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眠り姫は待ちきれない 10
今年のうちに、何とか連載の方も少しでも進めておきたいと思いまして、何とか1話アップします。

やっと、少しだけPCをいじれる時間が持てるようになったので、コメント返信もしています。いただいた方、ありがとうございます!
これからも、感想などお聞かせいただければ幸いです。

... Read more ▼
・・・・・・・・・・


入江くん――?

振り返った入江くんの表情に驚きが浮かんだのは、ほんの一瞬だった。
すぅっと波が引くようにその表情は消え、また元の冷静な顔に戻っていく。
そして何事もなかったように前を向き、歩き出した。

入江くん…

今、もしかしてあたしの声が聞こえた……?
でも、まさか……

「全く、どこに行こうとしてたんですかっ!」
「いや、ちょっと散歩しようとしてたら、あの美女が僕の行こうとする前をさ、歩いていくもんだから」
「そんなわけないでしょう!」

いい加減聞きなれてきた二人の天使の言い合う声が聞こえてきた。
モトコさんがトーマさんを引っ張って来る。

「あら、どうしたの琴子。ぼーっとして」
「え……あ、ううん」

まさか、だよね…
あたしの声が聞こえるはずない。
あたしは今、魂だけの存在だから。
現に、入江くんの目はあたしの姿を捉えてはいなかったし。
そうだよね。
たまたまか、気のせいか。うん、きっと、そう。
あたしは、そう気持ちを切り換えて、入江くんの後を追った。


***


――夜。
入江くんは夕飯の後、ソファに座って読書をしている。
あたしは、入江くんの座るソファの背もたれの後ろから、入江くんを覗いていた。
う…相変わらず、難しそうな本を読んでるなあ…
えっと、脳神経…??
何の本か、よくわからない。漢字も多いし…頭痛くなりそう…。
昨日は夢の中でまで、ドイツ語の本を読んでたもんね。やっぱり、あたしなんかとは頭の出来が違うんだよね…

ガチャッ。
リビングのドアが開いた。
途端に、入江くんは本を閉じた。何気ない動作でそばに置いてあった自分の鞄にしまう。

「お兄ちゃん、お風呂空いたよ」

タオルを肩からかけて、リビングに入ってきた裕樹くんが、入江くんに声をかけた。

「…ああ。じゃ、入ってくるかな」

入江くんがそう言って、もう一つマンションから持ってきていたスポーツバッグのファスナーを開けた。

その時。

ガタッ。
玄関の方から、音がした。ドアが開いた音だ。

「あれ、パパかな」
「遅くなるって言ってたんだろ?」
「うん、そうだけど…」

入江くんと裕樹くんが顔を見合わせてると。

――ガタタッ。

廊下を小走りするような音がして、

バン!

リビングのドアが開いた。

「お兄ちゃん!来てたの!?」

すごい勢いで入ってきたのはおばさんだった。

「ママ…お帰りなさい。あ、じゃあ琴子、目が覚めたの?」

裕樹くんがおばさんに訊いた。
でもおばさんはそれに答えず、つかつかと歩いてきて入江くんの前に立った。

「お兄ちゃん、一体何してたのよ!あれから一度も琴子ちゃんの病室に来ないなんて…!」

「………」

入江くんは黙ったまま、返事をしない。

「いい、お兄ちゃん!明日は絶対お見舞いに行くのよ!琴子ちゃん、絶対お兄ちゃんが来るのを待ってるのよ。お兄ちゃんが呼んだら、琴子ちゃん目を覚ますかもしれないわ…ううん、きっとそうよ!」
「そんな、何かの童話じゃあるまいし…」

裕樹くんが呆れたように言う、けど。

そーなのよ、そーなんですよ、おばさん!
入江くんに来てもらって、あたしを呼んでもらいたいんです。
でもって、さらにっ、キ、キス…なんてしてもらったりなんかしたら、あたし意識を取り戻せるんですぅう!

そう、あたしはおばさんの後ろで力一杯念を送る。
…まあ、やっぱり気づいてもらえないけど。
あああ、ほんっと、言いたいことが伝えられないってもどかしい!

あたしがひたすら、歯がゆく思っている、と。

「…やっぱり、まだ病院なんだよな…」

「…え?何か言った?お兄ちゃん」

ぽつりとした入江くんの呟きに、おばさんが聞き返す。

「…いや。俺、風呂入ってくる」

そう言って、入江くんは立ち上がった。さっき用意してた着替えを手にドアの方へと向かう。

「あ、お兄ちゃん!明日、病院行くのよ!絶対よ!」
おばさんがその背中に声をかけたけど、入江くんはやっぱり返事をしないまま、リビングを出ていった。

「…すごいわね、彼のお母さん」

モトコさんがびっくりした様子で言う。

「ほんと、あんた、すっごく気に入られてるわね」
「う…うん」
「あーあ、お母さんでも何でも、とにかく彼を何とか病院まで連れてきてほしいわよね~」

モトコさんが息をつきながらそんなことを言ってる。でも、あたしは何だか今の入江くんの様子が気になって、落ち着かなかった。



***


「やっと、寝たみたいね」
「うん……」

すでに時計の針は午前3時を回っている。
入江くんは、今日は書斎でずいぶん長いことパソコンに向かっていて、ベッドに入ったのも遅かった。
ベッドに入ってからもなかなか眠れないのか、何回も寝返りを打っていた。たまに、小さく溜め息をつきながら。

