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眠り姫は待ちきれない 8
このお話の中では、まだ夏休みなんですよね…
現実では、もう9月半ば……

少しはスピードアップして話を進めたいところなんですが、なかなかそうもいかず(泣)。

すみません…。

... Read more ▼

・・・・・・・・・・

「どうして、こんな壁が……?」
「これは…」

トーマさんが、呆然と立ち尽くすあたしの隣に来て壁に触れた。

「これは、まさに殻、だな」
「殻……?」

あたしはトーマさんを見上げる。

「ごくまれにいるんだ。夢の中で、こういう壁を作ってる奴」

トーマさんがその壁を拳で叩くと、ゴンゴン、と重たい音がした。

「僕が思うに、こんなものを作ってるのは、他人と関わりを持つことを嫌ってるか、感情を至極表に出さない奴、本当の自分を隠してる奴…そんなところだと思うけどね」

他人と関わりを持たない……?
感情を表に出さない……?
「あ、もしかしたら、感情を持たない冷たい奴かもしれないな」

冷たい……?
入江くんが……?

「そんなこと、ないっ!」
あたしは叫んでいた。

「入江くんは…意地悪だけど、何考えてるのかわかんないことも多いけど、本当は優しいもんっ」

…そうよ。
入江くんは優しい。
高校の体育祭の時だって、怪我したあたしを背負ってくれた。
入江くんと松本姉がデートして、あたしが後をつけた時だって、絡まれたあたしを助けてくれて。
大学祭の時だって、片付けを手伝いに来てくれたし。怪我した後は、治療もしてくれた。
裕樹くんが腸閉塞で入院した夜。病院でそれまでの緊張が解けて泣いてたあたしを抱きしめてくれた入江くん。
ホントに冷たい人なら、そんなことしない。

入江くんは、冷たくなんかない。
あたしは、知ってる。
ずっと、知ってる。

「入江くん…入江くんっ!」

あたしは大声で入江くんを呼んだ。
両手で力いっぱい、透明な壁を叩く。
ねぇ入江くん。
こっちを向いて。
どうしてそんな壁を作ってるのか、あたしにはわからないけど。
でも、あたしにはわかってる。
入江くんは、本当は優しいってこと。

「入江くんーっ!」

あたしが、思いっきり声を張り上げた、その時。

「あ…」

壁が…
入江くんを取り囲む壁が、大きく揺れた。
あたしは目を見張り、壁の中を見つめる。

「入江くん!」

壁の中にいる入江くんが立ち上がった。そして。

「――!」

一瞬、目映い光が空間内を走った。思わず目を瞑る。目を開けると。
空間が、一変していた。
一面グレーだった空間が、ある風景に変わっている。
見覚えのある風景。ううん、とても、身近な場所。
これは……、ここは……。住宅街の中。

入江家の門の前……?

「琴子ちゃあん!」

え…?
これ、おばさんの声だ。
振り返ると、1台の大きなトラックが走り去るのを、おばさんがそれを必死で追いかけていた。
その後ろ。
イリちゃんおじさんと裕樹くん。それに、入江くんがそんなおばさんの様子を見守っている。あたしは、そんな3人の後ろ姿を見ていた。
これ、何……?
急に、何が……

「夢よ」

モトコさんがあたしの隣に来ていた。トーマさんも後ろにいる。

「彼が新しい夢を見始めたの」
「新しい夢を…入江くんが?」
「そう。さっきまでのあの状態は、彼の中では夢として認識されないかもしれないわね。今のこの夢は、彼が今見てる夢で、あたし達はその夢に入り込んでる状態ね」

入江くんが見ている夢…
でも、さっき、おばさんはあたしの名前を呼んでた。
これは――何の夢?

