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眠り姫は待ちきれない 2
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今日も暑いなあ……

あたしは、この暑さの中を出かけなくちゃいけないことに憂鬱を感じながら、バイトに行く支度をしていた。
今は夏休み。
大学がないから、入江くんに会えるのはドニーズのバイトの時だけ。
今日は入江くん、ちょうどあたしと同じ時間のシフトのはず……
そう思えば、暑いのなんか関係なくなってくるから不思議よね。

「琴子ちゃん、これ」

そんなあたしに、おばさんが声をかけてきた。

「はい?何ですかこれ…アルバム?」

おばさんが差し出したのは、水色の表紙のアルバムだった。

「そう。この前、清里に行ってきた時のねっ。ほら見て、なかなかよく撮れてるでしょう」

「わあ、ほんと!」

おばさんに促され、パラパラ捲ってみると夏休みに皆で行った清里の風景が目に飛び込んできた。

ペンションの前で皆で撮った写真。
あ、これバイト中の入江くん。
これは、隠し撮り?あたしと入江くんが話してるとこ。

「あ、これ皆、入江くんが写ってる。入江くんの写真集みたいになってる!」

それはそれは、素敵な1冊になっていた。
だって、捲ってもめくっても入江くんがいるんだよ!あたしは見ながら興奮しちゃう。

「そーなのよ。これ、お兄ちゃんに渡そうと思って作ったんだけど、琴子ちゃん、今日バイトで会うのよね?お兄ちゃんに渡してくれる?」

「あ、はい」

「ただ渡すだけじゃなんだから、お茶でもしながら一緒にアルバムを見たらいいわ。そして、清里での夏の思い出を語り合うの」

おばさんはにこにこしながら、そんなことを言う。

一緒にお茶…なんて。できたらいいけど…
それに、清里の思い出って…確かに楽しかったけど、入江くんとは何にもなかったんだよね…
松本姉妹もいたし、金ちゃんもいたし。何だか登場人物が多くって。
裕樹くんと一緒に野犬に襲われそうになったところを助けてもらったりはしたけど。

あ、そうだ。夢でキスはしたわね…
何だかリアルな夢で、起きた時はびっくりしたっけ。本当だったらいいのにな……なんて。あるわけないよね。

「おばさん、ありがとうございます。入江くんに渡しますね」

おばさんはきっと、夏休みになって、なかなか入江くんに会えないあたしのためにこれを作ってくれたんだ。
鞄の中に入れる前に、もう一度アルバムに見入る。
ちょうど開いていたページには、木陰でうたた寝して夢を見た、あの時と同じワンピース姿のあたしが写っていた。





「お先に失礼しまーす」

あたしはようやく仕事に区切りをつけ、バックヤードに引っ込んだ。
入江くんは一足先に上がってる。多分今、着替えてるんだ。急がなきゃ…あたしは女子更衣室に駆け込んで着替え始めた。
今日はなんだか混んでいて、入江くんと話をする暇が全然なかった。帰りに時間ある?って訊ければよかったんだけど。早くしないと入江くん、帰っちゃうかも。

「じゃ、お先に失礼します」

入江くんの声が聞こえた。
えーっ、嘘っ、帰っちゃう?
ホントは髪も直したいとこだったんだけど…あたしは諦めて何とか帰り支度を終え、更衣室を飛び出す。

「お疲れ様でしたーっお先でーす」

バックヤードにはやっぱり入江くんはいなかった。あたしはそこにいたバイトの人たちに挨拶しつつ、急いで店内フロアに出た。
入江くんは、もうお店の外にいた。マンションのある方へ歩いていくのが、お店の窓から見える。
あたしはダッシュでお店を出て、入江くんを追いかけた。
入江くんは、そんなに急ぎ足に見えないのに歩くのが速い。あたしはすれ違う人にぶつかりそうになりながら先を急ぐ。

「入江くん!」

少し差が詰まってきて、あたしは入江くんに大声で声をかけてみる。

……反応なし。聞こえなかったのかな。入江くんの歩く速さは変わらない。
あたしは何とか入江くんに追い付きたくて、スピードを上げる。

「入江くん!」

もう一度、名前を呼んだ。
あっ、気がついた。
入江くんが、こっちを見てる。怪訝そうに、ちょっと不機嫌な感じの目があたしに向けられてる。

「あのね…、おばさんがね」

そう言いながら、入江くんに向かって走ろうとした、その時。

キーッ!

