に悠然と佇むそれは、神秘的な美しさ。
どこか冴えざえとした冷たさをも醸し出している。
まるで人を寄せ付けないように――


……なんて。

実際には周りは誰も、桜なんて見ていないんだけど。
大学生のお花見大会――しかももろに体育会系のテニス部の花見だなんて、得てしてこんなものよね。
お酒は入るし、須藤先輩がカラオケなんか持ち込むもんだから、さっきからやんやの大にぎわいだ。
その中でも、須藤先輩はやっぱりお姉ちゃんにべったり引っ付いて、飲み物を進めたりつまみを持ってきたりと甲斐甲斐しく動き回っている。
お姉ちゃんは半分迷惑顔で、適当にあしらっていた。時折、ちらちらとある人物の方に視線を送っている。
頭の中では、きっとどうやって抜け出すか、考えているに違いない。
そう。どうやって、彼と二人でここを抜け出すか、を。



あたしは、お姉ちゃんから視線を外すと、その彼の方へと目を向けた。
彼――直樹先生。お姉ちゃんの想い人。
同期の男子部員と話ながら缶ビールを飲んでいる彼は、周りと違って顔色を変えることもなく、至ってクールだ。



あたしが初めて直樹先生に会ったのは、まだあたしが高校生の時だった。
お姉ちゃんに好きな人ができたって聞いて、どんな人か見たくって、あたしの家庭教師になってもらったら、あたしが恋のキューピッドになってあげる、なんて言って引き合わせてもらった。

あのお姉ちゃんが好きになったっていうから、そんじょそこらの男とは違うんだろうと思っていたけど。
顔よし、頭よし、運動神経もよし。おまけにお金持ちだなんて。
こんな人、ホントにいるのね。滅多にお目にかかれないレベル。確かにあの目の高いお姉ちゃんが好きになったのも頷ける。
せっかく、お近づきになれたんだもの。あたしだって、もしかしたらお姉ちゃんを出し抜いて、こんな素敵な人の彼女に収まっちゃったりすることができるかも。こんなチャンス、逃すのは勿体ないわ。
家庭教師をしてもらってる時は、何かと同席したがるお姉ちゃんを追い払って二人きりになって。
さりげなく顔を近づけてアピールしてみたりしたわ。
でも。
いつだって、直樹先生は表情一つ変えない。いつも冷静で、ペースを乱さない。
家庭教師としては、これ以上ないくらい、すごく優秀だった。説明は的確でわかりやすい。
だけど、何となく、なんだけど。
直樹先生は、どこか本心を見せないようなところがあって。
まるで、固いガードを張っていて、他人を寄せ付けない。
それ以上踏み込ませてもらえない――そんな気がした。



琴子さんの存在を知ったのはいつだったか――。

『ああ、きちんと毎日復習してるんだな』

あたしのノートを見て、直樹先生が言った。

『一度間違えたら、次は絶対間違えないし』

そりゃ、直樹先生に教わってるんですもの。いい生徒でしょ?あたし。

『ああ。今まで教えた中で、一番覚えがいいよ』

『あら。今まで誰かの家庭教師したことあるの?』

たまたまその時いたお姉ちゃんが訊いた。

『ま、綾子ちゃんとは比べ物にならない、レベルの低い奴のね』

『それって、もしかして、相原さん?』

直樹先生は返事をしなかった。ただ、少しだけ口許に笑みを浮かべていた。

『あの人相手じゃ教える甲斐もなさそうね。時間の無駄になりそう』

『そういう相手には、忍耐力は異常に要するけどね』

『やっぱり』

『ただ、あのパワーと根性は侮れないんだよな』

最後の一言は、ほんの小さな呟きで、お姉ちゃんの耳には届いていなかった。
あたしはその言葉とその時の直樹先生の表情が、何となく気になったのを今でも覚えている。




琴子さんに初めて会った時は、ホント、お姉ちゃんと直樹先生の言ってた通りの人だった。
単純で、能天気。頭が悪くてドジばっかり。
ただ、直樹先生が好きで好きで、一方的にずっと追いかけ回してる――それだけだと思ってた。
確かにパワーと根性は物凄いんだけど、こんな人がお姉ちゃんのライバルなんて嘘みたいって思ったわ。

