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眠り姫は待ちきれない 5
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・・・・・・・・・・

入江くんはみつめるあたしに気づくこともなく、タオルをテーブルに置いた。
そして。

「!」

おもむろに、パジャマの上を脱いだ。がっしりした上半身が露になる。

うわあああっっ!
あ…朝から刺激強すぎっ!あたしは恥ずかしくなって視線を逸らしたけど…やっぱり気になってちらちらと見てしまう。

「ホント、いい男よねぇ…」

その声にはっとすると、モトコさんが頬を赤く染めて入江くんをみつめてる。

「ち、ちょっと、見ないでよ!」
「何よ、いいじゃないこれくらいっ」
「ダメったらダメーっ!」
「ふーん。ま、まあまあの体かな。僕よりは落ちるけど」
「はい…?」

後ろでぼそりと呟くトーマさんを振り返っている間に、入江くんはTシャツを着ていた。シンプルな白い色がよく似合ってる。
あ、そっか。着替えしてるのね。
え、着替え……?

「「きゃああぁぁっ!」」
あたしとモトコさんの悲鳴が被った。
い、入江くんが、今度は……パジャマのズボンを脱ごうとしてる…!

「いやぁん、まさかこんなところに遭遇するなんてっ」

モトコさんがさらに赤くなって体をくねらせた。

「ちょっ…見ないでってば!」
「いいじゃない、退きなさいよっ」
「絶対ダメーっ!!」

あたしは渾身の力を込めてモトコさんに体当たりした。その勢いのまま、あたし達は窓をすり抜け、外に転がり出る。

「もうっ!何すんのよ」
「覗きなんて絶対ダメっ」
「ちょっとくらいいいじゃない、ケチねっ」
「そんなこと言って、何が天使よ!」
「うるさいわね、美しいものを愛でるのは人の常よっ」

言い合いながらあたし達は、競争するように入江くんの部屋に戻った。するりと窓ガラスを通り抜ける。
ほっ…入江くんはちゃんとジーンズを履いてた。
あー、もう。まだ心臓がばくばくいってる。
でもでも、何とかあの邪な天使から入江くんを守ったわ。
あたし、これからも入江くんを守るからね!
って言っても、入江くんはあたしたちのことなんて全然気づいてないけど。
入江くんは長い脚の片方を床に投げ出すと、片方を立て、ローテーブルの上のマグカップを取って口に運んだ。あれは、コーヒーかな。
一口飲んで、ふとその動作が止まった。
カップを口から離すと、そのカップをみつめてる。
ああ、あのコーヒーだって、入江くんが実家にいる時はあたしが淹れたこともあったのに。
また、淹れてあげたいなぁ……
なんて思ってると。
入江くんが今度は時計を見た。
時間は8時をちょっと過ぎたところ。
それからまた、視線を手にしているマグカップに移し、それからまた違う方に目を向ける。
あれは、床に置いてある電話を見てる……?

なんとなく、なんだけど。
入江くん、何だか落ち着かない感じがする。
少しだけど、視線が揺れているような。
気のせい、かなぁ…

「こいつは…」

いつの間にかあたしの後ろに来ていたトーマさんが呟いた。

「なんか、気に食わないな」
「はい?何でですかっ」
「僕より背が高いし、それに」

入江くんをじろじろ見ながら、眉間に思い切りシワを寄せてる。

「可愛げがないし、おまけに素直じゃなさそうだ」
「はあ?」
「琴子ちゃん、こんな奴と付き合ったら、絶対苦労するよ。やめた方がいいんじゃない」

真面目な顔で、そんなことを言う。

「何ですかっいきなり!」
何なの、よく知りもしないで!
あたしはトーマさんは放っとくことにして、また前を向いて入江くんを見た。
入江くんは、ローテーブルにノートパソコンを出して画面を見つめていた。


