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この、特別な日に(後) ※追記あり
琴子ちゃん、Happy Birthday!!

というわけで、後編です。
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・・・・・・・・・・

「あーっ、入江くん!」

俺の姿に反応したのは、琴子ではなかった。
俺を指差しているのは、石川と小森。何だか焦っているような顔をしている。

「あ、あの…入江くん、あたし達、ちゃんと止めたんだよ?」
「そうそう。でも琴子、入江くんが帰って来なくてすっかり愚痴モードになっちゃって」
「入江くんは、あたしのことなんかどーだっていいんだー、とかって」
「で、金ちゃんが変に便乗しちゃってどんどん注ぐもんだから」

二人が、言い訳っぽくこれまでの経緯を説明している。
俺はその二人もまたスルーすると、リビングの中に歩を進めた。
カラオケで熱唱しているのは金之助か…。うるさいことこの上ない。
まあ、それはいいとして。

俺が向かった先――床に座り込み、ソファに寄りかかっている琴子。
とろんとした目。真っ赤に上気した顔。すぐそばのテーブルの上には、何やら透明な液体の入ったグラスがある。そして、この匂い。
明らかに、酔っ払いだ――。

「全く、お前はいつの間にこんなに飲みやがって。ほら、水飲んどけ」

お義父さんがコップを琴子に差し出している。

「えー?これくらい大丈夫らもーん。酔っぱらってなんか、ないわよーう」
「馬鹿、何言ってんだ…あ、直樹くん」

お義父さんが俺に気づいた。

「すまないな、直樹くん。気づいたらこんなことになっちまってて」
「…いえ」

俺は首を振ると、琴子のそばにしゃがんだ。

「あ…」

琴子が俺に気づいて顔を上げる。

「はれー?やぁっと、帰って来たんらー」

完全に呂律が回ってない。目が座っている。

「お前なあ…」

ったく、どれだけ飲んだんだよ。大して強くもないくせに。

「なーによー。今頃帰ってきちゃってさー。いーもん。入江くんはぁ、あらしの誕生日なんてどーだっていいんれしょ」

そう言ってまたグラスを取ろうとするので、やんわりと制止する。何すんのよー、と抗議の声。

と、そこへ。

「あーっ、入江やないけ。今さら来てなんやねん。ほんまに冷たいやっちゃなあ、新妻の誕生日やいうのに。だから言うたやろ琴子。こいつはなあ、そーゆー奴やねん、早よ別れた方がええで」

カラオケを中断して、金之助がやってきた。
いそいそと琴子に近づくと、あろうことか琴子の肩を抱きやがった。ついでに琴子のグラスに酒を注ごうとしている。…こいつも酔っ払いか。ふざけてる。

「…おい。お前試験前だろーが」

べりっと金之助を琴子から引き剥がして琴子の顔を覗き込む。

「しけんー?そんなの知らないもーん」

ぷうっと頬を膨らませて琴子が言う。

「知らないじゃないだろ。ほら、もう部屋行くぞ」

この調子では、どうせ程なくして寝てしまうだろう。俺は琴子の腕を取った。

「やーっ」

琴子が俺の手を振り払う。
こいつ…
むかっと来た俺は、琴子の身体を抱え上げた。
肩に担いで歩き出す。

「いやらーおろしてぇ」

悲鳴を上げているが、どうせまともに歩けやしないだろう。こうするのが手っ取り早い。

「あーっ入江っ、何すんねんっ!琴子が嫌がっとるやないけ」

ついでにまたもう一人酔っ払いが騒ぎ出したが、それは完全無視。石川と小森に宥められているようだ。
俺はリビングを出て階段へと向かう。

「いやらいやら離してぇーっ」
「ったく、暴れんじゃねーよ」

足をばたつかせる琴子を抱え直すと階段を昇っていく。いやー、とまだ悲鳴を上げているが、お構いなしだ。

「入江くんはぁ、あらしのことなんてほっとけばいーでしょー。しけんが何よ~。しけん……」

2階に着き、廊下を歩いている頃、だんだんと声が小さくなってきた。
このまま寝てしまいそうだな。
そう思った時。

「ぎ…ぎもぢわるい……」
喉の奥から絞り出すような声がした。

――え?

