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眠り姫は待ちきれない 6
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・・・・・・・・・・

「何にやけてんのよアンタっ」

モトコさんがあたしを小突く。
でも、顔がどうしてもにやけちゃう。

「だってぇ~」
「何なのよこの締まりのない顔。まさか、一晩中彼に添い寝してたわけ!?」

ふふふ。あーダメ。
どうしても顔が緩んじゃうよ。
今は、朝。入江くんはついさっき起きて着替えたところ。
あたしは入江くんが目を覚ますその瞬間まで、ずっと入江くんの寝顔を見続けていた。

「あ、そういえば」

あたしはふと、気がついた。

「あたし、一晩中起きてたのに、全然眠くないんだけど」

そう。
眠いどころか、ずっと入江くんの傍らにいられて、幸せ気分で一杯だ。

「何言ってんのよ。アンタは今実体のない魂なんだから、眠くなんかなるわけないでしょ」

あ、そっか。
でも、魂だけの存在だからって、普段より体が軽いような気がするだけで、何も変わらない気がする。
それにしても。

「モトコさん、何か機嫌悪くない?」
「当たり前よ!あたしはねぇ、アンタが彼に添い寝してる間、上司に呼び出しくらってたのよ!」
「あ、そうなんだ…」

通りで、一晩静かだったはずだわ。

「そうなんだじゃないわよ、全く!あーもう、あんな事故に居合わせたばっかりに、あたしがこんな目に遭うなんてっ」
「え?」

事故に居合わせたって…

「モトコさん、あたしが事故に遭った時、いたの?」
あたしはちょっと驚いて訊いた。

「そーよ!今思うと放っとけばよかったわ。あんないい男が、あんな状態でいたから、つい無視できなくって…」
「…あんな状態で…って…」

どういうこと?あたしが聞き返そうとした時。

「いや~、やっぱり夏はいいね~!女性が肌を晒していると実に生命感を感じるよ」

トーマさんが訳のわからないことを言いながら現れた。

「また下界の女性を物色してたんですね…」

モトコさんが呆れた顔でトーマさんを見てる。

「物色とは失礼な。君が言ったんじゃないか、美しいものを愛でるのは人の常って」

…天使って、清らかなものじゃないのね。さっきもモトコさん、入江くんの着替えを覗こうとしてたし。
何やら言い合ってる二人の天使は放っといて、あたしは入江くんの様子を窺う。入江くんは、今日もコーヒーを飲みながらトーストを食べていた。
独り暮らしだと、朝ごはんは簡単なものになるのかな。実家では和食の朝ごはんをよく食べてたけど。
ああ、こんな時、完璧な朝ごはんを作ってあげたいもんだわ。
寝ている彼より早起きして、お料理して。炊きたてのご飯にお味噌汁に卵焼き。出来上がったらキスして起こすの。素敵……

なんて妄想していたら。
いつの間にか食べ終わっていた入江くんが、電話のそばに座り、受話器を取ったところだった。慣れた手つきでダイヤルを押してる。
入江くん、昨日も電話してたけど…今日もこんな朝から、どこにかけるんだろ。あたしはすうっと飛んで、入江くんが耳に当ててる受話器の反対側に自分の耳を当てる格好になった。
きゃ、入江くんの顔が近い。ドキドキしながら耳をそばだててると、数コール目で呼び出し音が途切れた。

――はい、入江です

電話に出たのはまだ幼い声――これ、裕樹くん?

「裕樹か。おはよう」

――お兄ちゃん!

やっぱり!
入江くん、実家にかけたんだ。

――おはよう、お兄ちゃん。昨日、大変だったんだよ!って、お兄ちゃんは知ってるんだよね、琴子のこと…

「ああ。救急車に乗ったからな」

――全く、琴子はやっぱりバカなやつだな。お兄ちゃんにそんな面倒かけて。こっちもいい迷惑だし。

「…お袋は?戻ってるのか」


――ううん。ママは病院。琴子の意識がまだ戻らないから。

「まだ戻らない?」

入江くんが少し目を見張った。

――うん。お医者さんはすぐに意識は戻るって言ってたけど、まだなんだって。だから、ママは昨日から病院で琴子についてて…相原のおじさんはどうしてもお店の方に行かなきゃいけないらしいから

「…そうか…」

――お兄ちゃん、琴子…大丈夫かな…あ、べ別に琴子を心配してるわけじゃないんだけどさ。ただ、あいつの意識が戻らないと、ママが付きっきりになっちゃって帰ってこないんじゃないかって…全く、迷惑だよなっ

「…病院にいるんだ、医者にまかせるしかないだろう」

裕樹くんの問いに入江くんは、静かに答えた。

――うん、そうだよね…

「お前は大丈夫か?ちゃんと食べてるか?」

――え?あ、うん。昨日はたまたまパパが早く帰って来たから二人で外食したんだ。でも、今日からはしばらくパパは帰りが遅いみたいで…

「だから昨日、電話しても誰も出なかったんだな…」

――え?

