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眠り姫は待ちきれない 9
大変に間が開いてしまいました…

こんな連載、覚えてる人いるんだろうか…と思いつつ、ひっそりと更新してみます。

現在、作品を書き進める時間がなかなか取れない状況にあります。
それでも、なんとか続きは書いていきたいなと思っている次第です。
... Read more ▼


・・・・・・・・・・

朝――

今日はどんよりと曇り空。入江家のリビングは、大きな窓からお日様の光が射し込まない分、少し薄暗く感じる。

「お兄ちゃん…、やっぱりママはまだ帰って来てない」

裕樹くんが入ってきて、ダイニングテーブルに座る入江くんに告げた。いつもより口調が重い。

「朝ごはん…トーストでいい?」

裕樹くんがキッチンの方へと足を向け、パンの入った袋を取り出している。

「………」
「お兄ちゃん?」

返事のない入江くんに、裕樹くんがまた声をかけた。

「あ、ああ。悪い…いいよ」

入江くんはそう答えたけれど、まだ何となく目線がぼんやりしている。
いつもよりも遅い朝。二人とも夏休みっていうのもあるけど、裕樹くんは昨日結構夜更かししてたから、朝起きたのも遅かった。久しぶりに入江くんに会って、話したいこと、いっぱいあったんだね。
一方の入江くんは、ちょっと心ここにあらずって感じ。何か考え事してるみたい…。

「お兄ちゃん…眠れなかったの?」

裕樹くんが気遣わしげにそう言った。

「…ああ。久しぶりにこっちで寝たからかな。でも大丈夫だよ」
「………。そう…?」

入江くんは安心させるように軽く笑みを浮かべていたけれど、裕樹くんはまだ心配そうだ。

あの後。
入江くんは我に返ったようにあたしの部屋のドアを閉め、元いた部屋に戻った。ベッドに横になったけれど、何度も寝返りを繰り返していた。
モトコさんも、入江くんがまた寝入ったらもう一度夢の中に入ろうとしていたんだけど、うつらうつらしかしていないのでは無理、と諦めていたのだ。
入江くんが目を覚ましてすぐに、あたしの部屋に行ったなんて、何だか信じられない。
夢の中で、入江くんはあたしに

「戻ってきたのか…?」

って言った。
その後、すぐに目を覚まして、あたしの部屋に行ったんだよね。
あたしが戻って来たのかと――現実のあたしが意識を回復して家に帰ってきたと思ったのかな…

『でも、これで彼があんたのことを気にかけてることがわかったじゃない』

今朝がた、モトコさんは明るい調子でそう言った。
そうなのかな…
あたし、気にかけてもらってるのかな……
だって、普段の入江くんはあたしのことなんて眼中にないって感じするんだもん。そんなこと言われたって、信じられないよ。
単に寝ぼけてた…とか。入江くんに限って、それはないか。


モトコさんは朝方、また上司に呼ばれたとかで今はいない。トーマさんは入江くんの夢から出てきてからどこかに行ってしまった。

『とにかく、また夜になったら夢に潜入作戦、やるわよ』

なんて、モトコさんは張り切っていたけどね。

パンが焼ける匂いがしてきた。入江くんはキッチンに行って、コーヒーを入れている。…今日はインスタントだ。

「そういえば、親父は?」
キッチンから戻ってきた入江くんが思い出したように裕樹くんに訊いた。

「あ、もう会社に行ったみたい。あ、そうそう、パパがね、昨日、また家事を分担しなきゃダメだなって言ってた」
「ったく…お袋、また家事を放棄してんのか」

入江くんがため息をついてる。
おばさん、家にも帰らないであたしについててくれてるんだ……
すごくすごく、申し訳ない気分になる。
でも、あたしだって、早く元に戻りたいとは思っているのよ。
でも、今のところ打つ手としては夢に潜入作戦しかないみたいだし。
今夜また夢の中に入って入江くんにお願いするんだよね。
夢の中とはいえ、入江くんにキ、キスしてほしいっていうなんて…恥ずかしくて言えなそう。
でもでも、言うしかないし…

あ、そうだ。今、練習してみようかな。
どーせ今なら入江くんはあたしの姿は見えないし、声も聞こえてないから。

「入江くん、お願いがあるの」

入江くんのそばに寄って、耳元で呼んでみる。

「あのね、…あたしに、キ、キ、キス…してほしいんだけど…」

きゃああぁぁっ!言っちゃったよぉっ!