思考が止まった俺。
背中から、う…と唸るような聞こえてくる。

――まさか。

「う、う…!」
「お前……うわーっ」






……後のことは、思い出したくもない。

結婚して初めて迎えた誕生日がそれか……
確かに最悪の思い出ででしかないよな。
次の日、琴子は当然のように二日酔いになり、試験どころではなく…試験の結果も散々で追試となり、俺も再度勉強を見てやるはめになったもんな。

その次の年は、俺が鴨狩に嫉妬していたせいで俺たち夫婦の間は最悪の状態になり、誕生日を祝うどころではなかったし。
そのまた次の年は、確かお袋がまたパーティーを開いて俺もいたけど、それだけだったし。俺は特に何もしていない。
その翌年は俺が神戸に行って離れていたから何もしていないし。

確かに結婚してから、まともにこいつの誕生日を祝ったことなんてなかったな。

そして、その翌年。

「えー、そ、そんなはずかしい…あたしはただ、うんとおしゃれして入江君は年の数のバラの花束を抱えて、それからディナーして、そしてコックさんがケーキを運んで来てくれてお店中が『ハッピーバースディ』を私のために歌ってくれるの。その後入江君と私はワインを飲んで、二人っきりの夜を…きゃっ」

ほんのりと頬を染めて、夢見るようにそんな理想の誕生日を語った琴子。
本当にそれを俺が実現してやったら、こいつはどんな顔をするのだろう。
ふと、そんな考えが浮かんで、俺はその日の当直を変わってもらうことにした。
それから、プレゼント。
琴子からはいろいろもらってきたが、俺からは今まで何もあげたことがなかった。
初めて渡す、あいつへのプレゼント。
何がいいか考えた時、ふっと浮かんだのが指輪だった。
――一番わかりやすく、あいつが俺のものだと表すことができるから。


一人で訪れた宝飾店。
ショーケースの中を見ていたら、店員に声をかけられた。
妻への誕生日プレゼントだと言うと、やはり、という顔で頷かれた。

「お客様が、とても優しい顔でご覧になっていたので…奥様が羨ましいです」

俺は、生まれて初めて他の誰かのことを想いながら、その誕生日プレゼントを選んでいた――



ロイヤルホテルのラウンジでひたすらあいつを待っていた時。
こんな日にあいつが遅れる訳がない。何かあったに違いない。
遠くで救急車の音が聞こえると、あいつかもしれないと気が気じゃなくなった。
でも。
あいつはきっと、ここに来る。
来ないわけがない。
俺がここにいるんだから。
そう思ってひたすら待った。

この日のために着飾った服を血に染めて現れた琴子を見た時は、まるで心臓を掴まれたようだった。
あいつの元に走り寄る間じゅう、生きた心地がしなかった。
琴子に触れ、腕の中に閉じ込めた時。
感じたぬくもりに、俺がどれだけほっとしたか、きっとわかっていなかっただろう。
大切な――何より大切なお前。
それを再認識する。

だからこそ。

ハプニングはあったけれど、もうすぐ日付は変わってしまうけれど。
それでも、こいつの理想の誕生日今からでもを叶えてやろう。俺のすること全てが、あいつへのプレゼントになる。そう思った。

「プレゼント、何が欲しい?」

尋ねた俺に琴子は

「好きって言ってほしいな。入江くんに好きって…」
そう言ったものの、すぐさまそれを取り消した。
焦っている琴子にそっと、口付ける。
そして、囁く――

「琴子、好きだよ」

俺がそう言った瞬間の琴子の顔は、すごく幸せそうで、
すごく――綺麗だった。





二人で情熱を分け合った後。
俺は、ようやくプレゼントの指輪の存在を思い出した。
俺が、忘れるなんてな。
でも、それくらいさっきの琴子の笑顔は綺麗で可愛かったから。
これじゃ、どっちがプレゼントなのかわからないな。幸せに満たされながら、俺は苦笑する。
どうやって渡そうかと、ずっと考えていたのに。琴子はすやすやと眠っている。
…そうだ。
俺は、素肌のままベッドに眠る琴子の左手をそっと取った。
その薬指に、指輪を嵌めていく。
俺の――俺だけの琴子。

朝、目が覚めたら、琴子はどんな顔をするだろう。
そんな想像が、また俺を幸せにさせる。
俺は、あどけない顔で眠る琴子の寝顔をじっと見つめていた。





そして、今年――

飛び乗ったタクシーは、一路、去年と同じホテルに向かっていた。
窓の外を流れる景色を眺めながら、今までの琴子の誕生日のことを思い出していた俺。
去年のこの日、俺は誕生日を祝うのが、必ずしも琴子のためだけじゃないって知ったんだ。
次の日に目覚めた琴子の顔で、俺は満ち足りた気分になれたから。

