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眠り姫は待ちきれない 13
もう一度書きますが。

このシリーズのテーマは「荒唐無稽」ですっ!

そんなわけで、どんなお話でもどんと来い、という方はつづきからどうぞ。

... Read more ▼
・・・・・・・・・・


地の底から聞こえるような轟音は、凄まじい勢いの風の音だった。
まるで嵐の中のように、ドニーズの店内で風が吹き荒れている。

ガシャーン!

グラスが割れた音。
紙ナプキンが舞い上がる。
窓が開いてるわけでもないのに、突然起こった突風。
店内は完全にパニックになっていた――

「な、何これっ」

「いやあっ」

あちこちから上がる悲鳴。

あたしは宙に浮かびなから、その様子を呆然と眺めていた。
この嵐のような風が、まるであたしを中心に吹き荒れているように見えたから。
何これ…
何が起こったの……?

「怖いっ、怖いよぉっ」

小さな子供の声が響き渡った。
あたしは、声のした方を反射的に振り返る。

そこにいたのは、5歳くらいの男の子。
隣にいるお母さんらしき女の人にしがみついている。

「ママ!あそこ!人が宙に浮いてるよ!」

その男の子が叫んだ。

――え?

その手は、あたしを、…指差している。
そして、その視線は。

あたしを、捉えてる――?
あたしが、見えるの……?

「ねぇママ、見て!ほら、髪の長いお姉さんが、あそこに…!」

風の向こうで、怯えた目であたしを食い入るように見つめ、お母さんの服の裾を引っ張りながら、男の子はまた大声を上げた。

「…えぇ?何言ってるの。宙に浮かんでるなんてあるわけないでしょ」

「いるよぉ!ほら!こっち見てる!」

「お姉さんなんていないわよ、もう、どうしたの。ああ、それに何なのこの風!」

強い風の中、それでもあたしを指差している男の子。
真っ直ぐなその目で見つめられたあたしは、その場で固まったように動けなくなった。

その時。

「ちょっとあんた!」

いきなり耳元で怒鳴り声が聞こえ、あたしははっと我に返った。

「全くもう、何こんな騒ぎ起こしてんのよっ!ホントにあんたって迷惑な子ね!」

「モトコさん!?」


あたしを後ろから抱えるようにしながら怒鳴っているのは、モトコさんだった。

「ほら、こっち来なさいよ!」

すごい力で引っ張られ、あたしはの体が持ち上げられた。そのまま、一気に上昇していく。

ドニーズの天井を通り抜ける直前、あたしが最後に店内を見た時、あれほど強く吹き荒れていた風が収まっていた。

え…
何だったんだろう、あれは…

モトコさんに引っ張られ、あたしはお店の外に連れ出された。
そのまま上昇し、ずいぶんな高さまで来てから、やっとモトコさんはあたしの手を離した。

「ちょ…ちょっと、何なの、もうっ」

バランスを崩しそうになりながら、文句を言ったら。

「何なのじゃないでしょっ!あんな騒ぎを起こしといて」

反対にまたモトコさんに怒鳴られた。

「騒ぎを起こして…って…あたし、何にもしてないけど」

かなり下の方に、ドニーズの屋根が見える。
あのお店の中でまるで嵐みたいな風が起こるって…普通じゃありえないことよね。そんなこと、あたしにできるわけない。

――だけど。

「あれはねぇ、あんたが起こしたの!魂っていうのは、肉体がない分、感情に支配されやすいの。そして、その強さによってはあんなことを起こしたりもするのよ」

え……

「あれ、あたしがやったの…?」

「そーよ!ホントにあんたってどこまでもイレギュラーなことしでかしてくれるわねっ」

呆れたような目をしているモトコさん。

「まあ、とはいってもそんなに起こることじゃないけどね。よっぽど強い感情…それもマイナスのものを持っていないとあそこまでのことはできないわ」

そう言うと、モトコさんはふう、と息をついた。
あたしはただ呆然とモトコさんを見つめる。
あたしが、あの風を……?
そんな…そんなことしようなんて、思ってもいなかったのに。
ただ、あの時は何だか…気持ちがぐちゃぐちゃになって、溢れそうになってて。
気がついたら、あんなことになってた――


「ほら、言ってみなさいよ。何があったの?」

口調はちょっと乱暴だけど、モトコさんは心配そうな目をしてあたしを見ている。
その目を見たら、何だか…気が抜けて、ちょっと安心して。
あたしはさっき見たこと、感じたことを話していた。
病院であたしを心配してくれてる金ちゃんを見て、これが入江くんだったら…って思ってしまったこと。
そんな自分が嫌だったこと。
仲良さそうに話す入江くんと松本姉を見たこと。
すごくお似合いだって周りにも言われていて、すごく嫌だったこと。
入江くんにあたしがここにいることを気づいてほしい気持ち。
そんな思いがぐちゃぐちゃになって、気づいたら店内に突風が吹き荒れていたこと。
そうして話しているうちに、だんだんと気分が落ち着いてきた。

