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ある夜に
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ここは、オープンしてまだ日が浅いふぐ料理屋『ふぐ吉』2号店。
夜の混雑する時間帯を過ぎ、和服を着こなした看板娘・クリスもほっと一息ついていた。
と、
ガラッ
入口が開いた音。
「イラッシャイマ…あ、直樹ヤオマヘンカ」
クリスは目を丸くした。
「…よお。」
幾分疲れた様子で、直樹はクリスに応じる。
「ドナイシタン?琴子ハ一緒ジャナインカ?」
「クリス、お客さんか…なんや、入江やないかい」
奥から金之助が出てきた。「琴子は今日は夜勤でね。家族も出かけていないし、俺は仕事帰り。なんか食わせてもらおうと思って」
「ほーか。ほんなら、ここ座り。旨いもん食わせたるさかい」
金之助がカウンターの席を指差して勧めた。




「琴子、夜勤やて。大丈夫なんか?」
「…ああ。もう安定期に入ったし、あいつもギリギリまで仕事したいって言うからな。」
「ほーか。まあ、職場でなんかあっても、すぐに診てもらえるんは安心やな」
琴子は現在、妊娠6ヶ月。つわりの辛い時期を切り抜けた後は、妊娠前と同じ勤務形態に戻っている。今のところは、特に問題なく、経過も順調だ。
「…ほら、おまちどお」
瓶ビールをグラスについでいた直樹の前に、金之助はできたばかりの料理の皿を置いた。
「穴子の白焼きや。うまいで」
「サンキュー」
焼きたてで湯気の上がる料理に、さっそく直樹は箸をつける。

「…ん、うまいな」
「せやろ。ほら、これも食え」
差し出した小鉢には、里芋の煮物。ゆずの皮をあしらっており、香りがよい。
一つ口にすると、素朴な料理だがそこはプロの腕を感じさせる。
(あいつが作ったものとはえらい違いだな)
昔、琴子が作った里芋の煮物は、食べるとガリガリとあり得ない音がしたものだが。
「ん?どないした?」
くすっと笑った直樹を見て、金之助が不思議そうな顔をしている。
「いや…さすがだと思って」
「なんや今さら。当たり前やろ。ふぐ吉の名前継いでるんやで」
「そうだな」
「今、ふぐの時期やないけど、ほら」
そう言って金之助が出したのはふぐの皮の和え物とふぐの唐揚げだった。
「サービスいいな」
「ま、琴子とやや子のために、お前にはしっかり食って仕事がんばってもらわんとならんからな」
そう言って、金之助はニッと笑った。




(それにしても、自分の店でこいつに料理を出してやる日が来るとはな)
金之助は直樹が料理を口に運ぶのを見ながら感慨にふける。
そもそもは高校の同級生ではあるが、クラスはそれぞれA組とF組。接点などあるはずもなかった。
それが、当時惚れていた琴子が直樹にラブレターを渡したところから、否応なしに対立――金之助から見て、であって、直樹はそうは思っていなかっただろうが――するようになった。

初めは本当に、心底、イヤなヤツだと思った。
(F組のヤツなんて、人間扱いしとらんかったしなあ)
何しろ、琴子に『バカな女は嫌いだ』と言ったくらいだ。
(そう考えると、こいつも変わったもんやな)
それは間違いなく、琴子のお陰だろう。
琴子にも最初はえらく冷たかったものだが……、あの琴子のパワーには抗えず、惹かれていったのだろう。そして、人間らしい感情を持つようになった。その最たるものが、嫉妬――琴子に惚れた男が現れたせいで、この男が生まれて初めて味わった感情である。
(それまで、そーゆードロドロした感情を知らなかったっちゅーんやから、あの頃は人間としてまだまだやったってことやな)
それが今や、もうすぐ父親になろうとしているのだ。金之助は時の流れを感じた。

「なあ、入江」
「ん?」
「どうなんや、その…父親になる、いうんは」
「………」
金之助の言葉に、直樹は手にしていたグラスを置いた。
「……これが、父親になる、ということなのかはわからないけど」
しばらくして、直樹が口を開く。
「あいつが、…琴子が…どんどん変わっていくんだ」「琴子が?」
「なんていうか…どんどん違う顔をするようになった、というか」
直樹は言葉を選ぶように、ゆっくりと言をつなぐ。
「そして、さらにパワーアップしてる」
「………」
「だから、俺もパワーアップしてる…いや、させられてるんだな」
ふっ、と笑い、そう言った直樹は、ひどく穏やかな表情をしていた。
その纏う空気は、柔らかく、どこか優しい。
それは、金之助が初めて見る直樹だった。
(こいつ…こんな顔するようになったんやな)
金之助は、ひそかに感嘆する。
父親になる、ということがどんな感情をもたらすものか、結婚したての金之助には想像するしかない。
しかし、この男が金之助の何気ない問いに真摯に答えている時点で、かつての彼とはまるで別人といえるのではないだろうか。