空気を切り裂くような音が響き渡った。
あたしは入江くんしか見てなかった。
入江くんの目が見開かれてる。

ドン!

あたしは自分の脚に鈍い衝撃が走るのを感じた。そして。

ゴン!

頭に、これまた鈍い衝撃が走る。

あたしは、そこで、何もわからなくなった――




「琴子は店を出た後、俺を追いかけてきて、交差点で車にぶつかったんです。幸い右折してきた車だったからそんなにスピードも出ていなかった。だからこの程度で済んだんだと思います」

入江くんがその時の状況をお父さんとおばさんに説明していた。

「お兄ちゃんを…追いかけて?」

おばさんが入江くんの言葉に反応した。じっと何か、考え込んでる。

「お兄ちゃん、バイトの時に琴子ちゃんから何か渡されなかった?」

しばらくして、おばさんが入江くんに訊いた。

「いや。何も」
「そ、それじゃあ…」

おばさんは両手で口を覆ってる。

「琴子ちゃん…あのアルバムを渡すためにお兄ちゃんを追いかけて…それで事故に遭ったの…?」

茫然として、おばさんがそう言った。

「アルバム?どういうことだよ」

入江くんがおばさんに視線を向ける。

「こ、琴子ちゃんの荷物は?」
「ああ、ここに」

入江くんがサイドテーブルに歩みより、その上にあったあたしの鞄を取り上げた。
おばさんはそれを入江くんから受け取ると、中を覗いた。

「ああ…やっぱり」

そう呟くと、おばさんはその場に座り込んでしまった。

「あたしのせいだわ…あたしのせいで、琴子ちゃんがこんなことに……」

おばさんが両手で顔を覆い、呻くように言った。

「ちょっと待てよ。これは、お袋が琴子に渡したのか?」
「そうよ」

入江くんの問いにおばさんが頷く。

「あたしがこんなものを渡さなければ、こんなことには……」

おばさん、泣いてる…しゃくりあげる声が聞こえる。
――違うよおばさん。
あたしは穴の下にむかって身を乗り出した。

「おばさん、おばさんは悪くないよ!あたしが、飛び出したりしたから…」

でも、やっぱりあたしの声はおばさんには届かなかった。おばさんは静かに泣き続けている。

「それは違いますよ、奥さん」

しばらく黙って話を聞いていたお父さんが口を開いた。

「直樹くんの話では、琴子が道に飛び出したから車がぶつかったということだった。こいつのことだ、周りも見ずにいたんでしょう」
ベッドに寝ているあたしを見ながらお父さんはため息をついている。

「先生も、じきに気がつくだろうと言ってますし。全く、目を覚ましたらよくよく叱ってやらなきゃなんねぇな」
「相原さん…」

おばさんがお父さんを見上げた。お父さんはちょっと怒ったような口調で言いながらもあたしを見る視線は心配に満ちている。

「奥さん、こちらこそ、ご心配をかけて申し訳ない。奥さんのせいじゃありませんから、どうか気にしないで下さい」
「………」

おばさんはハンカチで目を押さえながら俯いている。
「ほら、お袋」

そんなおばさんに、入江くんが手を差し伸べて立ち上がらせた。

「明日までには、こいつは目を覚ますんだろ?そうしたら、着替えだって必要になるだろうし他にも必要なものがあるんじゃないのか?」
「あ…そうね。」

入江くんの言葉に、おばさんが今気づいたと様子で頷いた。

「いつ琴子ちゃんが気がつくかわからないし…早い方がいいわね。相原さん、あたし今から家に戻って着替えとか持ってきます」
「え、でも」
「それくらいさせて下さい。相原さんは琴子ちゃんについてあげていて下さい」
お父さんは少し躊躇っていたみたいだけど、ちょっと考えて頷いた。

