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ドニーズへようこそ 2
最近、結婚後の二人ばかり書いていたので、たまには独身時代も書いてみようかと思ったら、このシリーズになりました。

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・・・・・・・・・・・・

(あー…眠い…)

電車に揺られながら、座席に座る琴子は半分眠っていた。
冷房の効きすぎた車内。ノースリーブのカットソーを着た琴子には肌寒く感じるのだが…それよりも睡魔の方が勝っているようだった。気を抜くと自然と瞼が落ち、体がゆっくりと揺れ出す。
それもそのはず。今、琴子は始発電車に乗っていた。目覚まし3台を駆使して何とか起き出し、駆け込み乗車をして今に至る。

(あーやばいなー…こんなに眠くて…仕事になるかしら…)

ほとんど働いていない頭の片隅で、そんなことを考える。
琴子が早起きをして向かっているのは、バイト先。直樹もバイトしているファミレスチェーン、24時間営業のドニーズである。
夏休みに入ってから、直樹は深夜の時間帯のシフトを入れるようになった。理由は時給が格段にいいからである。お陰で、バイト先で琴子は全く直樹に会えなくなってしまった。ただでさえ夏休みに入って、大学がないというのに――そして直樹は相変わらず琴子のいる入江家には全く顔を出さない。いい加減直樹不足に陥った琴子は、自分もシフトを変えることにした。
本当は直樹と同じ深夜にしたかったのだが、父と直樹の母・紀子に危ないからと反対され、仕方なく直樹のバイトの終わる早朝にシフトを入れたのだった。
最初の30分は直樹とバイトの時間がかぶっている。その30分のために、琴子は眠い目を擦りながら、電車に揺られているのだ。

(ねーむーいー…でももうすぐ入江くんに会える…ガンバレあたし…)

必死に念じながら、でも心地よい電車の揺れに身を任せそうになる。
そんなことを繰り返していると。
気がつくと、電車が停車している。
(あれ……?)
開いているドアの向こうに、駅名が書いてあるのが目に飛び込んできた。

「――!」

琴子は一気に目を覚まし、ドアに駆け寄ろうとする。が。
ピシャー
琴子の目の前で、電車のドアが閉まった。間髪入れず、電車が動き出す。

「う、うそ…」

その駅は、琴子が降りるはずの駅だった――


***


ドニーズの店内。
コーヒーのお代わりを注いで回っていた直樹は、壁に掛かる時計に目を向けた。すでに本日の労働の終盤――残り時間はもうすぐ30分になろうとしている。
次に、直樹は店の外に目を走らせる。正確には店の入口付近を。
しかし、そこには誰の姿も見えなかった。
今の時間、ホール係は直樹一人。
深夜から早朝にかけては、混雑することはまずない。ごくたまに、どこかで飲んでいて終電を逃したといった風情の団体客等が訪れることもあるが……この日はちらほらとしか客は来ず、閑散としていた。
各テーブルの紙ナプキンや爪楊枝の補充等、深夜の手の空いた時間にやるべきことも終え、直樹は少々手持ち無沙汰だった。
この分なら、自分がバイトを終えて帰っても大丈夫そうだ、と直樹は思った――自分の後の時間を引き継ぐバイトに多少、いや相当の問題があっても。

(確か、俺が帰ってから30分後に、もう一人来るはずだしな)

いつも覚えてしまっているバイトのシフト表を思い起こしながら、直樹はまた入口に目を向けた。が、やはり誰も入ってくる気配がなかった。

(………)

直樹がわずかに眉を潜めていると。

「すみませーん」

客の呼ぶ声がした。

「はい、只今伺います」

声のした方に向かって歩き出した時。
カラーン
店の入口が開く音が響いた。
(ったく、遅ぇよ)

反射的に視線を再び入口に向ける。
だが。

「ここ、いい?」

入ってきたのは、よくこの早朝の時間帯に来店する中年夫婦だった。

「あ、はい。いらっしゃいませ」

何とかいつもの調子で返事をした直樹だったが――内心、肩透かしを食った気分だった。

(あいつ…)

