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黄金週間 8 (最終話)
やっとここまで来ました。よろしければどうぞ。
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・・・・・・・・・・・・

6日目 17:15p.m.

「入江先生。電話やて」

医局で雑務に追われる俺に、受話器を手にした川島先生が声をかけた。

「電話?」

病院にかけてくるなんて…誰だ?心当たりはないが。首を傾げながら電話に出る。

「もしもし」

――お兄ちゃん!ああ、やっと捕まえたわっ。

「お袋っ!?」

受話器から聞こえてきた声に、思わず声が大きくなってしまう。
川島先生がぎょっとしてこっちを見た。

「何だよ職場にまで電話してくんなよ」

俺は声を潜めた。

――だってマンションにかけてもお兄ちゃんいないでしょ。こっちの方が確実だと思って。

…まあ確かにそれはそうだが…。

――で、琴子ちゃん、そっちにいるんでしょ?

「ああ」

――けなげよね、琴子ちゃん。お兄ちゃんに会いたくて会いたくてついにはこっそり会いに行ってしまうんですもの。

「…………」

こっそりって……

――まあでも、お兄ちゃんにとっても良かったでしょ。

「なにがだよ」

――お兄ちゃんだって、琴子ちゃんいなくてずっと一人だったんですものね。ここらで琴子ちゃんに会えて良かったでしょ。そうね、遅れてやってきたゴールデンウィークって感じかしら?

「俺はずっと仕事してたぞ…じゃなくて、用があるならさっさと言えよ」

ったく。久々にお袋と話すと、どうも調子を狂わされるな。

――もうっ!相変わらず可愛いげがないわねっ。そう、琴子ちゃんはいつ帰って来るのかしら?看護科の桔梗さんからも電話があって、もうすぐ実習だっていうし。

「琴子は明日東京に帰る」

――まあっ、本当!?琴子ちゃんがそっちに行っちゃってから、あたし寂しくてしょーがなかったのよ。ふふ、明日ね。嬉しいわ~。あ、でもお兄ちゃんは寂しくなっちゃうわね。

「…用件はそれだけか」

――あ、待って。琴子ちゃんに、三宮の『神戸シュークリーム』買って帰って来てちょうだいって伝えてね。あー楽しみだわ、明日はそれで琴子ちゃんとお茶できるのねっ。

「…もう切るからなっ」

ガチャン。

ったく……
職場にかけてきて、何かと思えば。
しかし、琴子はちゃんとお袋に言ってなかったのか?

「何や、琴子ちゃん、明日帰るんか」

いつの間にか川島先生が近くに寄ってきていた。

「ええ。あいつは勉強中の身ですから」

「ふうん…だから、さっきのアレか」

川島先生は急に声を潜めた。

「あんなとこであんなアテられるとはなぁ。一緒におったナースが卒倒しそうやったで」

ああ。そういえばさっき、見られてたんだっけ。

「琴子ちゃんに言っとくんやったなー。旦那に悪いムシがつかんよーに、俺が見張っといちゃるって」

「その必要はないですね」

俺は即答した。

「悪いムシが、琴子に敵うことはないですから」

「かーっ。独りもん相手にのろけんなや」

川島先生が破顔した。



6日目 23:14p.m.

「…ただいま」

俺は早いとは言えないけれど、日付が変わる前にマンションに帰りついていた。

「お帰りなさーい!」

琴子が笑顔で玄関まで出て出迎えてくれる。
今日は何としても琴子が起きている時間に帰ろう。そう思ってひたすら業務をこなしてきたのは俺だけの秘密。
…しかし、いいもんだな。お帰り、と言ってくれる人が家にいるってのは。俺はひそかにそんなことを思っていたりする。

