スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
眠り姫は待ちきれない 7
... Read more ▼
・・・・・・・・・・

「夢の中…?」

あたしは目を見開いて聞き返した。

「そう。寝てる間に夢の中に入って、彼にお願いするの」
「入るって…そんなことできるの?」

まさか、夢に入るなんて。

「実は天使の得意技なんだ。よく、死んだ人が夢枕に立つっていうだろう。それは、この世に未練があってあの世にいけない魂を、天使が手助けして夢の中で会いたい人に会わせてるんだよ」

半信半疑のあたしに、トーマさんが答えた。
はあ…あたし、この数日間いろんなことがあったけど、ほんと驚きっぱなしだわ。そんなことができるなんて。

「じゃ、行くわよ。あたしにつかまって」

あたしは言われるまま、モトコさんの腕につかまった。入江くんの寝顔をじっと見つめる。

入江くん…
あたし、この数日間、入江くんの知らない間に部屋に入ったり、ストーカーみたいにずっとついていったりしたけど。
ついに、入江くんの夢の中に入っちゃう、みたい…
何だか緊張してきた。体が強ばってるのがわかる。
モトコさんは、空いてる手でそんなあたしの肩をぽんと叩くと、眠っている入江くんの頭の上に手をかざし、目を閉じた。

――一瞬後。

え、と思ったら、周りの風景が変わっていた。
さっきまで、入江くんと裕樹くんの部屋だったのが、今は――灰色。
一面淡いグレーに塗りつぶされた空間だった。
あたしが魂になってから初めて気がついた場所――たしか霊界って言ってたっけ――は一面真っ白だったけど、ここは全部、グレー。白でもなければ黒でもない、曖昧な色彩の空間。
そこに、あたしはモトコさんの腕につかまったまま、移動してきたようだった。

ここが、入江くんの夢の中なの……?
何だか、少し肌寒いような気がするんだけど……

「あんまりいい夢じゃなさそうね」

あたしが辺りを見回していると、モトコさんが言った。

「この色…明るい色じゃないし。それに、温度も低いわ」
「確かに…」

何だか、何もなくて寒くて、それでいてどこまでも広がるような空間。
何となく寂しい場所。

「まあ何にしても、早いとこ彼をみつけましょ。どこかにいるはずだから」

ここに入江くんが――
こんな、暗い場所に……

「さ、行くわよ。彼をみつけて、お願いしなくちゃ」
お願い――?

「きゃっ」

あたしを引っ張っていこうとしたモトコさんが、つんのめって転んだ。

「ちょっと、何すんのよ!」
「でも……」

あたしはモトコさんのコートの裾を引っ張ったまま俯いた。

「お願いって…なんて言えばいいの……?」

そうよ。
ここまで何も考えないまま来ちゃったけど、あたし、入江くんになんて言えばいいの?
今のあたしの状態を説明したって信じてもらえるかわからないし。
それに、まさかキ、キ、キスしてほしい、なんて。
あたしの口からは言えないよー!

「そうは言っても、言うしかないでしょ。キスしてもらわなきゃ元に戻れないんだから」
「そ、それはそうだけど…」

は、恥ずかしいよそんなこと。

「まあまあ、これは夢なんだし。言う相手は本物の奴じゃないんだから、深く考えないでさ。可愛くおねだりしてみればいいんじゃない?」
「そんなこと言っても…って、トーマさん来てたんですか」
「な、今頃気づいたのかい?全く…いや、こいつがどんな夢を見てるのか見てみたくてね」

どこからともなくひょこひょこと現れたトーマさんはにっと笑った。

「夢には、普段抑圧されている本来の姿や、潜在的な願望がしばしば顕れる――もしかしたら、奴の違う一面が垣間見えるかもしれない」

トーマさんが、あたしの顔を意味ありげに覗き込んだ。

「スカした顔してあんな生活をしてるやつが見る夢とはどんな夢か、とくと見てやろうじゃないか」
「トーマさん、楽しそうですね……」

モトコさんはそんなトーマさんに幾分呆れた様子だ。
だけどあたしはそのトーマさんの言葉が引っかかった。

入江くんの、本来の姿……?
潜在的な願望……?

そんなの、あたしが見ちゃっていいのかな……
何だか、見ちゃいけないような気がする。
でも、見てみたいような気もするし…ああ、何だか頭が混乱してきた。

「なーに考え込んでんのよ」

気がつくと、今度はモトコさんがあたしの顔を覗き込んでた。

「あの…あたし、入江くんの違う一面とかって…そんなの見ていいのかなって」
あたしは俯きながら正直に言う。
ここまで来てしまったけれど、何だか見てしまうのが――ちょっと怖い。

「気持ちはわかるけど。でも、こうなったらこうするしかないのよ。アンタが元の身体に戻りたいならね」

モトコさんが言い聞かせるように言う。

「あんたも見たでしょ。アンタが寝てる間に、ライバルが彼に迫ってもいいの?」
「そ、それはイヤっ!」
「だったらほら、行くわよ!」
「…って、わぁっ」

言うが早いが、モトコさんは今度こそあたしを引っ張って大きく飛んだ。トーマさんも後からついてくる。モトコさんはかなりの高さまで飛び上がると、移動を始めた。
高い位置を保ちながら、あたし達は辺りを見回しながらその空間の中を進んでいく。