モトコさんはずっと黙ってあたしの話を聞いてくれていたけど、話が終わるとまたふうっと溜め息をついて、言った。

「ホントにあんたって…、本当に彼が好きよね」

「そ、そうよ!ずっと入江くんが好きよ」

…そう。
こんな魂だけの状態になっちゃったって。
あたしは、ずっと…入江くんが好き。

それだけは、ずっと――変わらない。

「だけどね」

気づいたら、モトコさんが、真剣な目であたしを見ていた。

「あんまり好きすぎて、彼のことよく見えてなかったりするんじゃない?あんた」

え…?
あたしはわけがわからなくて、思考が止まってしまった。

「見えてないことって…」

あたしが?
入江くんのこと?
あたしに、入江くんの何が見えてないっていうの…?

「ま、あんたらしいけどね。さっきの嵐も」

モトコさんがくすっと笑った。

「だけど、あれは迷惑だったわよね~。お店の中、めちゃくちゃにしちゃって。今頃、彼は片付けやら掃除で大変なんじゃないの?」

「あっ。そ、そうかも」

そ、そうよね…
グラス割れたりしてたし、確かに掃除が大変そう!

「あ、あたし…手伝ってくるっ」

「バカねっ、魂のあんたに手伝えるわけないでしょ!」

「え…あの、さっきみたいな変な力でできたりしないの?」

「しないわよ!」


***


ドニーズの店内は、本当に大変なことになっていた。
あたし達は、あの男の子がもうお店にいないことを確認してから、そっと店内に入った。
入江くんたちバイトの人達は、皆原因はよくわからないながらも、ともかく片付けをしながら、お客さんたちにひたすら謝っていた。中には、せっかく入ってきたのに荒れた店内の様子を見て、すぐに帰っちゃったお客さんもいて…

「あーあ、今後、売上が激減したらあんたのせいね」

なんて、モトコさんには言われちゃったけど…


宙に浮かぶあたしの下には、割れたお皿を拾い集めている入江くんがいる。

ああ、あたしって……
また、入江くんに迷惑かけちゃった。
あたしって、なんでこうなんだろう。

「そろそろ掃除機かけていいかしら」

「…あ、ああ。そうだな」
声をかけた松本姉に、入江くんが答える。

「どうしたの、またぼーっとして。あ、原因でも考えてるとか?」

松本姉が小声で訊いた。

「……いや」

入江くんは首を振ってそれだけ答えると、また黙々と作業を続けている。


うー…
何だかまだ、入江くんのそばに寄ってくる松本姉が気になってしょうがないけど。
でも確かに入江くん、何だか様子がいつもと違う。
何か、考え込んでるような…

ああ、そういえば、あたしこうして魂になっちゃってから、入江くんのこんな表情、結構よく見てる気がする。
ぼーっと考え事するなんて、あたしはしょっちゅうで理美やじんこによく言われるけど…
入江くんがそんな風になるなんて、何だか…らしくない。

そうこうしているうちに。
ようやくお店が元通りになって、いつものように営業ができるようになった時には、入江くんのバイトの時間も終わりになっていた。
更衣室から着替えを終えた入江くんが出てくると、そこには松本姉が待っていた。
もう、全く!何でいるのよ!
…って。さっきみたいなことは起こさないようにしないとね。あたし。

「お疲れ様。今日は何だったのかしらね?」

「………」

入江くんはそれには答えず、バックヤードを出た。店内を歩く入江くんの後に松本姉も続く。
お店の外に出たところで、また松本姉が入江くんに話しかけた。

「ねぇ、あの風、どうして起こったんだと思う?お客さんには空調のトラブルってごまかしたけど、空調は全然問題なかったし」

「……」

入江くんはまた、返事をしない。

「さっきバイト同士で話してたんだけど、中にはポルターガイストじゃないかって言ってる人がいたわ」

松本姉がくすっと笑いながら言う。

「…ポルターガイスト?」

そこで初めて入江くんが反応した。

「そう。その子ね、あの風が起こった瞬間、すごい悪寒がしたんですって。本人が言うには、自分は霊感が強い、絶対あの時、何か『いた』んだ、って…、入江くん?」

急に足を止めた入江くんに、松本姉も立ち止まり、振り返った。

「…俺、行くとこあるから。じゃ」

「え…ちょっと、入江くん!?」

いきなり走り出した入江くんを、松本姉が目を丸くして見送っている。

入江くん……?どうしたんたんだろう。
そっちは、住んでるマンションとはまるで逆の方向だ。
あたしはもちろん後を追った。
もう夕方とはいえまだまだ蒸し暑い中、入江くんは走っていく。