でも――



大学に入ってからも、あたしは直樹先生を捕まえては、よく勉強を教わっていた。
その日も、図書室で直樹先生に民法について質問をしていた。
専門外なのに、的確で分かりやすい答えが返ってくる。そんな午後の静かな時間。

『何さらしとんのじゃ!』

静寂を破る声が聞こえてきたのは、窓の外からだった。

『おんどれ琴子の周りチョロチョロしてる思おたらよくもそんな大それた真似しやがったな』

え?琴子って……

『チョロチョロしてんのはあんたの方が長いだろ』

『なんじゃとおお』

『そろそろあきらめたらどーなんだよ!』

あの声は――。

伝わってくる雰囲気は何だかただならぬもので。
図書館の中でも、何事かとざわめきが広がっている。窓の方に近寄る人もいた。あたしも窓の方に視線を向けていて、ふと気がつくと、隣に座っていたはずの直樹先生がいなくなっていた。
辺りを見回すと、直樹先生が図書室のドアを開け、出ていくのが見えた。


ちょっと、どこへ行くの!
あたしは急いで後を追った。



『別にいくらお前らが殴り合ってもケンカして血を流してもいいんだけどさ』

あたしが外に出ると、そんな声が聞こえてきた。
声のした方を覗いてみると、直樹先生の背中が見えた。
その向こうには琴子さんと、殴り合いを中断させられた、といった様相の男二人が直樹先生を見上げていた。
そんな中、直樹先生が発したのは。

『でも、琴子が好きなのは俺なんだぜ』

直樹先生は、確かにそう言った。
地べたに座り込む男二人に向かって。
こちらからは、直樹先生の顔は見えない。
だけど、その声音は有無を言わせない強さがあった。
そう、それは、まるで宣告。宣言。

「琴子は俺のものだ」と。あたしにはそう言っているように聞こえたわ。
まるで当たり前のことのように。

『おい、バイト行くんだろ』

直樹先生が琴子さんに声をかけた。

『う……うん』

『行くぞ』

『う、うん』

直樹先生は、男二人に背を向け、さっさと立ち去っていく。
琴子さんは二人に謝りつつも、直樹先生を追って走り去ってしまった。

はあ…、と一部始終を見ていたあたしは、思わず溜め息をついてしまう。
何だったのかしら、今の。
後から登場しといて殴り合いに割り込み、腕一つ振るわずに彼は勝者となり、琴子さんをさらっていったのだ。憎らしいくらいに鮮やかに。
琴子さんのために、彼はわざわざ外まで出てきてそんな行動を取ったのだ。
あの琴子さんのために、一体何故――?

それは、執着というもの――?
直樹先生が、あの琴子さんに?
……まさか。


それでも、その後二人の関係が変わった様子は全くなかった。相変わらず琴子さんは直樹先生を追いかけ回して、直樹先生はそれをやっぱり適当にあしらって……本当に、この間のことは何だったのかと思うくらい、そんな変わらない日常が続いた。

ただ、直樹先生は、あの時見せた執着を、他の誰にも見せなかった。それは、お姉ちゃんに対しても、あたしに対しても。
そういえば、勉強を見てくれるって約束してたのに、突然すっぽかして何故かあいつを代わりに寄越したことがあったっけ。あれは酷いわよね。

そんな中。あたしは直樹先生と混合ダブルスのペアとして、関東選手権に出ることになった。
ペアとして同じコートに立っていると、直樹先生のテニスプレイヤーとしての緻密さを肌で感じた。
計算された、そつのない動き。プレイまでもが、クールとでもいうのか。
彼とはとてもプレイしやすかったし、実際あたし達ペアは強かった。大会でも優勝は間違いないって自信もあったわ。

