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眠り姫は待ちきれない 14
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・・・・・・・・・・・・

「今日の午後、脳の…詳しい検査をしてもらったんだが」

そう言うお父さんは、朝見た時よりももっと疲れきっているように見えた。

「全く異常が見当たらない。何故琴子の意識が戻らないのか、今の医学ではわからない、と言われてね……」

今、あたしの病室の片隅で、お父さんと入江くん、それにおばさんが椅子に座って話をしている。
あたしはそんな皆を天井近くの高さから見ていた。
そうしていると、事故が起きたあの日の夕方が思い出される。
あれから、今日で4日。
でも、もっとずっと時間が経ったような気がする。
あたしですらそう感じるのだから、ただ待つことしかできない皆は、もっと長い時間に感じているのかも知れない。


おばさんが病室に駆け込んで来てから程なくして、お父さんも病室に戻ってきた。
二人はそれまで、あたしの担当の先生から精密検査の結果を聞いていたのだという。


検査結果に異常はない。
いつ目覚めるかわからない――

そんな言葉を告げられ、お父さんもおばさんも戻ってきた時、顔はすっかり青ざめていた。
おばさんはかなり動転していたけど、入江くんに宥められ、今は何とか落ち着いている。でも、すっかり肩を落とし、時折鼻をすすっていた。

そして、入江くん――
少し俯きがちのその顔がどんな表情をしているのか、あたしからはよく見えない。あたしは少し浮かんでいる高さを下げ、入江くんの様子を窺った。
入江くんは、じっと前を見つめ、口を閉ざしていた。
固い表情。まるで感情が読み取れない。
けれど、それでいて、どこか違うところに思いを馳せているようにも見える。


「まさか、こんなことになるなんてなあ…」

深く溜め息をつきながら、お父さんが呻くように言った。

「こうして見ると、今にも目を覚ましそうなのになあ……ほんと、単に寝てるだけみたいなのに」

あたしの〈身体〉の顔を見つめているお父さん。
おばさんが大きく肩を震わせ、しゃくりあげた。

「そういえば、直樹くんはどうしてここに?」

「あ…それは」

ふと思い出したように問いかけたお父さんに、それまで黙っていた入江くんが顔を上げた。
そして、床に置いていた鞄を取り上げて開けると、中からクリアファイルを取り出す。そこから、さらに数枚の紙を取り出してお父さんに差し出した。

「これは……?」

少し戸惑い気味に受け取ったお父さん。

「……脳外科で成果を上げている病院の資料です。もっと専門的な医師のいるところで診てもらった方がいいんじゃないかと……ちょっと前から気になっていたんです。ここは、同じような意識障害の患者が意識を回復したという実績もかなり持っている病院です。ただ、遠いのでそこがネックかと……大阪にあるんですが」

「直樹くん……君……」

「お兄ちゃん……」

お父さんもおばさんも目を見張って入江くんを見ている。
そして、あたしも。

入江くん……こんな病院のことなんて、いつ調べたんだろう……?
あたし、今日はずっと入江くんの後をついていたのに。

……あ。
もしかして、朝、一度ここに来て、バイトに行くって出ていってから?
ドニーズに行くまでの間に、調べていたの……?
入江くん、が……?
あたしのために……?

「お兄ちゃん……あなた、今まで全然、お見舞いにすら来なかったのに、こんな……」

おばさんが、食い入るように入江くんを見つめ、言った。

「あなた、本当は……」

――ガタッ。
入江くんが椅子から立ち上がった。床に置いてあった鞄を肩に掛けると、お父さんの方へと向き直る。

「今日はこれをおじさんに渡したくて。よかったら、それを読んで検討してみて下さい」

おばさんの方には見向きもせず、入江くんはお父さんにそう言うと、病室のドアを開けた。

「ちょっと、お兄ちゃん!」

おばさんがその背中に声をかけたけど、入江くんはそのまま、振り向きもせずに病室を出ていってしまった。
残された二人は、呆然と閉じられたドアを見つめている。
あたしもまた、同じようにただ入江くんを見送ったけれど――はっと我に返り、急いで入江くんの後を追った。
ドアをすり抜けて廊下に出ると、入江くんの姿はもう見えなくなっていた。あたしは病院の出口へと身を翻す。

