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眠り姫は待ちきれない 19
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・・・・・・・・・・・・

「け、け、けっこん!?」

大声で叫んだのは、果たして誰だったのか――

入江くんの言葉に、その場にいた皆は間違いなく耳を疑っていた。

けっこん?けっこん……けっこん………

あたしの頭の中では、すでに漢字変換すらできていない。

おばさんも裕樹くんも、呆気に取られたように、何も言えなくなっていた。

「な、直樹くん。結婚って…」

お父さんも、やっとそれだけを口にした。

「もちろん、すぐにってわけじゃありません。俺は夏休みが終わったら、医学部に編入してゆくゆくは医者になります。そうしたら、琴子と結婚したいんです」

入江くんが淡々とそんなことを言う。
あたしはもう、わけがわからなくなった。
けっこん……結婚……だけじゃなく、医者って……。
…そりゃ、入江くんは天才だもん。お医者さんにだってなれちゃうだろうけど。
でも、こんなに突然、どうして――


「しかし、医者って、そんな……だって、イリちゃんは……」

お父さんが戸惑いながらそう言った、その時だった。

「アイちゃん」

リビングに入ってきたおじさんが、お父さんに声をかけた。

「直樹は本気だ。本気で、医者になろうとしている。そうだな、直樹」

お父さんの向かいのソファに座ったおじさんは、入江くんを振り返った。
それは、あたしが初めて見るおじさんの真剣な――どこか厳しい顔だった。

「はい」

入江くんもまた、その真剣さに応えるように返事をする。

「俺は今のまま、一人で生活しながら医者を目指すつもりです」

「い、イリちゃん……それじゃ……」

お父さんが、さらに戸惑ったようにおじさんを見た。
おじさんは一度ふっと息をつくと、お父さんを見返した。

「昨日、直樹と話をしたんだ。確かにわしは、直樹に会社を継いでほしかったが……どうしても医者になると言って聞かないんだ。それも、独力で生活しながらやり遂げたい、と言ってね」

そう言ったおじさんは、いつもと同じ、穏やかな顔をしていたけど、どことなく寂しそうだった。

「小さい時から、自分のしたいことややりたいことを言わなかった直樹が、自分の意志を口にしたのは、これで2回目だな。1回目はこの家を出ていった時だったが」

「イリちゃん……」

「いや、子供というのは、いつの間にか大きくなっているもんだなぁ」

おじさんはしみじみとそう呟くと、ふう、と息をついた。
そして。

「琴子ちゃん」

おじさんがあたしを呼んだ。眼鏡の奥の小さな目が、優しさを湛えてあたしをじっと見つめていた。

「突然こんなことを言って、戸惑っているだろうが……しかも、医者になるにはまだまだ先が長い。それまで、直樹を待っていてくれるだろうか」

おじさんの声は、少しだけ緊張しているような気がした。

「こんなことを突然言い出すような我儘な奴だが……それでも、嫁に来てもらえるだろうか」

え――……
嫁…嫁…って……
あたしが……?
入江くんの………?