「あ」

一面グレーの空間の中、あたしは目を止めた。
何もない空間の中、点のように見えるものがある。

「モトコさん、あれ…」

あたしが指差すと、モトコさんは高度を下げながらその方向へと飛んでいく方向を変えた。
近づくにつれ、だんだん大きくなってきた、それは。

「入江くん!」

あたしが見下ろすずっと下に、入江くんの姿が見えた。
だんだんと入江くんの姿が大きくなってくる。
入江くんは、そのグレーの空間の中に座り、佇んでいた。
近づくあたし達には気がついていないみたい。
あたし達は入江くんから少し離れたところに降り立った。あたしはモトコさんから離れ、そっと入江くんに更に近づく。
長い両脚を前に出し、曲げられた膝の上に肘を乗せた格好の入江くん。
その目はじっと前を見据えている。
無表情のその顔からは、何の感情も読み取れない。

「入江くん…?」

何か、考え事でもしてるのかな。あたしは遠慮がちに話しかけた。
だけど、返事はない。
入江くんの表情にも変化はなかった。

「入江くん」

今度はもう少し大きな声で呼んでみる。でも、やっぱり反応はない。
聞こえないの…?そんなこと、ないよね。
あ、あたしが魂だから……?助けを求めるようにモトコさんを振り返る。

「そんなことはないわ。ここは夢の中で、現実ではない。そこにいる彼も夢…実体を持たない。あんたの声は聞こえるはずだし、触れることだってできるはずよ」

そっか、そうだよね。これは夢!
あたしはその言葉に勇気付けられ、また入江くんに向き直った。

「入江くん!」

思いきって大きな声で呼びながら、あたしは入江くんの元に駆け寄った。
あと1メートルで入江くんに届く、そんな距離になった時。
バターン!
あたしは何かに遮られ、弾き飛ばされるように尻餅をついた。
え……?
あたし、今何かにぶつかったような。でも、入江くんとあたしの間には何も見えない。
あたしは四つん這いで、そろそろと入江くんの方に近づいてみる。
ゴン!
おでこに衝撃が走り、あたしは動きを止めた。
いったあ…何よ、これ。
って…ここから先、行けない……。
これは――。

「どうしたのよ、何してるの」

モトコさんが、座り込んだあたしに駆け寄ってきた。

「…壁がある」
「え?」
「ここに、透明な壁が……」
「壁?」

あたしは、そこから先へ行く手を遮るものに手で触れた。
伝わる、ひんやりと冷たい感触。
それはガラスのように透き通った壁だった。
それに触れながら、あたしはその壁づたいに移動してみる。
モトコさんはふわりと浮かんで、壁に触れてる。それがどのくらいの高さなのか調べてるんだ。

「まるでドームね…」

モトコさんが呟く。
その壁は、入江くんをぐるりと囲んでいた。
まるで、入江くんを守るように――

「入江くん……」

あたしは壁越しに、じっと入江くんを見つめた。
何を見ているんだろう。
何を考えているんだろう。
そして。
どうして、こんな壁があるんだろう――?

「入江くん…入江くん!」
あたしは声を張り上げながら、力一杯その透明な壁を叩く。
けれど、入江くんの視線はじっと前に向けられ、こちらを見てくれることはなかった。


☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

長くなったのでここで切ります。
何話までいくんだろう、このお話…
スポンサーサイト
Secret
(非公開コメント受付中)

管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
No title
すごく面白くて毎日、更新を楽しみにしています!
モトちゃんが出会した事故の原因…すごく気になります!
これからも楽しみに待ってます⭐️
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
Re: 紀子ママ様
コメントありがとうございます!

こんな展開でごめんなさい・・・・・・

天才の夢の中ですから、なかなか常人とは違うようです。
そうですね、こんな内面を抱えていたら、琴子のパワーはきっと必要なんでしょうね。

Re: 匿名様
コメントありがとうございます!

面白いって言っていただけてよかったです。
最初に書きました通り、かなり荒唐無稽な展開からスタートしたので、受け入れてもらえるか、ちょっとドキドキだったので。

更新がマイペースですが、これからも頑張ります。とっても励みになるコメント、ありがとうございました!
Re: たまち様
コメントありがとうございます!

はい、相当長くなりそうですが、行っちゃいます♪
実は今回、相当楽しんで書いておりますので・・・

トーマは天使っぽくないですね・・・こんなに不似合いな人が他にいるでしょうか(笑)。

そして天才の夢の中。常人とはやっぱり違うようです。
そうですね・・・かなり重症です。

琴子は躊躇してますが、思い切って入ってきました。
こんなにもろに心に触れてしまうことはないですからね。

あ、確かに!モトコと琴子、名前似てる!私、言われて初めて気がつきました!
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
カウンター
リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。