…そして、辿り着いたのは、あたしの入院してる病院だった。
建物に入り、迷いなくあたしの病室まで来た入江くんを、あたしはただもうびっくりして見つめていた。
だって…今日の朝も来てくれたのに。また夕方、来てくれるなんて。

――コンコン

ドアをノックした入江くんに、中からの返事はまたもなかった。
入江くんがそっとドアを開けると、やっぱり中には誰もいない。
いるのは、ベッドの上のあたしの〈身体〉だけ――

入江くんはゆっくりと歩を進め、あたしの〈身体〉のそばまで来た。
な、何だろう……入江くん。
入江くんが、あたしの顔を見てる。
食い入るように、じっと。
そして、言った。

「お前……本当に、お前か…?」

え……
な、何……?
どういうこと?
あたしは入江くんの言った言葉の意味がわからなくて、戸惑いを覚える。

その時。

ダダダッ…
廊下の方から、すごい勢いで走ってくる音がした。と思ったら。

ばんっ!と、いきなり病室のドアが開いた。

「琴子ちゃん!」

入ってきたのはおばさんだった。

「ねぇ琴子ちゃん!そんなことないわよね、すぐに…すぐに起きるでしょう!?」

あたしのベッドのそばにいる入江くんにも気づかないように、おばさんはあたしの〈身体〉に駆け寄るとそう叫んだ。

「琴子ちゃん…まさか、もう目を覚まさないなんてあるわけないわよね?すぐに起きるでしょう?ねぇ、琴子ちゃん!」

「ちょっ…落ち着けよ、お袋っ」

あたしの〈身体〉の肩を揺さぶるおばさんを入江くんが抑え込んだ。

「どうしたんだよ。ちゃんと説明しろよ」

「だ、だって……、琴子ちゃんが…」

興奮しきっていたおばさんが、入江くんの言葉にようやく少しだけ落ち着きを取り戻した。

「琴子ちゃんが…」

「琴子がどうかしたのか?…検査、受けたのか?」

入江くんの問いに、おばさんが頷いた。その目に涙を浮かべながら。

「どこにも…異常はないって……まだ意識が戻らない原因がわからないって…だ、だから、治療のしようがないって……」

嗚咽混じりに言葉を絞り出すおばさん。

「だ、だから………いつ、意識が戻るかわからない……ず、ずっとこのままかも知れない…って、先生が……」

そこまで言うと、おばさんはわっと泣き出してしまった。

入江くんは、目を見開いたまま、茫然とあたしの〈身体〉をみつめてる。

「お願いよ。お兄ちゃん」

涙を浮かべた目で入江くんを見上げ、おばさんが言った。

「琴子ちゃんを、今すぐ戻して!!」

病室に、重い沈黙が訪れた――。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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No title
いやー‼そんなこと、入江君が、琴子ちゃんに、キッス、すれば?そんなことないよね、琴子ちゃん早く目を覚まして。
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No title
何か?この、お話と、もう一つ.似た様な。お話ありますよね?
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Re: たまち様
コメントありがとうございます!

返信がおそくなってごめんなさい。
自分の中でいろいろ整理することがあり、遅くなってしまいました。
いろいろアドバイスもいただいて、ありがとうございます。
いつもたまちさんのコメントには笑わされ、励まされています!

連載も佳境に入ってきましたし、これからは向かうべきところに一直線に突き進みたいと思います!

はい、ついにサイキックです。
琴子のことだから、いざとなれば直樹の守護霊でも何でもなりそうだなー、とは思っていたのですが、
これではただの迷惑な幽霊ですね・・・・・・笑

琴子に憑りつかれている!!確かに!
現実でもそうですが、心も、ですよね。
しかし、琴子はそれに気づかない・・・・・・

ふふふ、そしてまたしても邪魔者登場です!しかも紀子!
何だか作者が意地悪しているようですね・・・
Re: なおちゃん様
コメントありがとうございます!

入江くん、たとえキッスしたいと思っていても、こうも邪魔者が入るとなかなかできませんね・・・・・・
そんなわけで、お話はまだまだ続きます。
紀子ママ様
コメントありがとうございます!

はい、琴子はついにこんな力まで発揮しちゃいました。
慣れない傍観者の立場に、相当ストレスをため込んでいるようです(笑)。

書いている方も、この状態はなかなかしんどいです。

そして入江くんは・・・気付いたのでしょうか?
でも果たして彼が信じられるかどうか、結構そこが壁かもしれないですね。

Re: ねーさん様
コメントありがとうございます!

返信が遅くなってごめんなさい。
コメント、すごく励みになりました!

連載も佳境ですし、これからは向かうべきところに一直線に進みたいと思います!
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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