(あの冷血動物をここまで変えたんや。琴子っちゅうんは、ほんまたいした女やで)





「遅くまで悪かったな」
その後、〆のふぐ雑炊まで出してもらった直樹は、その日の最後の客となっていた。
「かまへん。今日は週はじめやさかいな、空いとったんや。週末なら、こうはいかへんよって」
金之助が気さくに応じる。
「んじゃ、また」
ガラリ、と直樹が引き戸を開けた。
「旨いもん食いたなったらまた来いや」
金之助が直樹の背中に声をかける。
「ああ、そうだな」
店の外に一歩踏み出したところで、直樹が振り返った。
「3年後、クリスがイギリスに帰って家督を継ぐようなことになったら、琴子が寂しがるからな」
「なっ…」
人の悪い笑みを浮かべる直樹に、金之助は一瞬絶句した。
金之助は、クリスと結婚する時に、彼女の両親に「3年で自分達の店がうまくいかなかったら、イギリスに行って家督でも何でも継ぐ」と言ったのだった。
「イヤなやっちゃなーっ、エゲレスになんぞ行かんわっ」
「…ま、その意気で頑張れよ」
直樹はそう言うと歩き出した。
「…………」
金之助は、しばし動きを止め、その背中を見送る。
これは、直樹なりの励ましだろうか。
考えてみると、家族が皆留守だからって、何も金之助の店で食事をしなくてもいいわけで。
直樹は仕事帰りと言っていた。
(わざわざ遠回りして来たんかい)
金之助の口角が上がった。
「お前に気を遣われんでも、この店世界一の店にしたるわい」
ふん、と鼻をならし、金之助は暖簾を外したのだった。




☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ


学生時代には考えられなかったこの二人の組み合わせ、書いてみました。
金之助は直樹の変化を一番感じてる一人ではないかな、と。
ちなみに、金之助の大阪弁は適当です。ネイティブではないので、大目に見てやって下さい。


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Re:
ari様

拍手コメントありがとうございます!!

まだまだ出来立てほやほやのサイトで、内容もままならないのに、温かいコメントいただいて、ほんと感激です!

この二人、そうなっていそうって言ってくださって
嬉しいです。私、なんかこの二人の関係好きなんですよね。金ちゃんは何だかんだで直樹を頼ったり気にかけたりしてるし。
ほんと筆が遅いもので、更新がのんびりペースで申し訳ないですが、これからもお暇な時に遊びに来てもらえたら嬉しいです。
こんな離れ小島のようなサイトをみつけて下さってありがとうございました。
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
金ちゃんと直樹
たまち様

結婚前、直樹が金ちゃんに牽制していたころは、まだまだ青かったですからねえ・・・・・・

いろいろあった後は、同じ女性を好きになったこともあって、認めあえたのでしょうか。
しかし結婚後も直樹は金ちゃんから見たらやっぱり曲者(笑)。
確かに面倒くさい男ですね・・・・・・

No title
ウ~ン!金ちゃんと、入江君の、違った意味の、男同志の、友情?いいね。
No title
直樹と、金ちゃん、二人の、張り合っている頃、魔弾だ、青い、二人,金ちゃんも、入江君も、それぞれ、家庭を持ち、社会の、荒波にもまれ、お互い、の、友情まではいかないのかな?入江君は、琴子ちゃんの、お腹に、琴美ちゃんが、いるころの、お話だね、それぞれ、励ましあっている、入江君と、金ちゃんと、男同志の、いい関係になったらいいね
Re: なおちゃん様
コメントありがとうございます!

男同士の友情、私好きなんです。
いいねって言っていただけて、嬉しいです。
Re: なおちゃん様
コメントありがとうございます!

直樹と金ちゃん、高校時代は考えられなかった組み合わせですが、お互い大人になって結婚して・・・と年を経るごとに分かりあえることも増えてきたのかな、と思います。
これ以降のふたりのお話も、いずれ書いてみたいなぁ、と思っていたりもします。
No title
何か?私も、金ちゃんの、料理食べたくなってきた?v-275v-288
Re: なおちゃん様
コメントありがとうございます!

何気に、金ちゃんは仕事に厳しそうな重雄さんを認めさせるくらいの腕前なんですよね。彼の料理はさぞや美味しいだろうなと思います。
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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