でも、大会当日。電車で会場に向かったあたしに、まさかのアクシデント。乗った電車が故障になり、待たされた挙げ句に不通になったのだ。
タクシーを待つ長蛇の列にいたあたしは、偶然通りかかったあいつの自転車の後ろに乗せられて、会場に向かった。必死にペダルをこぐあいつにつかまっていたら、何だかその体がとても熱くって……すごくドキドキしたのを覚えてる。

あたしが会場に着いたのは、試合開始時刻の30分後。当然、試合は始まっていた。直樹先生と――琴子さんのペアで。
観客席の後ろから、あたしは、その様子を不思議な感覚で見下ろしていた。
直樹先生が、あたしの知らない顔をしていたから。
プレイもその表情もいつもクールな直樹先生が、すごく熱かったから。
あんなに燃えるようなプレイをするなんて知らなかった――ダブルスのペアなのに。
いつも一番近くでプレイしていたはずなのに。
あたしとプレイしている時とはまるで違う。
ペアの琴子さんは全くプレイをしていないのに――間違っても、素晴らしいコンビだなんてとても言えないのに。それなのに、何故かあたしはそう感じた――。




いつのまにか、宴もたけなわ。皆、だいぶお酒も入って、いい感じに酔っぱらってきている。
お姉ちゃんが、直樹先生にひそひそと声をかけているのがふと目に入ってきた。

あら。いよいよ行動開始ってわけ。

ふと隣を見ると、その様子をむっとした表情で琴子さんが見ていた。

「お姉ちゃん今日はやる気よ」

「えっ」

あたしの言葉に、琴子さんがはじかれたように振り返った。

「この頃お姉ちゃん落ち込んでてさ。直樹先生琴子さんのいる家に戻るわ黙って医学部に行かれちゃうわ、思うよーにいかなくってね」

あたしは淡々と、そんなことを口にする。

「ここらで一発決めなきゃって、今日に賭けてたわけよ。プライド高いからね、彼女」

そう。お姉ちゃんはとてもプライドが高い。そんな状況を許しておけるわけがない。
そんな事実を、あたしはまた淡々と告げた――お姉ちゃんのライバルに。それも、実はかなり手ごわいライバルに。

「直樹先生にアタックするはずよ」

琴子さんの表情が、変わった。



琴子さんから視線を元に戻すと、お姉ちゃんと直樹先生はすでに姿を消していた。

「ちょ、ちょっと二人は」

琴子さんが、はっとしてきょろきょろ辺りを見回している。

「闇の中に消えてったわよ」

あたしの一言に、琴子さんはきゃーっと悲鳴を上げ、走り出して行った。

あらあら。相変わらず、直樹先生のこととなると見境なく追っかけていくのね。
あのパワーが――直樹先生が侮れないと言っていたそのパワーが、もしかして直樹先生の作っていたガードに穴を開けた、なんてことがあるのかしら。

クールで、どこか人を寄せ付けない彼の、本当の顔を。

そして――わかっているのかしら。お姉ちゃんは。
本当はわかっているからこその、今日のこの行動なのかもね。


……直樹先生。
あなたはいつ、答えを出すのかしら?
今あたしがしたことが、それに繋がったりすればいいのだけど。
いい加減、はっきりしてあげたら?
あたしは大分前に、いちぬけた、しちゃったけど。
そう。だってわかってしまったのよ。
あたしのためには、あなたはきっとあんなに表情を変えてくれないことを。



穏やかな風が吹いて、桜の枝が揺れている。わずかに花びらが散り、舞った。
確かに美しい風景。

だけどあたしは、実のところあまりそれを好きではない。
やっぱり桜は、青空の下、麗らかな陽射しを浴びているのが、春らしくて好きだ。
寒い冬が終わり、暖かい季節が来たのだと知らしめる光景だから。