「じゃ、飯食ったらとりあえず洗濯するか」
「うん…そうだね」
「すげぇ溜まってるんだろーな」

―――………
……なんて。
入江くんは裕樹くんと普通に話をしてる。やっぱり聞こえてない。
なんか…あたし、バカ?はあ、とため息をついてしまう。


「…ねぇ、お兄ちゃん」

裕樹くんがぽつりと入江くんに話しかけた。

「ん?」
「あの時みたいだね…家事をするのって。相原のおじさんと…琴子が出ていった時」

そう言って裕樹くんは入江くんを見上げた。
そうなんだ。あたしとお父さんが出ていったあの時…そんなことがあったんだ。

「…そうだな」

入江くんは頷いて、コーヒーを一口飲んだ。ちょっと眉をひそめながら、カップをテーブルに置いている。

「俺はまた昼前からバイト入ってるから出るけど、今日の夜はまたこっちに来るから」
「………。お兄ちゃん、今日もバイトに行くの?」

裕樹くんが訊いた。

「ああ。今、ただでさえ一人いつもより人数少ないからな」
「……そうだろうけど…」

裕樹くんが珍しく口調を荒げた。

「お兄ちゃん……いいの?…その、病院に行かなくて」
「…ああ」
「でも、お兄ちゃん……」
「あいつは、前もすぐに戻ってきただろ?」

何か言いかけた裕樹くんを入江くんが遮った。

「…うん」
「…だから、またすぐに戻ってくるよ」

裕樹くんを安心させるように、入江くんが言う。

「お兄ちゃん…」
「ほら、食べろよ」
「…うん」

入江くんに促され、裕樹くんもまた食事を再開した。
入江くん…

やっぱり、あたしのところにお見舞いに行こうとは思ってくれないのね…
胸がちりっと痛む。
あたしに戻ってきてほしいって、少しでも思ってくれてるなら、嬉しいんだけどな……。

ふわり。
あたしはそっと、入江くんの後ろにすり寄ってみる。どうせ見えてないんだもん。これくらいいいよね。
今のあたしは、入江くんに触れることもできないけど。
それでも、そっと入江くんの背中から、包み込むように腕を回す。

――大好き、入江くん。

と、その時。

トーストを口に運んでいた入江くんが、ふと手を止めた。。そのまま顔を上げたその表情は、また少しだけ眉をひそめている。

………?
どうしたのかな。

「どうしたの?お兄ちゃん」

裕樹くんが、止まったままの入江くんを不思議そうに見ている。

「いや……何でもない」

そう答えた入江くんの顔は、背後から移動して宙に浮いたあたしが見た時には、元のクールな表情に戻っていた。


***


「またバイトかよ」

トーマさんが、呆れたように言った。

「毎日毎日飽きもせず…まだ19だろう?青春真っ只中のはずじゃないのか?やっぱりあいつ、どっかおかしいんだな」
「入江くんは独り暮らしなんですよ!バイトに明け暮れて何がわるいんですかっ」

全く…夜な夜なフラフラしてて今頃現れた人に言われなくないわっ。

あたしは、今日もまた入江くんにくっついてドニーズに来ていた。
そりゃあたしだって、また…とは思わなくもないのよ。
病院に行って、あたしのお見舞いでもしてくれればな…なんて思ってたりする。でも、確かにあたしがいないせいで、バイトの数が足りないんだよね……。

「ま、あーゆー美女が目当てだって言うならわかるけどね」

トーマさんが指差した先で、入江くんと松本姉が話をしてる。
うむむ…今日も敵がいるのねっ。
と、そこに

「すみませーん」

お客さんが呼ぶ声。

「あ、あたしが行くわ」

松本姉はそう言うと、その席の方へと歩いていく。
今はランチタイム。だんだんお客さんも増えてきた。入江くんも他の席にオーダーを取りに行ってる。
そのうちに、店内は満席になり、順番待ちのお客さんも出てきた。
あれ、今日って週末だっけ?こんなに混雑するなんて。
入江くんも松本姉も、忙しく店内を動き回っている。
あれ……でも。