直樹はだんだんと苛立ちが涌き出てくるのを自覚しつつも、店員を呼んでいる客の元へと急いだ。


***


「お、おはよーございま…す…」

ぜいぜいと肩で息をしながら、ドニーズの制服姿の琴子がホールに現れたのは、直樹のバイト終了時間まであと10分となった時だった。

「お早くねーだろ、遅刻しといて。大方、寝坊でもしたんだろ」

直樹はグラスに氷を入れながら冷たい視線を向ける。

「寝坊はしなかったんだけど、電車で寝過ごして…」
「ったく、どーでもいいけど、お前ボロボロだぞ。客商売なんだからな、何とかしてこいよ」
「えっ…あ、はいっ」

急いで走ってきたため、琴子は汗だくだった。左右に分けて上げていた髪も所々ほつれ、無残な有様である。
(あーあ…もう、最悪)
遅刻はしてしまうし、こんな状態を直樹の目に晒してしまうし。
(おまけに入江くん、もうすぐバイト終わりだし)
ただでさえ、一緒に働けるのは30分しかなかったというのに、その時間を更に短くしてしまったのだ。琴子はしょんぼりと更衣室に向かった。
琴子が何とか体裁を整えて戻ってくると、直樹はコーヒーのフィルターを交換しようとしていた。
「あ、入江くん、あたしやるよ!」
琴子はコーヒーの粉の入った袋を取り出して新たなフィルターにセットする。
しばらくして、芳しい香りと共にコーヒーが落ち始めた。

「今日は空いてた?」
「ああ、だいぶ暇だったな。今も空いてるし」
「そうだね」
「ま、この分なら少しの間、お前一人でも大丈夫だろ」
「え、あたし一人?」

琴子は驚いて直樹を見上げた。

「30分だけな。お前みたいなトロい奴を長時間一人にするようなシフトは組めないだろーからな」
「失礼ねーっ。一人でも大丈夫だもん」
「お前の苦手なデザート類はモーニングメニューにないしな」
「うっ…それは助かるけどっ」

意地の悪い直樹の言葉も、今の琴子には嬉しいもので。
こうして他愛もない話ができるのも、店内にほとんど客がいないからであった。店内が混んでいれば、こうはいかない。

(今日は結構いい日かも…)

少しの時間でも、直樹と話ができた。コーヒーの香りに包まれながら、琴子は遅刻したことも忘れ、幸せな気分になっていた。


***


ふう、と息をつき、バックヤードに戻ってきた直樹は休憩用の椅子に座った。大して忙しくはなかったとはいえ、一晩店番をしていたのだ。多少の疲れはある。と、そこに。

「入江くーん」
琴子が入ってきた。

「な、お前何こっち来てんだよ」
「え、だって今ちょうどお客さん誰もいなくなっちゃったし。ほら、これどうぞ」

そう言って琴子が直樹の前のテーブルに置いたのはコーヒーカップ。中から芳しい香りと湯気が立ち上っている。

「お疲れ様。落とし立て、入れて来ちゃった。遅刻のお詫び」
「お詫びって…これ売り物だろうが」
「1杯くらい大丈夫よー。じゃ、戻るね」

琴子は直樹ににこっと笑ってから戻っていった。

(正直、ここのコーヒーはあんまり好きじゃねーんだけど)

琴子を見送り、そんなことを思う直樹。
それでも、カップを持ち上げ、一口飲んでみる。

「………」

意外だった。それほど悪くない。
ここのコーヒーはこんな味だっただろうか?
なんと言うか、飲んでいてほっとする気がする。

(まあ、実家で飲んでたコーヒーよりは落ちるけど)
実家のコーヒーは、母の紀子が豆からこだわって選んだものだ。実家に住んでいた頃は毎朝飲んでいた。

(…そういえば)
実家にいる頃はいつも琴子がコーヒーを淹れて持ってきていたことを、直樹はその時思い出していた。



すっかりのんびりしてしまった。直樹はホールを突っ切り、出入口へと向かう。

(少し混んできたな)

先程の余裕はどこへやら、琴子は忙しく立ち動いていた。直樹が帰ろうとしているのにも気づかないようだ。
(ま、このくらいなら一人でも何とかなるだろ)