入江くんは、あたしを助けようとしてくれてる。

あたしはそれがわかって、じわっと胸が温かくなるのを感じた。
それと同時に、あたしの心の真ん中にあるものが、もっともっと大きくなってくる。
それは、あたしが一番大切にしている気持ち。

――伝えたい。今。

高揚する心。
後を追う足が、自然と速くなる――

「入江くん!!」

あたしが入江くんを見つけたのは、病院のエントランスだった。
まだ診療時間中なのか、何人もの人が出入りしている正面玄関から、入江くんが出てきた。

夕陽が1日最後の輝きを放つ中。
病院の正面玄関と門の間、向日葵が咲き誇る花壇の脇を、入江くんは足早に歩いている。

夏の夕陽の輝き。
向日葵の鮮やかな黄色。
それと同じくらい、入江くんが眩しく見える。
あたしの一番大切な人。

「入江くん――大好き!」

心のまま、そう叫んだ時。
入江くんが、不意に足を止めた。
後ろを歩いていた人が、急に止まった入江くんを怪訝そうに見ながら追い越していく。
あたしは、息を飲んでその背中を見つめた。
入江くんが、立ち止まっていたのは、ほんの数秒だったと思う。
けれど、あたしには、もっとずっと長い時間に感じた――



入江くんが、再びゆっくりと歩き出す。
そのまま、遠ざかっていく背中。
あたしは黙って、その背中を見送る。
確かに、胸は少し、ちりちり痛むけど。

だけど――



「琴子」

気がつくと、すぐ横にモトコさんが来ていた。

「モトコさん。あたし……」

この胸にある、たくさんのあたしの気持ち。
言葉にしないと、溢れ出てきそうだった。

「あのね……もし、あたしと入江くんの立場が逆だったら――魂になっちゃったのが入江くんの方だったら、あたしは絶対絶対魂の入江くんがわかるって自信があるんだ」


――そう。
たとえ姿が見えなくても、声が聞こえなくても。
きっとあたしは、入江くんを見つける。

こんなに、こんなに大好きだから。
絶対に、見つけてみせる。

「でも、あたしはね、今、すごく幸せなの。入江くんがあたしのことわからなくても」

「……わからなくても?」
「うん」


今、わかった。
あんな、嫌な気持ちのまま、風を起こして迷惑をかけたあたしだけど。

でも、あたしは、ずっとずっと、入江くんのことを想っていたいの。
どんなことがあっても、きっと。
この気持ちはなくならない。
なくしたく、ない。

「あたし、これからずっと、このまま……魂のままかも知れないよね…?」

「なっ…あんた、何言って」

「でも、それでも、死んじゃうよりずっといいよね」

死んでしまってこの気持ちもなくなってしまうより、今のあたしはずっと幸せだ。
ずっと入江くんが好きって気持ちを持ったままでいられるから。
それだけで、こんなに、温かい気持ちになれるから。
夕方の、少しだけ涼しくなった風が通りすぎた。

「あたし、…入江くんに出会ってよかった」

あたしは、そっと呟く。

「入江くんを好きになって、よかった」

あたしの好きな人が、入江くんでよかった。

想いが風に乗って、入江くんに届きますように。
あたしは祈るように、想いを言葉に紡いでいた。

「全く、あんたって……」

モトコさんは溜め息をついて、そして呆れたように笑った。


***



「えっ、今日はお兄ちゃんバイト休みなの?」

「ああ」

「じ、じゃあ……もしかして……」

「何?」

「ううん……」

裕樹くんは首をふり、俯いた。

翌朝。
夏休みらしく、遅めの朝ごはんを食べ終えた入江くんと裕樹くんが、そんな会話をしている。
裕樹くんは、何だか元気がない。それでいて、さっきから入江くんの方をちらちら見ていて、様子を窺ってるように見える。

「あのさ、お兄ちゃん」

「ん?」

「琴子…目を覚まさないかもしれないんだって…昨日、ママから電話があって、パパと話してるの聞いたんだけど」

「……ああ」

「今日、パパ、病院に行くって言ってた」

「親父が?」

「うん。本当は予定があったみたいだけど、キャンセルして行くって」

裕樹くんが入江くんを見上げた。

「今日、親父いるのか?」

「うん。今日、日曜だし。まだ寝てるみたいだけど」

「そうか……」

そう言って、入江くんは何だか考え込んでいる。
裕樹くんはしばらく何か言いたそうに入江くんをじっと見ていたけど、やがてキッチンの方へ向かっていった。どうやら片付けをするらしい。
水の流れる音が聞こえてくると、入江くんは床に置いてあった鞄から本を取り出した。そしてリビングのソファに深く腰かけるとページをめくる。