「やったー、これで僕の部屋に戻れる」

その声にはっとして見ると、裕樹くんが両手を上げて嬉しそうにはしゃいでいた。

「これっ、裕樹っ」

おじさんが、おばさんの肩を支えながらそんな裕樹くんをたしなめている。
おばさんはおじさんに支えられ、両手で顔を覆って泣いていた。

「ねぇ、メシまだ」

そんなおばさんに向かって、入江くんが声をかける。
おばさんが顔をあげ、きっと入江くんを睨みつけた。

「お兄ちゃん!お兄ちゃんのせいですからね、あたしは恨みますからね!」

ハンカチを手に、入江くんに食ってかかるおばさんを、おじさんが必死に宥めている。おばさんはまた、声を上げて泣き出してしまった。
一方の入江くんは、裕樹くんと一緒に家に向かって歩いていく。裕樹くんは、弾むような足取りで入江くんの前を歩き、門を通り過ぎた。
おばさんはまだ涙が止まらないようで、おじさんに慰められてる。あたし達に気づく様子もない。
あたしはこそっと入江家の門に近づくと、そっとその中を覗き込んだ。

「お兄ちゃん、僕の荷物運ぶね」

裕樹くんが玄関のドアを開けながら、明るい声で言う。

だけど。

「………」
「…………」

玄関を開けたまま、二人は立ち止まっていた。
どうしたんだろ…二人とも。
二人の表情は、あたしからは見えない。

「さ、入ろう」
「う、うん」

少しして、入江くんが裕樹くんに声をかけ、二人は家の中に入っていった。
ドアが閉まり、二人の姿が見えなくなって、あたしはまたそっと門から離れた。

「…さっきトラックで行っちゃったの、琴子ちゃんだね」

ずっと様子を見ていたのか、トーマさんがすぐそばに来ていた。

「そう、みたいですね…」
おばさんはあたしの名前を呼んでたものね。

「これ、多分、奴が実際にあったことを回想しているんじゃないかな」
「回想?」
「そう。彼らは、さっきからこんなにそばにいるのに、僕たちに気づかないだろう?それは、以前実際にあった記憶を辿っているからじゃないかな」
「そうですね」

モトコさんも頷いた。

「琴子、あんた一度お父さんと二人、この家を出たわよね。これは、その時の彼の記憶なんじゃない?」

あたしが、入江家を出た時――?
確かに、あたし、あの時は引っ越しのトラックに乗って、入江家の皆に見送られたけど。
でも、何で今、入江くんはこんな夢を見てるんだろう――?

あたしが考えていると。

「――!」

周りの風景が、ぐにゃりと歪んだ。入江家も門も、次第に形を無くし、消えていく。
あたしは思わず、モトコさんの腕を掴んだ。
それと入れ換わるように、何か別のものが現れてくる。

木の色――
白――これは、壁?
青――それは、布団。

現れた色彩は、だんだんとそれぞれ形を成していく。
木製の勉強机。白い部屋の壁。ベッド。

これ――入江くんの部屋だ。

「また、夢が始まったの?」

あたしはモトコさんを見上げる。

「そのようね」
「あ…」

いつの間にか、入江くんが椅子に座り、勉強机に向かっている。
同じ部屋の中にいるのに、また入江くんはあたし達に気づかない。

「これも、記憶を辿ってるの…?」
「おそらく、そうだろうね」

後ろにいたトーマさんが答えた。

部屋にはあたし達3人の他、入江くんしかいない。
あれ……裕樹くんの荷物がない。
ってことは、あたしがこのうちに来る前の記憶かな?
それとも……

あたしは何となく忍び足で入江くんのすぐ後ろに寄ってみた。入江くんはやっぱり気づかない。
机に向かって、何してるんだろ…後ろから覗き込む。
うわ。何これ。何語?
入江くんの開いてる本は、日本語じゃなかった。よくわかんないけど、英語でもないみたい。
う…さすが入江くん。夢の中でまで、こんな難しいの勉強してるの…
トーマさんが、後ろで

「夢の中でまで色気のない奴…」

なんて呟いてる。

「えーと…ドイツ語の辞書は…」

じっと本を読んでいた入江くんが、不意に呟いた。
ド、ドイツ語…?入江くん、そんなの読めるの?あたしなんて英語もさっぱりなのに……
入江くんが机の引き出しを開けた。中に手を伸ばし、ふとその動作が止まる。