「何だか、息ぴったりって感じね」
「モトコさん……」

あたしのそばに来ていたモトコさんが、じっと働く二人の様子を見てる。
そう。モトコさんの言う通り。
入江くんと松本姉は、たまに声を掛け合いながら、順調に仕事をこなしていってる。
あたしが休んでて、人手が足りないはずなのに、そうは見えない。

「6番テーブルオッケーです」
「じゃ4名様通すぞ」
「お冷や用意しとくわ」
「3番テーブル、アフターのデザートは」
「今作ってもらってるわ」

そんな短いやりとりを交わして、またそれぞれの業務へ戻っていく。
普段は、あたしも同じ場所で働いてるから気づかなかった。
あたしはいつも、入江くんからあれやれこれやれって指示されて動いてた。
でも松本姉は、すごく手際がよくて、気がきいて。
入江くんも、何か信頼して任せてるって感じで…――

うう…何だか、もどかしい。ここで見てるだけなのが。
それに、胸の奥がちりちりする。
二人を見てると、何だか入り込めない気がして。
何…?この気持ち。
痛くて、醜い。
あんまりいい気持ちじゃない。

あたしは、苦しくなるほど、そんな気持ちを抱えながら、働く二人を見つめていた。


***


「今日もやっぱり時間取れないの?」

夕方。
入江くんと松本姉が、バイトが終わってお店から出てきた。
松本姉が、入江くんの後から追い付きながら、呼び掛ける。

「…ああ」
「そう…。じゃあ、またね」

松本姉が残念そうな顔をしつつも、駅の方へと歩いていく。
よかった…あたしは、松本姉があっさり引き下がったことにほっとしながら、マンションの方へと歩いていく入江くんの後を追う。

入江くん……
あたし、こうして魂になって、いつも入江くんを見つめていられて幸せって、最初は思ってた。
でも。
こうしてても、入江くんは気づかない。声も届かない。
いつも、あたしが何か言っても反応が冷たかったりするけど。
でも、こうなる前は、入江くんはあたしをちょっとは見てくれた。冷たくても、呼んだら返事をしてくれた。

入江くん。あたし、ここにいるんだよ。

――あたしを見て。


「入江くん!」

バイトの時間からずっと胸の中にたまっていた気持ちが、溢れていた。

あたしを見て。
あたしの声を聞いて。

あたしの気持ちが、入江くんに向かっていく。
そう。
あたしの気持ちは――

「入江くん…大好き!」

迸る想いのまま、叫んだ言葉。

その時。

入江くんが、ふと足を止めた。
そして、振り返る。――あたしの方へと。

え――?

あたしは目を見開いて入江くんの顔を見つめた。
振り返った入江くんの顔は。


その顔もまた、驚きに目を瞠っていた――

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No title
やっと!入江君。気が付いてくれたのかな?入江君琴子ちゃん、いなくっていいの、心配じゃないの。
Re:たまち様
コメントありがとうございます!

ホントに、この頃の直樹は特に素直からは程遠いですからね。
自分の気持ちもよくわかっていないし。
それでも、なぜか琴子が気になって、ちょっと戸惑っている部分もあるのかもしれません。

そうそう、頭でしか物事を処理しない直樹からすれば、今琴子が陥っている状況は知ったとしても信じられないでしょうね。
でも、琴子の声は、なぜか届いたようです。
それは、きっと、本人が無意識のうちにそれを欲しているから、ではないかな、と書きながら思っておりました。
Re: 紀子ママ 様
コメントありがとうございます!

幸せなんて・・・そんな風に言っていただけて嬉しいです。

『愛ね!』・・・笑
入江くんは無自覚ですが、きっとそうなんでしょう!
私も書きながら、松本姉がかわいそうになってしまいました・・・
Re: なおちゃん様
コメントありがとうございます!

気がついたのかな?琴子からすると、どうなんだろう??気付いてほしいけど・・・という感じでしょうね。
鈍い琴子には、入江くんの感情を読み取るのは至難の業でしょうから。
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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