「今日は本当にお疲れ様。よかったね、奈美ちゃん」

「ああ」

部屋に入りながら俺は答える。

「入江くん、シャワー浴びる?」

「いや、病院で浴びてきた」

俺はベッドに腰を下ろした。

「また勉強してたのか」

ローテーブルには、またテキストが広げられていた。

「うん。帰る支度はだいたいできたし」

琴子は俺の足元に座り、テキストに手を伸ばした。

「じゃあ、一週間の遅れはすぐに取り戻せるな」

「うっ…あ、あの…ちょっとわからないところがあって……入江くんに聞こうかと」

琴子が言葉に詰まりながら振り返った。縋るような上目遣いの瞳。


「ふーん。勉強がわからないから俺に帰って来てほしかったって?」

俺は意地の悪い声で言ってやる。

「ち…違うもん。わからないからじゃなくてっ」

琴子は俺の方を見て、真っ赤になりながら否定した。

「入江くんの部屋なのに入江くんがいないのは、寂しいんだもん…」

拗ねたような目で俺を見上げる琴子。

「寂しいんだ?俺の部屋でも」

「寂しいよ」

琴子はぽつりと言った。

「東京でだって、すごく寂しいんだから…あたしなんて、あんな広いベッドで一人で寝てるんだよ」

「寝相の悪いお前にはちょうどいいんじゃないのか」

「ひどい!もう……、本当にさみしいんだからね。入江くんのいないあのベッドなんて…」

「………」

――ったく。
ああもう。
そんな台詞、そんな目で言われたら。

「じゃあ…」

おれはベッドから滑り降りると、拗ねて向こうを向いている琴子の顔に手をかけてこちらに向かせた。
そして、顔を近づけてお互いの額をくっつけ合わせ、琴子の目をじっと見つめる。

「おれのいるベッドを満喫して帰れよ」

そっと甘く、囁く。
それから琴子を抱き上げて、ベッドに下ろした。
また、しばらく会えない日が続く。だから今、お前を目一杯感じたい。そしてお前に刻み付けたいんだ。俺の印を。
会えない日に、お前が俺を思い出せるように、深く深く――

おれは久方ぶりに自分の欲望に忠実になり、求めて止まないそのぬくもりに溺れていった――



7日目 10:35a.m.

「あーあ…最後の朝くらい、あたしが朝ごはんを完璧に作ってあげたかったな…」

隣を歩く琴子が、やや不満そうにぶつぶつ言っている。

「しょーがないだろ。起きれなかったんだから」

「もう!それは入江くんが昨日なかなか寝かせてくれなかったからっ…」

俺の言葉に反応して言い返した琴子だったが、そこまで言って真っ赤になっている。
くくっ…思い出してるな。昨日のこと。

「ま、昨日はおれのいるベッドを満喫できただろ?」

「もうっ!やめてよっ」

…ホントにからかいがいのあるやつ。
俺たちはそんな会話を交わしながら駅へと向かった。
この時は、今日はこのまま、普通に別れるんだと思っていたの、だが。



7日 11:22a.m.

「裕樹を奈美ちゃんの結婚相手!?」

新神戸駅構内に、俺の声が響き渡った。
お袋のリクエストで三宮の神戸シュークリームを買い、ここまで来た俺たち。
奈美ちゃんから預かった手紙を琴子に渡した。それを読んだ琴子の顔はみるみる真っ青になり――俺は奈美ちゃんとどんな約束をしたのか問い詰めた。
まさかここまでとんでもない約束だったとは――!

「だ、だってね入江くんにそっくりな男性がいいっていうから。でも入江くんは絶対ダメだし」

二の句を告げないでいる俺に、琴子が言い訳を並べ立てる。

「途方に暮れてたらフッと裕樹くんの顔が浮かんで」

…おい。

「で、つい調子に乗って…入江くんより年も近いし」

裕樹は今16歳。確かに俺よりは年が近い、が。

「入江くんよりハンサムで入江くんより超天才で入江くんより超背が高くって…って言ったら、急に「手術する!」って言ってくれて。やったーっと思う反面、あ、やばい?……って」