明日もいい天気になりそうね。満開の桜を改めて太陽の下で見てみようかしら。
そんな思い付きと共に、あいつの顔が頭に浮かんだ。何を考えているのか分かりやすい、同い年のあいつの顔。そうね、あいつと一緒に、桜の下を歩くのも悪くないわね。
暖かい陽射しを浴びながら。

「松本さーん。飲んでるー?」

同期の男子部員が、声をかけてきた。

「もう1本もらおうかしら」

あたしは夜桜を見ているうちに少し冷えた体を温めるべく、もう1本缶ビールを開けたのだった。




☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

松本妹目線で、花見大会を描いてみました。
彼女は、私の中で、頭がよくてしたたかな子。うまく立ち回って、いつの間にか幸せを手に入れているタイプ、という印象があります。
そんな彼女だからこそ、姉よりもいち早く直樹の気持ちに気づいて手を引いた、あるいはもっと前に、なかなか自分の心を見せない直樹に自分とは合わないと本能的に気づいて本気にならなかったのかな――と思ったりしています。


この話を書くにあたり、原作読んだら花見大会の日時は4月24日(土)となってました。
今からすると、東京はもう桜散っちゃってますよね……でも原作では満開。
開花時期、早まってきてるのを実感してしまいました。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Re: マロン様
コメントありがとうございます!

体調は大丈夫です!
ただちょっと新学期が始まってバタバタしていてなかなか更新できずにおります。すみません!

新鮮って言っていただけて良かったです。
この人目線だと、一歩離れた所から人間関係が見えておもしろいかな~と思って書いてみました。(^-^)
そうですね、一歩引いたこのポジションだと、直樹の行動とその意味が見えてきたりするんですね。
特に綾子さんは、ダブルスで直樹と組んでいたので、結構近いポジションで直樹の性格とか行動とかを感じる機会もあったと思うんです。勘が鋭いこの人のこと、直樹が普段張っているガードもよく感じていただろうな、と。

私としては、彼女は今までにないくらいに本気で直樹に恋している姉を間近で見ていて、琴子のことが特別ならプライドの高い姉の為にそろそろはっきりしてあげてほしい、と思っていたのではないかと思います。
Re: 紀子ママ様
コメントありがとうございます!

返信が遅くなってしまってごめんなさい!

私の中での綾子さんのイメージはそうなんですよね。優秀な姉を持っていたからこそ、勘が鋭く、したたかな性格がはぐくまれたのかも?と思っています。

かなり洞察力も鋭そうですね。入江くんのことも、多分本気になる前にこの人はダメかも、と本能的に悟っていたのかもしれません。
綾子さん目線、面白いって言っていただいてよかった(^-^)
こういう、当事者から一歩離れた所から見たお話、実は好きなんです。また、そのうち書いてみたいと思います。
Re: たまち様
コメントありがとうございます!

はい、珍しいですよね。確かに原作ではスパイス的なポジションだったかもしれません。
でもたまちさんのおっしゃる通り、あの3人の関係は綾子さんやその彼氏みたいな一歩離れたところから見てみればよくわかりますね。
書いてみて、自分ではこの人目線、結構楽しかったです。(^-^)

私も姉は好きです。ホント潔いし、いい女って感じですよね。

Re: ねーさん様
コメントありがとうございます!

このお話、好きって言っていただけて嬉しいです!ありがとうございます!

そうですね、綾子さんももてるから、琴子はちょっと自分より下に見ちゃっていたところはあったでしょうね。でも、綾子のポジションから見ていると、その下に見ていた琴子が実は直樹を変えていっている、ということが垣間見えていたと思います。そのことからも、琴子のことをこの夜桜のころには一目置いていたのではないか、と。

直樹は観賞専門(笑)。綾子から見ると、そうだっただでしょうね。ホントに深くかかわると面倒な男ですもんねえ。
確かに!野次馬的な興味はあったかも!
コメント見て私も納得しました。ありがとうございます。

(*^_^*)
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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