***


「なんか、これって…」

夏の明るい陽射しが降り注ぐ中、宙に浮かんでふわふわと進みながらあたしはぼやいた。

「完全なストーカーよね…」

あたしが上から見下ろす下には、入江くんの後ろ姿。陽射しをものともせず、涼しげな顔で歩いていく。
うーん、歩き方も改めて見るとカッコいいわぁ……

「何言ってんの。アンタ、高校の時からよく彼を追いかけ回してたくせに」
「そ、それはそうだけどっ」

う…なんか、記憶を全部知られているって、何だか恥ずかしい…
弱み握られてるようなもんだもんね。

あれから入江くんは、しばらくパソコンで何かやってたけど、1時間くらい経ってから外出した。
向かったのは近くの図書館。予約していたらしい本を何冊かカウンターで受けとると、閲覧スペースの席に座って読書を始めた。
それからまた2時間くらいが過ぎる頃、入江くんは図書館を出て歩き始めた。
あたしはモトコさん、トーマさんと一緒にこっそり後ろを浮かびながらついてきたんだけど。
でも、あたし達がぷかぷか浮かんで移動していても、入江くんも、すれ違う人も誰も気づかない。
それにしても。
こんなに入江くんをずーっと見てるのって、初めてだわ。
高校生の頃なんてクラスが違うからなかなか会えなくって、早く同じクラスになりたいなあってずっと思ってたし。
同居してた時だって、朝とかご飯の時とかは顔を合わせていたけど、それ以外の時って入江くんは自分の部屋に行っちゃってて、実はそこまで会えてた訳じゃなかったし…。
ああ、好きな人をずーっと見ていられるって、なんて幸せなのかしら…。
そうこう思っているうちに、入江くんが着いたのはドニーズ。
あ、今日もバイトだったよね…って、あたしもだ!
入江くんの入ってる日はあたしもシフトに入れてたんだもん。
でも、今あたしはこんなだし、あたしの身体…実体の方は、まだ病院で意識が戻っていないはずだ。バイトになんて行きようがない。店内に入った入江くんはホールを通り抜け、バックヤードに向かった。あたしもお店のドアをすり抜け、後に続く。

「おはようございます」

バックヤードに入り、入江くんは男子用更衣室に入っていった。バックヤードには、店長と他のアルバイトの人が数人いる。もう少ししたらランチタイム。店員が多い時間帯だ。
うう。すみません、あたし…一応ここにいるんですけど、今日はバイトに入れません。
これから混雑する時間なのに、申し訳ない気分になる。

少しして、入江くんが更衣室から出てきた。バックヤードを見回してる。

「あ、入江。今日は急だけど、ホールの人数が一人少ないから。よろしく」

店長がそんな入江くんに声をかけた。

「一人、休みですか?」
「うん。相原さんなんだけど、さっき家族の人から電話があって、急病で休むって」
「………」

入江くんが、ちょっとだけ目を見張った、ように見えた。
入江くん…ちょっと驚いたのかな。昨日、病院の先生は、朝までにはあたしは目を覚ますだろうって言ってたもんね。

「今日、彼はここでバイトなのね」

モトコさんがあたしの隣に来て言った。

「うん。確か5時まで」

昨日と同じ時間のはず。

「ってことは、やっぱり病院には来てくれそうもないわね…」

モトコさんが息をついて言った。

「う…ん」

そうだよね…
あたしが目を覚ますには、入江くんがあたしの身体…実体の方にキスをしてくれないといけない。病院まで来てもらわないとどうしようもない。
来てくれたとしても、キスなんかしてくれるかなあ…あたしは思わず、大きなため息をついていた。


***


「お先に失礼します」

入江くんのバイトが終わった。
着替えを終え、お店を出ていく。あたし達も後を追った。
あれ、マンションとは違う方向に歩いてく…?
入江くんがしばらく歩いて入っていったのはスーパーだった。夕方で、結構混雑してる。
入江くんは野菜なんかをいくつか取ってカゴにいれていく。
そっか、独り暮らしだもん。買い物位するよね。
でも、入江くんがスーパーにいるのって、何か不思議な感じ。
あ、すれ違った主婦っぽい女の人が、入江くんを振り返ってる。
うん、確かにここには場違いな感じするもんねぇ…
会計を済ませてお店を出ると、マンションに向かった。
玄関の鍵を開け、部屋に入っていく入江くん。
当たり前だけど、誰も迎えてくれる人はいない。
静かな部屋。入江くんの実家とは全然違う。
入江くん、こんな生活がしたかったのかな…
静かで、誰にも邪魔されない生活。
寂しくなんか、ないのかな……

そんなことを考えてるあたしの前で、入江くんはスーパーの袋をテーブルに置くと、床に置いてある電話のそばに座り、ボタンを押した。
ピー。
機械音がして、留守電が入っていないとのメッセージが流れる。