「は、はいっ」

気がつくと、あたしは声を張り上げていた。

「アイちゃん」

今度はお父さんの方を向いておじさんが呼び掛けた。

「この直樹を、大切なお嬢さんの生涯の伴侶として認めてもらえるだろうか」

「イリちゃん……」

お父さんは、目を見張っておじさんをみつめていた。そして、少しの間考え込むように目を閉じると、目を開け、入江くんを見た。

「……直樹くん。こいつはね、何にもできない奴なんですよ」

入江くんに向かって、まるで訴えるかのように言う。

「頭は悪いし」

「……わかってます」

ぼやくようなお父さんの言葉に、入江くんが答える。

「料理はできないし」

「わかってます」

「おっちょこちょいの早合点で失敗ばかりで」

「わかってます」

……ち、ちょっと。
もう、そんなに欠点ばっかりあげつらうことないじゃない!
憤慨して、あたしが口を挟もうとしたら。

「だけど」

そこで、少し、お父さんの声の調子が変わった。

「明るくて根性はあるし、一途でかわいい奴なんですよ」

――……
お父さん…

優しい微笑を浮かべて話すお父さんに、あたしは何も言えなくなってしまった。

「わかってます」

入江くんもまた、微笑を浮かべて答える。

「……それなら」

ふっと笑うと、お父さんは、言った。

「俺が反対する理由は何もないよ」

その途端。
きゃあああっと悲鳴みたいな声がして、あたしはおばさんに抱きつかれていた。

「あああ、まさか今日、こんなことになるなんて……!琴子ちゃん、ホントにもう、よかったわねぇえっ」

ぎゅうっとあたしを抱き締めると、今度はあたしの両手を取って跳び跳ねるようにはしゃいでいる。

あたしはというと。
おばさんにされるがまま、ただただぼうっとしていた。

だって……だって……。
入江くんが、あたしと結婚……?
全然、頭がついていってない。
ああ、何だか顔が熱い。もうのぼせそう……

そんな中、ふと入江くんと目が合った。
入江くんはあたしを見て、可笑しそうに笑っている。
それでいてどこか優しいその顔を見ていたら、少し……ほんの少しだけ落ち着いてきた。

入江くんがお医者さんになるとか、そうしたらあたしと結婚するとか。
まだよくわからないし、実感も沸かないけど。
でも、こんな優しい顔の入江くんを見ていたら、何だかすごく、温かい気持ちになる。
すごくすごく、幸せな気持ちになる――

「ちゃんと約束を守ったな。……直樹」

おじさんが今度は入江くんを見て言った。

「……ああ。でも、これだけじゃないだろ」

そう答えた入江くんに、おじさんが目を細めた。

「……そうだな。まだまだ先は長いからな。二人にとっては」

二人がそんなことを話してるのを、あたしはまだうまく働かない頭で聞いていた。

何を言ってるんだろう……
約束って……?

「それにしても、まさか結婚を持ち出すとは……お前も意外に……」

おじさんはそこまで言うと、堪えきれないようにくくく、と笑った。

「……なんだよ」

「……いや。これも、琴子ちゃんのお陰かな」

おじさんはそう言うと、

「さあ、アイちゃんの心尽くしの料理、いただこうか」

そう言って、お父さんの肩を軽く叩いた――。


***


何だか眠れない――

あたしはベッドの上で寝返りを打った。

あれから。
あたしの退院パーティーは、急遽“退院&婚約祝賀パーティー”となり、異様な盛り上がりを見せた。
おばさんはものすごく喜んで、急いで横断幕を作り直したりビデオ撮影やら写真撮影を始めたり、もう大忙しで。
あたしはあたしで、何だかずっと夢心地だった。それこそ、お父さんのお料理の味もよくわからないくらいに。

退院したばかりで疲れているだろうということで、あたしは先にお風呂をいただき、早々に自分の部屋のベッドに横になっていた。
前にここにいたのは、あの日、バイトに行く前だったよね。まさかここに戻ってきた時に、こんなことになってるなんて、夢にも思わなかったよ。

入江くんが、お医者さんになる――
そうしたら、あたしと結婚する――

そんな言葉が、頭の中でずっと繰り返されている。
でも、まだあたしはその言葉を本当に消化しきれていない。
まるで、自分のことじゃないみたいな、そんな気がする。

べッドに入って、もう結構時間が経ってる。
――ああ、ダメだ。何だか目が冴えちゃって眠れそうにない。
水でも飲みに行こうかな……あたしはベッドから起き出すと、そっと部屋を出た。

薄明かりのついてるあたしの部屋から出ると、廊下は真っ暗だった。鳥目のあたしは手探りで照明のスイッチを押しながら下に降りていく。

1階もまた、真っ暗。さすがに皆、寝たんだね。
あたしはゆっくりと廊下を進んでいき、キッチンまでやって来た。

コップに水を汲み、ごくっと飲み干すと少し気分が落ち着いた気がする。あたしはふうっと息をついた。

もう少し飲もうかな……コップをもう一度取り上げ用とした、その時。

カタン!