「では、よろしくお願いします。それから、直樹くん」
「はい?」
「本当に今日は迷惑をかけたね。もう夜だし、バイトで疲れているだろう。もう帰って休んだらいい」
「ああ…はい」
お父さんの言葉に頷く入江くん。
その目がわずかにベッドの上のあたしの方を見た。
え、入江くん…
表情はあまり変わらないけど、もしかして心配してくれてる?
あたし、目の前で事故に遭ったんだもんね。びっくりしたよね。

「じゃあ、相原さん。すぐ支度して戻って来ますから」

おばさんがお父さんに言った。

「本当に申し訳ない。よろしくお願いします。直樹くんも、気をつけて」
「はい」

入江くんとおばさんが病室から出ていった。お父さんは頭を下げ、それを見送ってる。
ドアが閉まると、お父さんはあたしが横たわるベッドのそばに椅子を起き、座った。
じっとあたしの顔をみつめている。

「全く…」

あたしが上から見てることに全く気づいていないお父さんが、ふと呟いた。

「お前が慌て者だってことは知っちゃあいたが」

ため息混じりのお父さんの声。

「こんなことになるなんて…俺一人にさせるつもりか…?」

その声にはっとなった。

「お父さん…お父さん!」
あたしは声を張り上げた。
「ごめんね…ごめんなさい…!」

ああ、あたし…
こんなにこんなに、心配かけちゃったんだ。
お父さん…
お父さんの声から、表情から、あたしを想うお父さんの気持ちが伝わってくる。あたしは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
お父さんにも、おばさんにも。
それに、入江くんにだって、迷惑かけちゃって。救急車にだって乗ってもらっちゃって。
早く謝りたい。皆に。
謝らなきゃ。

「わかった?今のアンタの状況」

その声に振り返ると、モトコさんがあたしをじっとみつめていた。

「アンタこれだけ心配かけたんだから、もうこんな風にここに来ちゃダメよ」
「うん、わかった」
「ホントに、こんなカッコいい彼氏にまで心配かけて…」
「うん、ホントに、皆に心配かけちゃって…って」

あたしははた、と、思わず言葉を止めてしまった。

「…モトコさん…今、なんて…?」
「え、こんなに心配かけて、って言ったけど」
「じゃなくて。あの、まさか彼氏とかって言わなかった…?」
「え?違うの?」

モトコさんが不思議そうに首を傾げた。

「ち、違う違う!彼氏だなんてそんなっ」

あたしはブンブン首を振り、大急ぎで否定した。

「え、でもこの人、彼のお母さんなんでしょ。そんな人にこんなに心配してもらえてるなんて」
「でも、違うの!単なる同居人っていうか」

でも今は入江くん、家を出て独り暮らししてるから、それも違うし…

「ふうん…まあ、いいわ」
モトコさんはまだ釈然としない様子だったけど、そう言った。そして、ちょっと意地悪な顔になる。

「確かに、こんないい男、アンタには勿体ないしね」「う…そんなのわかってるもんっ」
「ま、それはともかく」

モトコさんは、軽く息をついてまた表情を変えた。
真剣な顔。

「現状がわかったところで、そろそろアンタ、元に戻りなさい」
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Re: たまち様
コメントありがとうございます!

はい、紀子はイベントごとに命かけてますから、きっとこの時も撮っているだろうと(笑)。

琴子は確かに幼児並み!
それでいつも裕樹あたりに馬鹿にされていますからね。

重雄さん、私も好きなので、書いているとほっこりします。
なんか彼の言い回しも好きだし(笑)。



> 琴子の事だから簡単に事は進まない感じがプンプンします(笑)


はい、その通りでした!(笑)
お話は相変わらず、荒唐無稽に進んでいきます・・・


プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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