「わかった。今日は俺、そっちに行ってやるよ」

――ホント!?

「ああ。バイトが終わってから行くから、夕方になるけど」

――うん!わかった。待ってるね!

途端に裕樹くんの声が弾んだ。
じゃあ夕方に、と入江くんは言って受話器を置いた。
「………」

しばらく、入江くんは何か考え込んでいるようだった。

うう…おばさん、あたしの身体の方についててくれてるんだ…
裕樹くんだって、あんな風に言いながらも心配してくれてるみたいだったし。
入江くんは…?

あたしは入江くんの顔をじっと見てみたけど、その表情は特にいつもと変わらない。相変わらず、クールな感じ。
何を考えてるのか、あたしには全くわからなかった。

***


「こいつはホントに大学生かね?」

入江くんを見下ろしながら、トーマさんが釈然としない様子で言う。

「大学生の夏休みと言ったら、例えば海に出掛け、そこでの出逢い、そして恋のアバンチュールと相場がきまってるじゃないか!なのに、こいつが行くところっときたら、図書館とファミレスのバイトだけ、なんて…」
「何言ってんですか!大学生は勉強でしょっ。入江くんは真面目な学生なんだから!」
「『大学のF組』のアンタのセリフじゃないわね…」
ここはドニーズ。今日も入江くんはバイトに出てきてる。
そしてあたしは当然病欠。魂のあたしは、またこうして入江くんにくっついて上から様子を眺めていた。

「全く、若さがないね、若さが!」
「入江くんはクールで硬派なのっ!」
「そんなふりして、実はむっつりなだけだったりしてな」
「そんなことありません!」

あーもう。この人、ホントに天使なのかしら。

「おや、こんなところにあーんな美人がいるじゃないか」
「え?あ…」

トーマさんの向いてる方を見たら、そこにいたのは。
「松本姉…」
「ああ、同じテニス部の子だったね。今日は彼女もここでバイトだったんだ」

そっか、今日は松本姉もシフトに入ってたんだ。入江くんのシフトならバッチリ覚えてるんだけど。
松本姉が、入江くんに話しかけてる。あたしは急いで近くに寄った。

「確かにあの課題はちょっと面倒だったな」
「そうよね、今ちょっと手間取ってて」

ちょうど空いてる時間だからか、手が開いてるみたい。二人で並んで、話をしてる。
あたしは二人の間に入り込んで話を聞いてみる。どうやら、理工学部の課題の話みたい。何だか専門的な言葉が次々と出てきて、何を言ってるのかあたしにはよくわからない。

「…ねぇ、それなら今度、一緒にやらない?その方が効率いいでしょ。明日とかどう?うちに来てもらってもいいし」

松本姉がそんなことを言い出した。

「ちょっと、何言ってるのよ!」

家に行くなんてとんでもないわ!あたしは急いで口を挟んだ…けど。

「何だったら、前みたいにうちで食事してもらってもいいし」

あたしの声は届かず、松本姉が更に入江くんに誘いかける。
うう~、そーだった。あたしの声、聞こえないんだった…。

「…いや。ちょっと当分、時間取れそうにないんだ」
「あら、そうなの。残念」
…ほっ。入江くんは誘いに乗らなかった。よかったあ…
でも、何なのよ松本姉!油断も隙もありゃしないわっ。

「そういえば、今日は相原さんいないのね」

松本姉がふと、今気がついたように言った。

「ああ。急病だって連絡あって、昨日から休んでる」
「あらそうなの。風邪か何かかしら」

松本姉の顔が少しだけ緩んだ。
あ、もしかしてあたしがいなくてラッキー、とか思ってる?
残念ね、あたしはここにいるのよ!…って、誰にも見えてないけど。

「さあ。ま、あいつがいないと静かだよな」

入江くんはそう言うと、レジの方へ向かった。お客さんが一組、会計をしようとしている。

静か…あたしがいなくて静か……。
あたし、普段そんなにうるさいかしら…
ああ、でも。
この魂だけって状態は、確かにずっと入江くんを見ていられるんだけど…それは嬉しいんだけど。
やっぱり、声も聞いてもらえないのって、もどかしいっ!
松本姉はあんな調子だし…放っとけないわ!