――お前ってやつは……

「そしたら奈美ちゃん、16歳になったら裕樹くんと結婚する……って」

「約束したのか」

「え……つ…つい」

「ばかやろう!このウソツキ女!」

思わず怒鳴り付けた。

「ったくその場限りのできない約束しやがって。奈美ちゃんになんて言い訳するんだ。裕樹にも好美ちゃんにもだ」

「えーそれが思いつかなくって。 い、入江君ならいいアイディアが…ね」

「そんなものはないっ」

あるわけねーだろーが。ったく、こんな時まで人を当てにしやがって。

「ブッコロされとけ」

俺は琴子に背を向け、さっさと改札に向かって歩き出す。

「い、入江くうん」

琴子が情けない声で俺を呼びながら後をついてきた。

そうこうしているうちに新幹線の改札に着いた。

「じゃあな」

俺は持ってやっていた荷物を渡すと、素っ気なく言った。

「うん。送ってくれてありがとう」

琴子はしゅんとなって縮こまっている。

ったく……
まさかそんなことになっていようとは。さすがに、今度ばかりは呆れた。
…だけど。
今日別れたら、次に会えるのは…夏休みだろうか。
また会えない日が続く。夢のためだと言っても……きっと、会いたい気持ちが募るんだろうな。お互いに。
そうだ。これだけは言っておかないと。
俺は右手をのばし、琴子の被っているキャップをぐっと押さえつけた。

「国家試験絶対1回で合格しろよ」

琴子の耳元に、はっきりとそう言ってやる。
そしてそのまま手を放し、俺は琴子に背を向けて歩き出す。
一瞬後。

「入江くうーーん!あたし…あたし…がんばるねー!!」

背中に声が飛んできた。
ったく…、改札の向こうから叫んでんじゃねーよ。
そう思いながらも、俺は口の端を上げていた。

ホント、頑張れよ、琴子。そして早く、神戸に来いよ。
俺の夢は、一人じゃ叶わないんだ。
今の俺の夢。
昨日見た風景をたくさんたくさん、作り出すこと。
それには、お前が不可欠なんだから。
もちろん、ナース姿のお前が、な。
それに――

もう1年お前と離れているのは、俺だって無理なんだよ。
だから、きっと来年神戸に来い。
俺は、ここで頑張るから。未来に繋がるように、今を頑張るから。
待っているから。


先ほどは二人で通ったところを、今度は一人で戻っていく。駅構内を抜け、ロータリーに出た。
琴子がいなくなった俺の傍らを、風が通り抜けていく。それが妙に落ち着かない。心にぽっかり穴が空いたような、そんな感覚。
例えば、長い休みが終わった時のような。
ああ、確かにお袋の言った通り、休暇みたいなもんだったかもな。
琴子のいたこの一週間は、俺にとって遅れてきたゴールデンウィークだったんだ――。

俺は空を見上げた。
今日はいい天気だ。澄み渡る、どこまでもまぶしい青。

「今を戦えない者に、次や未来を語る資格はない、か……」

そっと呟き、歩き出す。

さて。今日は1日休み。これからどーするか。
とりあえず、仕事に穿いてくスラックスでも買いに行くか。琴子に焦がされたしな。
琴子がいなくなった部屋にまだ帰りたくなくて、俺はどこに買い物に行くかを考えていた。

(完)



☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

終わりました……!
あとがきは後程。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Re: たまち様
コメントありがとうございます!

紀子は気を使ったんですね。琴子がいない間、東京でニマニマしていたことでしょう(笑)。

はい、夫婦いちゃいちゃは見られていました(笑)。羞恥心ないですから、本人動じることもなく。
そしてゴールデンナイト!
ここまで悶々とした夜を送っていた分、直樹だって満喫したことでしょう(笑)。
私は直樹をじらすのが大好きですから(おい)、ここまでじらしにじらしてきたので。

よろしく哀愁~♪懐かしい!!
メロディーが流れてきましたよ。
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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