「………」

少しの間、入江くんが何か考え込んでるように見えた。
何だろう。今朝も電話を気にしてたけど…
一瞬後。
入江くんは、受話器を取って素早い動きで番号をプッシュした。あたしは、そっと近くに寄ってみる。
受話器から呼出音が聞こえるけど、相手はなかなか出ない。
何回目かの呼出音の後、入江くんは受話器を置いた。ふぅっとため息をつき、入江くんは何事もなかったように立ち上がった。スーパーの袋から取り出した物を片付けていく。
それから、手を洗うとシンク横のカゴからまな板と包丁を取り出した。そして買ってきた野菜を切っていく。一方で、鍋にお湯を沸かし始めてる。
うわ…相変わらず手際いい。情けないけど、あたし負けてるわ…
あっという間に、パスタとサラダが出来上がった。入江くんがローテーブルに運んでいく。
ちゃんとお料理したりしてるんだ、入江くん。
あたしが作ってあげたいけど、やっぱり出来映えも完全に負けてる…。
食べながら、入江くんはまたちらちらと時計を気にしてるようだった。


***


食事が終わって片付けをすると、入江くんはしばらく読書をして、それからシャワーを浴びた。
モトコさんがしきりに覗こうとするのを食い止めながら、あたしはあのバレンタインデーの夜を思い出していた。
入江くんがシャワー浴びてる間、ドキドキしながら待ってたっけ。
入江くんは、あの時と同じように、タオルを肩にかけて出てきた。濡れた髪を拭いてる。湯上がりの入江くんは、やっぱりセクシー。
ベッドに腰かけて、さっきまで読んでいた本をまた手に取り、ページを開いてる。
入江くん、ホントに読書好きだよね。
しばらくそうして本を読んでいたけど、そのうちに眠くなったのか本を閉じて電気を消し、ベッドにもぐり込んだ。
あ、真っ暗になったけど、鳥目のあたしでもちゃんと見えてる。魂だからかな?
よおし。
あたしは入江くんが横になったベッドの上にふわりと浮かんだ。
目を閉じた入江くん。
もう寝たかな…
あたしはそぉっと入江くんに近づいた。目に映る入江くんの顔が少しずつ大きくなってきて、ドキドキする。
うわぁ…こんなに近くで顔を見ちゃってる。
意外に長い睫毛。すっと通った鼻。形のいい薄い唇。思わず見とれちゃう。
あの時も、こうして寝たよね…
あたしは、入江くんの横に体を横たえてみた。
すぐそばに、入江くんの顔。

『キスしたり、それ以上のことをしたり』

あの時入江くんが言った言葉が蘇る。
あの時は、あたしをからかってただけ、だけど。
ねえ、入江くん。
それ以上のことなんて、考えられないけど。
もう一度だけでいいから、あたしにキス、してくれないかな。
そうしないと、あたし元の身体に戻れないの。
もし入江くんが事情を知ったら、きっと自業自得だって言うんだろうけど。
ザマーミロって言っていいから、あたしにキスして。
ああ、でも。
今はもう少し、こうしていたいな……
うん。ずっとこうしていたい。
ふふ。何だかくすぐったい。
あたしはすぐ隣にいる入江くんの顔を幸せな気分で見つめていた。


☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ


何となく、直樹に料理をさせてみたくて(笑)。
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Re: たまち様
コメントありがとうございます!

はい、テンプレ変えてみました♪ちょっと気分を変えようかと。

完全にストーカーです(笑)。もともと琴子はそれに近いことをしていましたしね。
つい追いかけてしまうのでしょう。

この二人が天使っていうのも変な感じしますね。自分で書いておいてナンですが。
トーマなんて、元があの人なだけにやたらと人間臭い・・・・・・そしてやっぱり直樹には対抗意識。
さすがガッキー!

直樹に見えないから、ここぞとばかりにやりたいことをやってみる琴子☆
ついつい、早く戻りたいと言っていたことを忘れて、幸せに浸っています。

そして、たまちさん鋭い・・・!
私びっくりしてしまいました。
そんなわけで、続きも公開しました♪このお話、まだまだ続きます!


Re: 紀子ママ様
コメントありがとうございます!

はい、入江くんは琴子を結構気にしています。
でも琴子は気付いていない・・・今回、この辺りが書くのが難しかったところですね。
いろいろ伏線を敷いているところ、コメントしていただきありがとうございます。

そうですね、トーマさんは人の心に精通しているんだと思います。特に男性の心には鋭いかも。

確かに!
入江くんは琴子の純情なところにもきっと惹かれているんでしょうね。きっとそれをからかったり
いじったりして楽しんじゃうようなイメージが私にはありますが。

琴子にはいつでもポジティブ!というイメージがあるので。
そんなこと無理、といいつつも、そんなことあったらいいなあ・・・とどこか夢見がちに思っている感じですね。なにしろ清里のことを知らないので・・・
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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