「ふうん、彼女、なかなか積極的だね。ああいう手応えのある女性、悪くないな」
「あなたは美人なら何でもいいんじゃないですか?」
トーマさんとモトコさんがいつの間にかあたしの後ろに来ていた。

「でも琴子、確かに彼女は積極的で油断できないわね」
「う、うん…」

「早く戻らないと、どうなるかわからないわよ」
「そ、そんな…」

そんなのは絶対イヤっ。

「でも、元に戻るったって、どうやって…入江くん、病院にすら来てくれないのに」

そう。今日は入江くん、バイトが終わったら実家に行くはずだ。

「それに、病院に来てくれたとしても、キスなんて…」

入江くんがしてくれるとは思えない。

「…確かに難題ではあるけど」

モトコさんが腕組みをしながら言った。

「とにかく、夜を待ちましょ」


***


「お兄ちゃん、今日はありがとう!晩御飯もすっごく美味しかったし」

夜、入江家。
バイトが終わった後、入江くんは裕樹くんとの約束通り、実家に帰ってきた。
手早く晩御飯を作って裕樹くんと一緒に食べ、その後は裕樹くんに勉強を教えていた。そしてお風呂に入った後、しばらく兄弟でリビングで話をしていたけど、裕樹くんがだんだん眠そうになってきて、今はこうして二人ともベッドに入っている。
裕樹くんはずっと嬉しそうに入江くんに話をしていた。もうだいぶ遅い時間だけど、ついつい夜更かしをしちゃったんだね。

「じゃ、お兄ちゃん、お休みなさい」
「お休み」

部屋の電気が消され、真っ暗になった。程なくして、裕樹くんのベッドの方から小さな寝息が聞こえてきた。
更に時間が経って。

入江くん…
あたしはベッドに横たわる入江くんの側に浮かび上がり、顔を覗き込んだ。
閉ざされた切れ長の瞳。少しだけ開いた唇。
寝てる、みたい…

「さて」

あたしの隣にはモトコさんが来ていた。

「そろそろ作戦開始ね」
「作戦?」

聞き返したあたしに、モトコさんがにっ、と笑って応える。

「彼にお願いするのよ。彼の見ている夢の中で」



☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

このお話、やっぱり長くなりそうです…
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ジャンル : 小説・文学

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Re: たまち様
コメントありがとうございます!

いえいえ、さすが鋭いなー、と思って!
いろいろ妄想していただいてるみたいで、こちらも嬉しいですよ♪

この頃の琴子は、直樹をずっと見ていられるので幸せいっぱい☆
まだまだ自分の状況をよくわかっていないみたいです。
モトコはハタ迷惑ですよね。オヤジのトーマさんは勝手な行動を取ってますし(笑)。

琴子目線で書いているので、直樹と裕樹のやりとりはさらっと書きました。
この辺がむずかしいところ。
たまちさんの言うとおり、裕樹は直樹の気持ちをわかっているのでいろいろ思うところはあったと思われるのですが・・・それを琴子を通して描くと言うのはなかなかできなかったのです。
琴子鈍いし(笑)。
まあ、筆者がもっとうまく書けるようになればいいんですけどね・・・・・・

そして、夢の中へ!
その通りです。なんたって直樹の夢ですから。難航しますよ~。
楽しくなってきました?
よかったです!
(*^_^*)

そして、間違いなく連載回数更新します・・・それも大幅に。
頑張りますね!ありがとうございます!!

Re: 紀子ママ様
コメントありがとうございます!

琴子はこの頃は入江くんをずっと見ていられて幸せいっぱい。現状はなかなか大変なのですが、そんなことはぶっ飛んでるみたいです(笑)。

そんなことしてると、松本姉が直樹にちょっかいかけること必至なのに。

この時期はまだまだ青い入江くんなので、本当に素直ではないですね・・・
睡眠誘導、でも相手は入江くんなので、難航しそうです・・・・・・
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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