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眠り姫は待ちきれない 12
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その後のやりとりを、あたしはただ茫然としながら聞いていた。
先生があたしの現状を話し、入江くんがそれに対していくつか質問して。
専門的な言葉も多くて、あたしには何を話してるのかよくわからなかったってこともある。
でもそれ以上に、入江くんが意識が戻らないあたしのためにこんな風に話をしていることが、ただただ信じられなかった。

そして。
どうやらもう一度、あたしの脳の精密検査をすることになったらしい。

話が終わり、先生が出ていった病室。
あたしと同じく話についていけてなかったらしいお父さんは、まだ驚いているような顔で入江くんの方を向いた。

「直樹くん…いや、あの、俺にはよくわからなかったんだが、琴子の検査って…」

「もしかしたら前回の検査では発見できなかったことがあるかもしれない。そのためにもう一度、頭部の精密検査をしてみると…」

「い、いや、それは何となくわかったんだが。しかし、直樹くんが、こんな…」

お父さんはまだ戸惑っているみたい。
でも、あたしも同じ気持ちだった。
入江くんがここにいることだって嘘みたいなのに。
入江くん、どうして――


「事故が起きてもう今日の夕方で4日になります。脳への衝撃で数ヶ月意識不明になったというケースもある。何か原因があるなら、早いうちにみつけて対処しないといろんな弊害が出ることもありますし」

「あ、ああ…」

「MRI検査をまたすることになります。時間のかかる検査です。できるだけ早く検査を行うということで、今確認中です」

「………」

「では、俺はバイトがあるので、これで」

入江くんは軽く一礼すると、ドアに向かって歩き出した。

「…あ、ありがとう、直樹くん」

お父さんが我に返ったように慌てて声をかける。

「いえ…じゃ、失礼します」

ドアの前で、お父さんの方を振り返った入江くん。

――あ。
今、あたしの〈身体〉の方も見た気がした。一瞬、ちらっとだけ。
それから、入江くんは静かに部屋を出ていった。
あたしはただ突っ立ったまま、入江くんの背中を見送っていた――。



***


「彼、来てくれたわね…」
「うん…」

どこか感慨深げに言うモトコさんに、あたしも頷く。
ホントに…まさか入江くんがここに来てくれるなんて。
しかも、あたしのこと考えて、先生と話をしてくれたなんて。嘘みたい。

…だけど。

「来てくれたのはいーんだけどね…でもそれだけじゃあ、あんたは元の身体に戻れないのよね」

う…
そうなんだよね…。
入江くんに名前を呼んでもらって、キスしてもらわないとあたしは元の身体に戻れない。

「全く…」

トーマさんが腕組みをして溜め息をついた。

「やっと素直になったかと思ったのだがね。あいつもまあ、ホントにまどろっこしい奴だな」

「え?」

「あの時と同じようにしたいなら、さっさとしてしまえばよかったものを。それだけで、欲しいものが手に入ったのにな」

「はあ?」

「それとも、まだ自分の感情がよくわかっていないのか…何しろ、夢の中であんな殻を作ってるような奴だからな」

「…………」

何?あの時って。欲しいものって。
あたしがわけがわからないでいると、トーマさんはあたしの顔を覗き込み、にっと笑った。

「琴子ちゃん、いっそのこと天界に行って僕と一緒に暮らさないかい?あんな面倒な奴といるより、ずっと幸せになれるよ」

「なっ…何言ってるんですか!」

ホントに軽いわこの人!天使なんてとんでもない。ただのナンパ師じゃない!