何か物音がした。

えっ……な、何!?
ダイニングの方から……?
あたしは息を潜めて音のした方をのぞいてみる。でも、暗闇の中、何も見えない。

気のせい……と思っていたら。

カタン!

また、暗闇から音が聞こえた。

え……
ま、ま、まさか……オバケ……!?

あたしがその場に尻餅をついた時。

「何やってんだよ」

「い、入江くん…!?」

キッチンを覗いたのは入江くんだった。床に座り込んでいるあたしを呆れたような目で見下ろしている。

「ああ、びっくりした~!もう、オバケかと思ったじゃない」

「……。お前にだけはオバケって言われたくねーな」

入江くんはちょっと憮然として言いながらキッチンに入ってきた。

「ほら、立てよ」

「う、うん。ありがと」

入江くんがあたしに手を差し出してくれて、あたしはちょっとドキドキしながらそれを取った。
やっぱりまだ、入江くんに触れるのは何だかドキドキする。そう思っていたら。

――ぐいっ

その手を引っ張られ、気づいたらあたしは入江くんの腕の中にいた。

う、うわ……
胸の鼓動が速まるのがわかる。

「……眠れないの?」

入江くんの声が、すぐ耳元で聞こえた。

「う、うん」

「……俺も」

え。
あたしは入江くんを見上げる。

「何だか、いろいろ思い出してたら、妙に目が冴えて」

「そうなの?」

「意外?」

聞き返したあたしに、入江くんはくすっと笑った。

「うん、だって……」

それって、あたしと同じだから。
ああ。何だか、あたし、すごく入江くんにいろんなことを聞きたい気がする。
でもこうして腕の中にいると、ドキドキしてうまく考えがまとまらない。

「い、入江くん」

「……何?」

「あの……結婚って……ホントにあたしでいーの?」
そう。一番聞きたいのは、やっぱりそれだった。
お父さんが言った通り、あたしは何にもできない。
それなのに、入江くんみたいに完璧な人と結婚なんて……

「ホントに…お前には降参したよ」

入江くんが、息をつくように言う。

「それから、……感動した」

え――?
感動って――

よくわからないでいるあたしを、入江くんはじっとみつめている。

「だから、俺もそれに見合う男になろうと思う」

え、っと……どういうことなんだろう……
どうして入江くんが、あたしに見合うように……なんて。
戸惑うあたしを、入江くんは真剣な目で射抜いた。

「だから、待ってろ」

―――………

入江くんのその言葉は、まるで呪文みたいだった。
あたしは入江くんの腕の中、固まったみたいに動けなくて。
ああ。何だかもう、気持ちがどんどん、溢れ出してくる。
それはあたしの中で大きく大きく膨れ上がって、止められない。
温かくて、ドキドキして、そして――幸せで。

この気持ちを表す言葉を、あたしは一つしか知らない。

「入江くん、大好き」

あたしの中の、一番大切な気持ち。
ずっとずっと――どんなことがあっても、きっと変わらない気持ち。

そして、入江くんは答えた――あたしの大好きな、ちょっと苦笑したみたいな顔で。

「……知ってるよ。充分ね」



☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

直樹と重樹がこの前日にどんな話をしたのか。それはまた別のお話として書いてみたいと思っています。
さて、いよいよ次で最終話(エピローグ)です。
もう書き終わっているので、少し修正してからアップします~
(^-^)

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Re: 紀子ママ様
コメントありがとうございます!

入江くんがかっこいいって言っていただけて嬉しいです。
この直樹は、琴子が自分を守ってくれたことをわかっているので、その分カッコよくあってほしいと思っています。

ああ、確かに原作の琴子ちゃんは逃げ場なかったですよね。
そして恋愛期間もなかったし。それは可哀想だったなあ。

そんなことを、この「IF」話では払拭してしまいました。
これこそ二次創作の醍醐味!と、私が楽しんでいるだけですが(笑)。
他のお話も頑張りますね。
No title
うん!今までの、直樹で、一番かっこいいかもね。
Re: なおちゃん様
コメントありがとうございます!

一番かっこいいですか?よかったです。
このお話の直樹については、カッコよくあってほしいと思っていたので、嬉しいです。
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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