今年もまた、去年と同じように二人で祝う琴子の誕生日。
そして、二人きりで祝う最後の誕生日となる。
来年は、きっと落ち着いてホテルでお祝い、なんて到底できなくなるだろう。
家族が増え、ますます賑やかになるのだから。

ホテルまで、あと少し。
お袋が心配して、車を出すと言っていたから、琴子はもう着いているだろう。
さすがに去年みたいなハプニングは――ないよな。

タクシーの後部座席に座る俺の隣には、先ほど購入したものが、香りを放っている。
去年はお袋が用意したんだよな。下手な変装をして、荷物と一緒に渡してきたっけ。

まさか、俺がこんなものを用意するなんてな。
でも。

去年、目覚めたお前が見せた顔を思い出したら、毎年この日くらい、俺の中のルールを破ってみてもいいかって思えたんだ。

これを見た時、こいつはどんな顔を見せてくれるだろう。
それは間違いなく、また俺をも幸せにしてくれるに違いない。

お前が俺と出逢うために、俺の元に来るためにこの世に生を受けた日。
今日だけは、お前の思い通りになってやるよ。
世界中の誰より大切なお前のために。

――俺の唯一の愛を込めて。




☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ


原作では、琴子ちゃんの誕生日のお話はもう読めませんが、あの指輪のエピソードがきっかけとなって、翌年からずっと入江くんがちゃんとお祝いしてあげるようになっていたらいいな…と思って、今回このお話を書きました。

前編の入江くんの俺様なことと言ったら…(苦笑)

あまりにも琴子を大事にしないので、罰が当たったようです(笑)。

でもそこから成長したところを感じていただけたらいいな♪


※追記

最後の場面、琴子ちゃんはまだ出産前であることが書かれています。
原作を読んで、計算すると、多分この頃は出産後になっていると思われるのですが、もう1回くらい平和にハプニングなく二人でお誕生日を祝ってほしいなと思って、出産前にしてしまいました。



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Re: 紀子ママ様
後編にもコメントをいただいてありがとうございます!

はい、天誅当ててやりました(笑)。ザマアミロ!
入江くんってあんなに頭いいくせに、本当に肝心なことをわかっていないですよね。
とくに琴子の誕生日の時はいつもあんまりだよね、と前々から思っていたので、この日には誕生日話を書きたいと思っていたんです。

ホントにカメの歩みでしたね・・・・・・
それも琴子のおかげですね。
他人の心を思いやる気持ちがついてきたのはいいけれど、一番大事な琴子への気持ちの表し方がいつも足りてないっていうのは、どういうこと!?ってかんじですけれど。
琴子がこれからは毎年幸せな誕生日が迎えられますように。
Re: たまち様
後編にもコメントいただきありがとうございます!

琴子的にはもうやけ酒に走るしかないだろうと(笑)。
そして、たまには直樹にも罰があたったっていいじゃないか!と、今回こんな展開にしちゃいましたw

自分は毎年祝ってもらっているのに、ひどいって前々から思っていたので。
琴子はそれに対して何にも不満も口にしていなかったんですよね。なんて健気な・・・・・・

それでも、琴子のおかげで直樹もずいぶん変わりました。
原作では花束は自分で用意していなかったので、次の年に自分から用意させてみました。
琴子が喜ぶ顔、あの26歳の誕生日に見てから、直樹はさらに変わっていたらいいなと思ったのです。
花束を見た琴子の笑顔を見たら、直樹もきっと正直になれるかなと思います。
ウ~ンなんか!素敵ですね!入江君からの、誕生日プレゼント、琴子ちゃん、泣いて喜びますよね、でも?一番は、琴子ちゃんの、そばに、いつも、入江君がいてくれることでしょうね、まーそれは?入江君も、琴子ちゃんがいつも、そばに行ってくれること、二人とも、おんなじだよね。
Re: なっちゃん様
コメントありがとうございます!

本当にそうだと思います!二人とも、お互いがそばにいてくれることが何より幸せでしょうね。
直樹さんは結婚してだいぶ経って、誕生日にお祝いすることが決してくだらないことではないってことがようやくわかったようです。
これからは、家族が増えて二人きりではないですけれど、ちゃんとお祝いしてくれるようになったことでしょう♪
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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