とりあえずトーマさんは放っておこ。あたしはくるっと背を向ける。
そして…目の前にはあたしの〈身体〉。そして、枕元にはお父さんが椅子に座ってあたしの顔を見つめている。
すっかり疲れているお父さんからあたしは目が離せなくて、入江くんが出ていってしまってからもまだ病室にいた。
入江くんはこれからバイトだし。
…あれ?でも、それにしては時間がまだ早い気がする。
――そうよ。バイトに行くには、まだ時間があるはず。
入江くん…時間あるはずなのに、ここにはいてくれなかったんだ…

「よかったなあ、琴子。直樹くんが来てくれて。ほら、早く起きてお礼、言わなきゃなあ」

「ああそうだ。琴子、目が覚めたら、たまにはどこか旅行なんてどうだ?うまいもんいっぱい食ってゆっくりしようか」

時折、そんなことを言ってはあたしの顔を覗き込んでるお父さん。
お父さん…ごめんなさい。
あたしは本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
しばらくして。
――コンコン。
ノックの音がした。

「はい」

お父さんが返事をすると。

「大将。わしですねん」

ドアの向こうから声が聞こえた。
え?この声って…

「お前、また来たのか」

お父さんが溜め息をつきながら椅子から立ち上がり、ドアの方へ歩いていく。

お父さんがドアを開けると。

「大将!琴子は…」

ドアの隙間から顔を覗かせたのは、やっぱり金ちゃんだった。

「いや…」

「そうでっか…」

お父さんが首を振ると、金ちゃんは落胆したように俯いた。

「あ、大将。わし、弁当作って来たんですわ。食べて下さい」

顔をあげた金ちゃんが、お父さんに風呂敷包みを差し出した。

「大将に味を見てもらうんが一番の修行やさかい。まあ、まだまだかもしれまへんが」

「………」

「それに、大将がちゃんと食べとらんと、琴子が目ぇ覚ました時に誰かわからないかもしれへんでっしゃろ」

「…そうだな。…すまないな、金之助」

お父さんはふっと笑うと風呂敷包みを受け取った。

「あ、ここに来るのはいいがな、仕事はしっかりやってくれよ」

「わかってますがな。店のことはわしにどーんと任せてくれなはれ」

二人はそんなやり取りをしながら、あたしのベッドまでやって来た。

「琴子。ほら、今日も来たで」

金ちゃんが、あたしの〈身体〉に笑顔で話しかける。

「琴子ー。聞こえとんのやろー?せっかくの夏休み、寝てたら損やで。いっぱい遊んどかな」

金ちゃん…
あたしを目覚めさせたくてわざわざ来てくれたんだ。

「これが“金ちゃん”ね」
モトコさんが言った。

「高校の頃から一途に片想いか。あんたと同じね」

「う…うん」

「彼は今日初めてここに来たってわけじゃないみたいね」

…確かに。『今日も来た』って言ってたし。
あたしがここに来ない間、金ちゃんはこうして来てくれてたんだ。

「目ぇ覚めたら、前みたいにプールにでも遊びに行こか。理美とじんこも声かけてなぁ」

あたしの〈身体〉に一生懸命話しかけてる金ちゃん。
ごめん。ごめんね。金ちゃん。
すごくすごく心配してくれてるんだね。
お父さんのことも見ていてくれたんだね。
ありがとう。

だけど、あたしは――

「琴子!?」

あたしは、窓ガラスを通り抜け、病室を飛び出した。

***


あたしって、サイテー。
金ちゃんは、あんなにあたしを心配してくれてるのに。

――でも。
あたし、思っちゃったんだ。
ああやって、あたしをいっぱい心配して意識のないあたしに話しかけてるのが、入江くんだったら――って。
今日だけじゃなく、何日も前から病院に来てくれてたのが、入江くんだったら――


ああ。もう。
何思ってんだろ、あたし。
入江くんだって、病室まで来てくれたのに。再検査の話だってしてくれたのに。
あたし、贅沢だ。
すごくすごく、嫌な子だ――

「あ…」

宙に浮いて立ち止まったあたしの目に、見覚えのある建物が飛び込んできた。
気づいたら、ドニーズのそばまであたしは飛んできていた。
ああ。あたし…
やっぱり入江くんが好きなんだなあ…
無意識に来たのが、ここだなんて。
入江くん、もうバイト始まってるかな…あたしはふわりと下に降りていき、窓ガラスを通り抜ける。

あ、やっぱり。制服姿の入江くんがいる。
あたしは宙に浮かんで、上から働く入江くんの様子を眺めていた。
もう少しでランチタイムに入るところだ。まだそんなに混んではいない。入江くんもそこまで忙しくなさそう。

あれ…?
珍しい。入江くん、何かちょっとぼーっとしてる?
そういえば、昨日はあんまり寝てないはず。
あんまり忙しくないから余計に眠くなったとかかな…?