直樹は店外へ出た。まだ早朝の時間だが、湿気でむんとした空気が体に絡み付く。
(もうすぐ、一人来るし…)

マンションの方へと歩きながら、ふと辺りを見回した。通勤途中のサラリーマンがちらほら歩いている、が。
(………)

何となく嫌な予感がする。

(いや、でも俺もうバイト終わったし)

歩きながら、そんなことを考える。

(さすがにちょっと寝たいしな)
(腹も減ったし)

何だか言い訳じみた言葉ばかり浮かんでいる気がする。
さっき見たばかりの顔が頭に浮かんだ。
忙しくて周りが見えていない顔。

(………)

そこに。

「朝飯どーする?」
「あ、あそこにドニーズあるじゃん」
「お、いいねぇ」

そんな声が聞こえてきた。男ばかり5人ほどの一行が、こちらに歩いてくる。

(…ったく)

直樹は舌打ちをし、くるりと踵を返した――


***


(ひーん。さっきまで暇だったのに~っ)

琴子は駆けずり回るように店内を動きながら、いっぱいいっぱいになっていた。

「ちょっと、注文したいんだけど!」
「あ、はい!」
「あの、モーニングセットを注文したんですけど、まだですか?」
「少々お待ち下さいっ」
「コーヒーのお代わりもらえる?」
「はいっ、ただいま!」

自分でも何をどうすればいいか、だんだんわからなくなってくる。

「ほら、料理はできてるのよ。早く持っていって」

奥に一度引っ込むと、厨房担当の女性から声が飛んできた。

「は、はいっ」
あわてて料理を運ぼうとして。
ガッシャーン!
手を滑らせ、料理の乗った皿を落としてしまった。

「………」
「あ、あの…すみませんっ。もう1回作って下さいっ」

固まる厨房の女性に謝り、琴子は泣きたくなってきた。

(おかしいなぁ…もうすぐバイト一人来るって入江くん言ってたよね…)

おまけに。

「これ、テイクアウトしたいんだけど」

メニューを指差している客を前に、琴子はくらりとしてしまう。

(テイクアウトって…どうやるんだっけ…?)

ハンディに入力しながら、冷や汗をかく琴子。

(どこかに、それ用の箱があるはず…)

また奥に引っ込んで、テイクアウト用の箱を探していると。

「すみませーん、お会計お願いしまーす」

レジの方から声が聞こえた。

「あ、は はいっ…きゃっ」

レジに向かおうとして、琴子は足を滑らせた。先程料理を落とした時に、満足に片付けもできていなかっので床が汚れていた。そのまま、ずでっと派手に転んでしまう。

(ううっ…痛い…)
顔を打ったが、そうも言っていられない。
あわてて立ち上がろうとした時。

「何やってんだよ」
「入江くん!?」

琴子は声を上げた。
転んだままの琴子を私服姿の直樹が見下ろしていた。

「か、帰ったんじゃなかったの?」
「トロいお前が客に迷惑かけてたら申し訳ないからな」
「ううっ入江くぅん」

思わず涙が溢れてしまう。
「ほら、立てって」

直樹は琴子の手を取ると、ぐいっと引っ張り立ち上がらせた。

「入江くん…」
「俺はもうホールに立てないからな。裏でフォローしてやる。ほら、まずはレジ、行ってこい」
「う、うん!」
「打ち間違えんなよ」

それから。
直樹の指示のもと、琴子はまた忙しく動き回った。

「ほら、アイスティー入れたから持ってけ」
「はいっ」
「戻ったら、テイクアウトのやつできてるからな、客に渡して」
「うん!」
「あ、新規の客来たぞ。一先ず席に通せ」
「はいっ」