「…あ」

あたしは思わず、声を上げてしまった。
だって――
入江くんが、引き出しの中から取り出したもの。
あれは、低周波マッサージ機。
あたしが入江くんの誕生日にプレゼントしたものだ。
入江くんは、それを手に取り、じっと見つめてる。
な、何で…
何で入江くん、そんなのじっと見てるの…?
あれを渡した時は、「オヤジくさい」って呆れたように言ってたのに。

「入江くん…?」

気がついたら、あたしは入江くんを呼んでいた。
ぴくり。
入江くんの背中が、確かに反応した。
え…
あたしの声、聞こえたの……?

「琴子……」

入江くんが小さく呟く声が確かに聞こえた――背中越しに。
え――?
あたしが固まっていると。
入江くんがゆっくりと振り向いた。
目を見開いたまま立ち尽くすあたしを、入江くんはじっと見つめた。そして、ふっと笑って、言った。

「…戻ってきたのか…?」

入江くん――?

あたしが何も言えないまま、入江くんの目を見つめ返した、その時。
急に、辺りの風景がぼやけた。
入江くんのベッドも、机も、その上の本や文房具も、少しずつ輪郭が薄れていく。
そして。

「入江くん!?」

入江くんの顔もまた、だんだんとぼやけてきた。
この部屋の風景全部が、薄くなっていってる。
これって――

「琴子!」

モトコさんの声が響いた。
「早く、こっちへ!」
「モトコさん、これは…」「彼が目を覚ますわ。早く!」

あたしはモトコさんが差しのべた手を急いで掴んだ。
辺りの景色が、消えようとしている――

「!」

気がつくと、あたしはモトコさんの手を掴んだまま、座り込んでいた。
ここは……やっぱり、入江くんの部屋。
でも、裕樹くんの荷物がある。というか、裕樹くんがベッドですやすやと眠ってる。
ああ、夢の中から出てきたんだ。
確かに、入江くんの夢に入る前と同じ風景だった。
入江くんは…?
あたしは急いで入江くんのベッドに顔を向ける。

入江くんは、ベッドの上で上半身を起き上がらせていた。
少し俯いて前髪をかき上げたかと思うと、入江くんはおもむろにベッドから降りた。
そっとドアの方へ歩いていき、ゆっくりした動作でドアを開けた。
部屋を出た入江くんは廊下の電気をつけ、早足で歩いていく。あたしもまた、廊下に出て入江くんの後についていった。
入江くんがある部屋のドアを開けた。廊下の電気が、その部屋の中に射し込んだ。
その部屋は、真っ暗で、誰もいない。廊下の電気は部屋の一部にしか届いていなかったけれど、ベッドに誰もいないのは見てとれる。
その部屋は、あたしの部屋だった――。
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Re: たまち様
コメント&温かいお言葉ありがとうございます!
コメントも遅くなってしまいました。ごめんなさい。

トーマはおそらく人生経験豊富(笑)で、かつ直樹みたいな男には洞察力働きまくりというか、突っ込みたくってしょうがないんでしょうね・・・

直樹が次第に変わっていったのは、琴子の存在のせいですから、琴子は冷たいなんて思えないんですよね。
このシーンが夢で出てきたのは、琴子がいなくなったところだから、です。
現実でも琴子の意識が戻っていなくって、喪失感を感じそれが夢にも表れた、ということなんですね。

いずれにしても、琴子は直樹がこんなに自分のことを気にしているとは思っていなかったですから、嘘!って感じなのですが。
Re: 紀子ママ様
コメントありがとうございます!
返信が遅くなってしまってごめんなさい!

そうそう、入江くんの優しさは琴子限定ですね。あんなに入江くんがいつも気にしているのは琴子だけですから。
琴子は素直に、ちゃんとわかっています。


そうですね、確かに琴子は入江くんの幸せを一番に考えますよね。
確かに!だからこそ、入江くんは琴子に惹かれていたのかもしれませんね。

ちょっと間が開いていますが、続きも頑張ります。
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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