「おはようございまーす」

――あ。
そんな入江くんに声をかけたのは松本姉だった。
今日もシフト入ってたんだ。

「どうしたの?ぼーっとしてたみたいだけど」

「…いや。そんなことはないけど」

「そう?…あ、まだあんまり混んでないのね」

…松本姉が入江くんに笑顔で話しかけてる。
ああ。何か嫌な気分。
二人が話してるのを見ているのが嫌。
そんなに近寄らないでよ。あたしはここにいるのに。でも、入江くんはあたしが見えない。


「わ、すごーい。超カッコいい店員さんいるー」

「ねー。あたしも思った」
すぐ近くから声が聞こえた。
見ると、若い女のお客さんが二人、入江くんの方を見て話をしてる。

「あーあ…あんなイケメンが彼氏だったらなー」

「何言ってんのよ。あーゆー人にはほら、あんな人じゃないと釣り合い取れないじゃない」

そういった女の人がこっそりと指差したのは松本姉だった。

「まあね…確かにお似合いよね」

「結構仲良さそうじゃない?」

二人はひそひそと噂話をしている。

お似合い――

その言葉が胸に突き刺さった。
どろどろした嫌な気分が込み上げてくる。
何だろう、この気持ち。
嫌な、よくない気持ちだってわかってるのに。
――止まらない。

入江くんを好きなんだって気持ちだけじゃなくて。
松本姉とそんなに仲良くしないでとか。
あたしのこと、もっと心配してほしいとか。
そんないろんな想いが混ざりあって、ぐちゃぐちゃになる。

「入江くん…入江くん!」

あたしは、ここにいるんだよ。
ねぇ。気づいて。

抑えきれないほどの想いがあたしの中から沸き上がって来る――。
あたしは思わず目を閉じた。



――その時。

ゴオォォォォーーーッ!

そんな音があたしの耳に飛び込んできた。


そして、沸き起こる悲鳴。

え…?


そっと目を開けたあたしが見たのは。

凄まじいばかりの風が吹き荒れる、ドニーズの店内の風景だった――





☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

もうわけがわからなくなりそうなこの展開…
そして、今回絶対直樹は株を下げたな…
早く続きを書かないと。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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No title
何!何が起きたの、入江君琴子ちゃんが、心配で、病院に、きってくれたのに?入江君も、琴子ちゃんが心配で、来てくれたんだよ、風邪は何だろうね、次回が、楽しみ。
Re: たまち様
コメントありがとうございます!

そうですね、今は打って変わって協力的です。これも夢効果なのでしょうか。
琴子からしたら、直樹がずっと自分のことを気にしていたなんて思ってもいないので、余計にびっくりしたことでしょう。

そうそう、重雄さんが来ちゃって残念でした。まあ、そう簡単には話は進まないのです(笑)。

トーマさんは、一応女心にも男心にも精通している(自称)ので、直樹の心も推し量れるようです。
直樹の心が最もわかっていないのはやっぱり琴子なんですけどね。

琴子の方は、相当ストレスがたまってそろそろ限界のようです。もともと、自主行動なだけに、この状態は彼女にとっては慣れないもので余計ストレスだったのでしょう。
そして、琴子はやっぱり、眠っているだけの眠り姫にはなれないようです(笑)。続き、急いでアップしまーす!
Re: なおちゃん様
コメントありがとうございます!

次回を楽しみにしてくださっているのはとっても嬉しいです!
入江くんがようやく動いて、物語の展開がスピードアップしています。更新もなるべく急ぎますね。
Re:みい様
拍手&コメントありがとうございます!

私はもともと原作からはまって二次小説を書くようになったので、原作のイメージぴったりって言っていただけるのは本当に嬉しいです!あの雰囲気をできるだけ出したいと思っているので・・・

更新が遅くていつもお待たせしていますよね。ごめんなさい。この連載に関しては、これからペースを上げて進めていきたいと思っています。
これからもよろしくお願いします。
(*^_^*)
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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