こうして。
客の波が一段落するまで、琴子と直樹は絶妙(?)のコンビネーションで乗り切ったのだった――


***


「ごめんなさいっ!!」

ようやく現れた女子大生アルバイトが、直樹と琴子に頭を下げた。
「すっかり寝ちゃってて…」
暇を見て直樹が電話をかけて叩き起こし、呼びつけたのだった。

「ううん、大丈夫だったよ涼子ちゃん。あたしと入江くんで何とかなったし」
「お前は言われた通りに動いてただけだろうが」

調子のいい琴子に、直樹は呆れる。
そんな二人に、女性アルバイトが言った。

「もう、二人に申し訳なくて…お詫び、させてね」
「…え?」



「いっただっきまーす」
琴子は味噌汁の蓋を開け、一口啜った。

「ったく、いくら奢ってもらえるからって、トンカツ定食食うのかよ」
「だって、働いたらお腹空いちゃって」

呆れる直樹を余所に、琴子は勢いよく食べ始める。
二人はドニーズの客席にいた。遅刻したバイトが「何でも奢るから!」と半ば強引にバイトの終わった琴子と直樹を客席に座らせたのだった。
時間は昼前。ランチタイムが既に始まっているが、まだ店内は混み合ってはいない。

「入江くんはホントにそれだけでいいの?」
「ああ」

直樹の前にはコーヒーカップが置かれるのみ。
もはや空腹を感じられなくなっていた直樹は、コーヒーだけを持ってきてもらったのだった。

「せっかくなんだから、何か頼めばいいのに。パフェとか」
「お前が頼めば」
「えっいいの!?」
「………」

更に呆れつつ、直樹はカップを口に運ぶ。

が。

「―――」

何だろう。やはり、好きになれない味がする。
さっき、バックヤードで飲んだコーヒーは違ったのに…何故だろうか。

(…あの時は落としたてのコーヒーだったからか…?)

何だかそれ以上飲む気になれず、直樹はカップを置いてしまった。

「入江くん!パフェ頼んでいいって言うから頼んじゃった」
「お前、ホントに食うのかよ?」
「え、だって、入江くんいいって言ったじゃない。あ、半分あげようか」
「いらねーよ」
「疲れた時は甘いものがいいのよ~」

向かいの席で、琴子はにこにこしている。時折店員が奥から出てくると、はっとそちらに目を向けている。まるで子供である。

「お前、がっつき過ぎ」
「え、そんなことないもん」

そんなやり取りをしていると、何だか不思議と疲れが取れるような気がしてきた。

「あ、来た来た~。うーん、美味しそっ」
「おまっ…こんなでかいパフェ頼んだのかよっ」
「えー、だって入江くん、コーヒーだけじゃ足りないと思って。ほら、あーん」
「いらねぇっつっただろっ!」


***


「お義母さん達、今頃どのへんかなあ」
「温泉につかってから、飲んで大騒ぎしてるってとこだろうな」

直樹と琴子は夫婦二人、久しぶりにドニーズに食事に来ていた。
今日は紀子と重樹、重雄は九州に旅行に行ってしまい、不在。裕樹も友人宅に泊まりに行ってしまい、帰ってこない。

「さて、帰るか」
「えっ」

食事が終わり、直樹が早々に席を立つと琴子は目を丸くした。

「もう行くの?入江くん、食後にコーヒー飲むかと思ってたのに」
「ああ、いい」

そう言って、レジの方へと歩き出す。
会計を済ませ、店を出たところで、直樹が後から来た琴子を振り返った。

「家に帰ったらさ」
「うん?」
「コーヒー淹れて、琴子」

そう言って、手を差し出す。

「うん!」

琴子はとびきりの笑顔で直樹の手を取り、二人は歩き出した。



☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

これは、実話を元にイリコト変換しています。
早朝、一人の店番の時に混むと辛いです…客に同情されました(笑)。

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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Re: たまち様
コメントありがとうございます!

> まさに青々とした直樹

はい、そうです。なんだか久しぶりに結婚前の直樹を書いたら、青くなりすぎてしまったかもしれません(苦笑)。
でもやっぱり、琴子のピンチとなると放っておけないのはこのころから同じかな、と。
そして、テニスのダブルスと同じく、結構息の合ったところを見せてみたりして♪

> 琴子も直樹の胃袋をコーヒーで掴んだ

そうかもー!
他の料理は絶望的なのに。すごいですね(笑)。

私もバイト時代、人手が足りない時に限って混むってことがよくありましたよ。あれって不思議ですよね。

でも、手伝ってもらったりしていたなんて、いいお客さんばっかりだったんですね。
(*^_^*)
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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