ようやく目が閉じられ、形のいい唇から寝息が聞こえてきた。

「じゃ、そろそろ行くわよ」
「うん」

あたしはモトコさんに掴まって目を閉じた。
もう一度、入江くんの夢の中へ。
あたし達は、ずっと入江くんが眠るのを待っていたのだ。



「あら、ここって」

モトコさんの声に目を開けると、そこは見慣れた場所だった。

「ドニーズ…」

あたし達が立っていたのは、ドニーズのお店のすぐそばだった。

「なんだなんだ、夢の中までバイトかよ」

呆れた口調で言ったのはトーマさん。

「全く、どこまでも詰まらん奴だな」
「詰まらないなら来なきゃいいじゃないですかっ」
「まあまあ、とにかく彼を探しましょうよ。お店の中かしらね?」

言い合いになりそうになったトーマさんとあたしの間に入って、モトコさんがそう言った時。

「「あ」」

あたしとモトコさんは同時に声を上げた。
ちょうど入江くんが、ドニーズのドアを開けて出てきたのだ。
そのまま、マンションの方へと向かって歩いてく。

「ほら、あんた!」

モトコさんがあたしの背中を押した。

「早く追いかけなさいよっ。彼にお願いするんでしょ!」
「え…で、でも」
「でもじゃないっ、早くっ!ほら!」

お、お願いって…キ、キスしてって…?
うう、やっぱり恥ずかしい…。

「あんた、元の身体に戻りたいんでしょ!早くお願いして来なさいったら!」

――そうだ。
恥ずかしがってる場合じゃない。あたし、元の身体に帰りたい。
そのためには、入江くんにキスしてもらわなきゃいけないんだ。
あたしは、入江くんの後を追って走り出した。
すれ違う人とぶつかりそうになりながら、あたしは追いかける。
入江くんは、全然急いでるようには見えないのに、歩くのが早い。

「入江くん!」

あたしは走りながら入江くんの背中に声をかけた。
でも、聞こえた様子はない。入江くんはペースを変えることなく歩いていく。あたしは走るスピードを上げた。
少し差が詰まった?
あたしはもう一度、声を張り上げる。

「入江くん!」

あ、聞こえた?入江くんが足を止めた。
振り返った入江くんは、ちょっと不機嫌そうな顔をしている。
でも、あたしはそんなの関係なかった。
入江くん、あたしの声に反応した。入江くんが、あたしのことを見てる。
魂だけの存在になってしまってから、入江くんにはあたしの姿は見えなくなった。声も聞こえなくなった。だから、いつも、そばにいたって気づいてもらえなかった。話しかけても、応えてもらえなかった。
でも、今、入江くんが、あたしを見てる。あたしに応えてくれてる。
ただそれだけのことが、あたしには嬉しくて。
あたしはさらにスピードを上げて、入江くんに向かっていく。

その時だった。
キーッ!
空気を切り裂くような音が響き渡った。

え…?
入江くんの瞳が、大きく見開かれてる。
そして。
あたしの視界の横から現れたのは、一台の乗用車――
まるでスローモーションのように、ブレーキ音を響かせながらあたしに近づいてくる車。
それなのに、あたしは金縛りに合ったように動けない。

ぶつかる――

思わず、身を固くする。

「琴子!!」

耳をつんざくようなブレーキ音の中、声が響き渡った。
入江くん――?

入江くんが、あたしを呼んで。
あたしに向かって手を伸ばしている。
その顔は、すごくすごく必死な顔で、あたしはその表情に、弾かれたように叫んだ。

「入江くん…助けて!!」

あたしがそう叫んだ時。
入江くんの顔が、不意にぼやけた。
あたしのすぐそばまで迫っていた車も、周りの風景も。
全ての色彩が薄くなり、少しずつ消えようとしている。

「琴子っ」

呆然と立っていたあたしの腕を掴んだのは、モトコさんだった。

「出るわよ」

短く言うと、そのままあたしの腕を引っ張り、飛び上がる。

ふわり。
そんな浮遊感を感じた、次の瞬間。

気がつくと、あたしは座り込んでいた。
目の前には、もう見慣れた風景――そこは、入江くんと裕樹くんの部屋の中だった。
ああ、そうか。入江くんの夢から出てきたんだ。

ってことは・・・
はっとして振り返る。

そこには。
ベッドの上、身を起こして口を押さえる入江くん。
その肩は、大きく上下している。
その額には、大粒の汗が浮かんでいた。



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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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No title
お話しまだつずくのかな、楽しみにしています、入江君どうするの?みたい、つずき。
Re: たまち様
コメントありがとうございます!

はい、直樹の鈍感っぷりのせいでちっとも話が進みません!

コメントに笑いました!確かに直樹はSとMが同居していますね~面白い!爆!

もうもう、そんなことになっているのに無自覚だから、なんでこんなに気になるのか分からず、イライラしていたりして。
そんな感情が、夢に出ちゃっているようです。

我慢大会はいつ終わるんでしょうか・・・琴子のためにも早く終わらせて!って感じですね。
Re: なおちゃん様
コメントありがとうございます!

お話、まだ続きます!どこまで続くのか、私にもわからない状態です(笑)。
続きを楽しみにしてくださっているようで嬉しいです!
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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