スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
旅立つあいつに

... Read more ▼
「入江が、神戸に行くらしい」

そんな噂を聞いたのは、卒業式が間近に迫ったある日のことだった。


「それホントか?」

俺はそれを口にした看護科の数少ない男子学生の友人に聞き返す。

「ああ。医学部でもっぱらの噂だ。神戸医大に研修医として行くって。なんでも、そこが入江の希望する診療科で有名らしい」

「……そうか」

入江直樹。
俺にとっては因縁浅からぬ相手だ。
その妻をめぐっての苦い経験は、もう何ヵ月も前の話となった今も、まだ鮮明に俺の心に刻まれている。

「琴子はどうするんだろうな。啓太、お前さ、琴子から何か聞いてないのかよ?」

友人が聞いてきた。

「いや、別に」

俺は別に何も聞いてない。ただ、最近どうも琴子は元気がなく、気にはなっていた。
原因は、まああいつのことなんだろうとは思っていたが。

「しかし、入江が単身赴任ってことはないよなあ。琴子なら絶対ついていくっていうだろうしな」

友人が言う。

「そうだな……」

俺は、答えながらも、そこから先は友人の声は耳に入っていなかった。





琴子―――入江琴子。俺が本気で好きになった相手。
別に、未練があるわけじゃない。
あれだけ、木っ端微塵に振られたんだ。
この期に及んで何かしようなんて気はさらさらない。
“あたしは、入江くんがお医者さんになるから、看護婦になるの”

そう言って笑った琴子はすごく綺麗で、眩しかった。ああ、こいつをこんな顔にさせるのは、入江だけなんだな。
入江と一緒にいて、幸せなんだな。
全く―――敵わない。
あの時、そう思い知らされた。
なのに、入江が神戸に行く?
琴子があれだけ落ち込んでるってことは、神戸に行くのは入江だけなんだろう。離れて、琴子は平気なのか。

いや。それよりも気になるのは。
あいつは、入江は、平気なのか―――?


☆☆☆


卒業式当日。
俺は、幹や真里奈達と一緒に在校生の席から式を見守った。

「答辞―――入江直樹」
名前を呼ばれ、入江は、壇上のマイクの前に立つ。
「斗南の学舎で過ごした日々を思いおこせば、いくつもの思い出が脳裏によみがえります」
凛とした低い声が会場に響いた。
その姿は、俺なんかから見ても堂々とした、立派なものだった。
いくつもの思い出―――
それは、琴子にまつわることもきっと少なくないんじゃないのか、入江。
琴子もきっと、このどこかで見ているはずだ。
あいつは、どんな気持ちで聞いているだろうか。





卒業式が終わった後。
外にいた俺はようやく、探していた人物を見つけた。足早に歩いていく。これは……医学部の校舎の方へと向かっているのか。
俺は、急いで後を追った。

「……入江!」

医学部の入り口を入ったところで、ようやく追い付き声をかけた。

「何の用だ」

あいつ―――入江は足を止め、振り返った。
何か用事があったのか、声をかけられ、その声には苛立ちが混じっているような気がした。
しかし俺はそれに構わず口を開く。

「神戸に行くんだってな」「ああ」

入江が低い声で答える。

「あいつは……琴子はどうするんだ」
「お前には関係ない」

その声は、ぞっとするくらい冷たかった。

「…連れて行かないのか」
俺は負けずに訊いた。

「あいつは行くって言ったんだろ?だったら……!」
「お前には関係ない」

入江はまた、同じセリフを繰り返した。
入江の鋭い視線が突き刺さってきた。でも。
それこそ関係ない。言わせてもらう。

「お前は、平気なのか?」
入江を真っ直ぐ見据え、俺は続けた。

「お前言ったよな。俺が人間らしくなれるのは、琴子がそばにいる時だけだ、って。そんな大事なモンおいて行って、平気なのかよ!?」

「……これは俺と琴子の問題だ」

しかし入江の声は変わらなかった。
ああ、そうだ。
わかってる。
琴子と入江には俺なんかが割り込めない絆があるってことくらい。
だけど。

「あいつ泣かすようなこと、すんなよな。もしそんなことがあったら、俺が黙っちゃいないからな!」

琴子には未練はない。
だけど、あれだけ、好きになった相手だから。
結婚してるなんてことすら関係なくなるくらい、俺の中で大きな存在になっていたから。
琴子には幸せでいて欲しかった。
せめてあいつが幸せでないと、あの時派手に振られた俺が余計に惨めだろう?

「……ああ。わかったよ」
入江の返事はさっきよりはずっと、穏やかなものだった。
そして、俺に背を向け歩き始める。
と、入江は、ふと足を止めた。

「あ、そうだ。あの、足怪我してた子……、秋子ちゃん、だっけ?」
「……は?」
突然、何を言い出すんだ?

「琴子が嬉しそうに言ってたよ。うまくいってるみたいだって」
「!」

な、なんだよそれ。

「…ま、お前も幸せに、な」

そう言って入江は、今度こそ校舎の奥へと足早に去っていった。
ったく、何なんだよ。
牽制、か?
言われなくたって、わかってるよ。
お前がいない間に、変なちょっかい出したりしねぇよ。
ふん。
最後まで食えない奴だ。
あんなこと言いやがって。せいぜい、琴子がいない神戸で寂しい思いをすりゃいーんだよ!!

俺は、もう見えなくなったあいつの背中に向かって毒づいた―――。




☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

初の啓太目線でした。
啓太なら、神戸に行く直樹に何か言ってやる気になったりするかな~と思って書いた妄想話です。

スポンサーサイト
Secret
(非公開コメント受付中)

管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
そうそう。
たまち様

確かに、琴子に惚れる男はいい男ばっかり!
直樹が一番下・・・しかしそれが夫とは(笑)。

私も金ちゃんいい男だと思います。一緒にいて楽しそうだし。
クリスは幸せだなあ。

プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
カウンター
リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。