あれ。そういえば。
入江くん、珍しく、朝ごはんの後もリビングにいる。
いつもなら――と言っても、入江くんが独り暮らしを始める前の話だけど――大抵、終わるとすぐに自分の部屋に戻っていたのに。

陽当たりのいいリビング。窓から射し込む光が、入江くんの顔を照らしている。
すごく、真剣な顔。そして、すごく集中している。

天才の入江くんがこんなに集中してるって、何だかすごい。できないことなんてないって雰囲気がある。
うん、やっぱりカッコいいな……
あたしは、そんな入江くんに見惚れていた。

それから、しばらくして。

「お兄ちゃん、コーヒー淹れたよ」

裕樹くんがお盆にカップを載せて運んできた。
入江くんの反応はない。じっと本に没頭してるようだった。
裕樹くんはそっと、入江くんの座るソファの前のテーブルにカップを置く。
ふと、入江くんの方を見た裕樹くんが、はっとした顔をした。

「お兄ちゃん、その本……」


「おはよう」

ドアが開いて、入ってきたのはおじさんだった。

「あ…パパ。おはよう」

裕樹くんのその声に、入江くんが顔を上げた。

「ああ直樹。この数日、来てくれてたんだってなあ」

おじさんが入江くんを見て顔を綻ばせた。

「ママがずっと病院に行ってしまっているから、助かったよ。わしはここんとこ帰りが遅かったし……」

「……親父。話があるんだ」

おじさんの話を遮って、入江くんが言った。

「ん?どうしたんだ急にかしこまって」

「…俺」

さっき、本を読んでいた時のような真剣な顔をしている入江くん。

「夏休みが終わったら、俺、医学部に編入しようと思う」

リビングの空気が、一瞬にして固まった――
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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No title
天才の、入江君、お医者に、なって、琴子ちゃんを、助けてくれる、つもりかな?入江君は琴子ちゃんを、たすけられるのかな!
Re: たまち様
コメントありがとうございます。


はい、実は調べていました。
琴子がいない、自分の前に現れないという状態は、おそらく今の彼にとって不自然だったと思います。
だから、本人は無自覚ですが結構限界来ちゃっていたのかもしれません(笑)。

恋愛偏差値!直樹低そう(笑)。
自分でも自分の感情がよくわかっていないですからね。

そして、休日のリビングに直樹の爆弾発言が!
限界もここに極まれり、の展開になるようです・・・。

(*^_^*)
Re: 紀子ママ様
コメントありがとうございます!

びっくりしていただけました?
筆者としては嬉しい限りです。

モトコさんとガッキーは・・・・役に立ってくれるといいのですが・・・(笑)。

そして、ここで医者への夢、です。
愛ですね、愛!!
(*^_^*)

重樹さんにしてみればもう挙動天地!って感じでしょうが。
そして、まだまだ怒涛の展開は続く予定です。

もう少しお待ちくださいませ。
m(__)m
Re: ねーさん様
コメントありがとうございます!

この設定、考え付かなかったですか・・・よかった!
テンションも上げていただいて何よりです。
これを下げないようにしないと・・・

はい、リンクしていただきました~!
私もつながりが広がって嬉しかったです!
これまで忙しさにかまけて、あんまり他の素敵サイト様にお邪魔していなかったのですが、
こんなに素敵な出会いがあるなら、もっといろいろ訪問しておけばよかったです。

わあ、ファンと言っていただいてすっごく嬉しいです♪
作家さん談義楽しそう~!私も混ざりたいです!

こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします。
私もそちらのサイト、遊びに行きますね~!





Re: なおちゃん様
コメントありがとうございます!

一気に、入江くんはこんなことを言い出しました。入江くんは、琴子の陥っている状況を知らないので、こうして現実的に対処するしかないのですが・・・
続きは、もう少しお待ちくださいね。
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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