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黄金週間 3
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2日目 8:48a.m.

「おはようございます。あ、今、帰りですか」

神戸医大病院、更衣室。
出勤してきた俺が着替えをするべく入っていくと、川島先生が帰り支度をしているところだった。

「おう。緊急で手術入ってなー。やっと帰れるわ」

「大変でしたね。お疲れ様です」

若干疲れの見える顔に挨拶をし、俺は自分のロッカーを開ける。

「…ん?」

不意に、川島先生が俺に近づいてきた。俺の方が背が高いので見上げる格好になっている。

「…なんか、いいことあったんか?」

「え?」

「いやー、なんか昨日と顔が違うで」

俺の顔をじっと見て言う。

「そうですか?」

首をかしげる俺。

「そうや。なんか、明るい、すっきりした顔しとるで」

…自分ではいつもと同じつもりなんだが。

「入江先生の“イイこと”聞きたいねんけどなー。残念やわ。また今度な」

ニッと笑い、川島先生が更衣室から出ていった。

俺はロッカーの扉についた小さな鏡を見た。見慣れた自分の顔が映っている。
そんなちょっと見てわかるくらい、顔が違うだろうか…?
まあ、確かにいつもより寝覚めはよかった気がする。
何より。
目が覚め、腕の中にあいつが眠っているのを見た時の安心感とも幸福感ともつかぬ気持ちがしたのは否めない。

あいつは今、待合室で俺が出てくるのを待っている。帰る前に、俺の研修医姿を一目見たいんだそうだ。
昨日俺をつけ回してた時に見ただろう、と言ったのだが…昨日は物陰から見ていたのでよく見えなかったのだと言い張る。
まあ、それくらいは許してやるか。俺は渋りながらも了承した。
その判断がまた、まさかの展開につながっていくとは、俺はこの時、想像もしていなかった。



2日目 10:28a.m.

「俺の奥さんだよ」

俺と琴子の関係を問い詰める奈美ちゃんに告げた俺の一言。
信じようとしない奈美ちゃんは泣きながらその場を走り去ろうとし…発作を起こして倒れた。
教授とも相談し、奈美ちゃんはそのまま入院することになった。しかし、頑として手術を受けることを拒んでいる。

「……でも、入江先生とお母ちゃん結婚するんなら手術してもええわ」

ついにはそんなことを言い出した。
お母さんに怒られ、宥められても一向に譲らない。梃子でも動かない様相を呈している。
子供ってのは、結構頑固なもんだな。なかなか、これは強敵だ。

「ごめんなさいね。あの子の言うこと気にせんとってくださいね。何かもう思いこんでるみたいで」

廊下の長椅子に座り、椎名さんが口を開いた。

「いえ」

その隣には琴子が座っている。
俺はその横に立ち、話を聞いていた。

「父親が亡くなって、自分も病気で心細かったと思うんです。きっと入江先生が父親なら…って夢見てるんでしょうね」

椎名さんがため息混じりに言う。

「でも大丈夫。私からきっと説得して早めに手術する決心させますから」

安心させるように笑って、そう言った。

「僕もできる限りするつもりです」

「あたしもです」

答えた俺の後ろから、さらにそんな声がした。

「え」

俺が振り返ると。

「あたしにまかせてくださいっお母さん」

琴子の目がやる気モードになっている。

「奈美ちゃんをきっと手術させてみせます」

なんと、そんなことを言い出しやがった。

「おまえは今から帰るんだろうが」

「何いってんの、このまま奈美ちゃんほって帰れるわけないじゃない」

「帰った方がいいんだお前は」

また首を突っ込むつもりか。そうやって、いつも騒動を大きくしてしまう癖に。

「半分は私のせいな気もするし。それに、さっきの入江君の態度だって奈美ちゃんにはストレートすぎると思う。もっと子どもの気持ち考えるべきよ、小児科医なんだから」

こ、こいつ……俺が気にしていることを。
昨日教授に言われたことを、なんでこいつに言われなきゃなんないんだ。
憤る俺を余所に、琴子は椎名さんの方を向いた。

「大丈夫お母さん。一応私、看護婦の卵なんですよ。優秀なんです私」

……おい。誰が優秀だって?

「将来は小児病棟の看護婦になるつもりですし」

「!!」

何だと!?

椎名さんは、まあご夫婦で・・・と感心している。
お前……小児病棟の看護婦になるって、いつ決めたか言ってみろよ!

「まだ学校の実習も始ってないし、少しの間なら」

琴子はぬけぬけとそんなことを言う。すると。

「お願いしちゃおーかな」
なんと椎名さんが陥落した。

「えっ本当に」

ぱっと琴子の顔が輝く。

「私もずいぶん説得したけど手強い娘なもんで。少し荒療治が必要なんかもしれへんわ」

荒療治って……確かに椎名さんが奈美ちゃんの説得に手を焼いているのはわかるが。
琴子に頼むなんて荒療治も荒療治。藁にもすがるとはよく言うが、こんなとんでもない藁に頼まなくたって。

「そうですよ」

しかし、完全にスイッチがオンになった藁……いや琴子はどんと胸を叩いた。

「あたし、この3日間、全力投球で奈美ちゃんを説得します。そして一日も早く元気な体になってもらって早く入江君のことあきらめてもらわなきゃ」

お前……――

あまりの展開に呆然とする俺に、パワーMAXとなった琴子を止める術は残されていなかった。



2日目 13:37p.m.

琴子がいようが、研修医としての仕事は続いていくわけで。
あれから俺は仕事に戻り、忙しさに埋没していた。ようやく休憩となり、食堂で昼食を取る。
琴子は今日はしばらく奈美ちゃんの説得をしてみると言っていた。
全く、どうやって説得するつもりなんだか……後で様子を見に行ってみるか。

「あ、入江先生。ここ、いいですか?」

小児科のナースが二人、トレイを持ってそばに立っている。俺の座るテーブルには他に誰も座っておらず、空いていた。

「ええ。どうぞ」

「すみませーん」

ほっとしたように、俺の隣と向かいの席にそれぞれ座るナース二人。

「あの…入江先生」

片方が、席についたのに箸も取らず、俺に話しかけてきた。

「はい?」

「今日、椎名奈美ちゃんの病室に、若い女の方がいたんですけど…お母さんの他に」

「はい」

「なんか、入江先生の…お知り合いだって噂が流れてて」

訊きながら、俺の様子をちらちら伺っているナース。ああ。この感覚。
大学の頃にもよくあったな。
琴子といるだけでこうして噂の渦中に放り込まれた。こっちに来てからは静かな毎日だったってのに…琴子が来ただけでこうなるんだな。

「まあ、知り合いではないですね」

俺はお茶を飲みながら言った。
途端にパッとナースたちの顔が明るくなる。
一気に雰囲気が変わり、二人とも箸を取り上げ、食べ始めようとする。

「そーですか~。やっぱり噂なんてアテにならんわあ」

「ほんまやわ~。そんな噂、入江先生にだって失礼やし…」

「妻です」

「は?」

二人の動きが止まる。

「今、妻が東京から来てまして。奈美ちゃんの病室にいるはずです」

「…………」

二人とも俺の言葉に呆然とし、持ったばかりの箸を取り落としている。

「ここ何日か病院に来ると思うので、何かとご迷惑かけるかもしれませんが」

…そういえばこの二人、俺が仕事が終わって帰ろうとしてたら、飲みに誘ってきたことがあったな。

「じゃ、俺は仕事に戻ります」

言い終えないうちに立ち上がり、トレイを返却口に返すと食堂を後にした。


奈美ちゃんにも言ったけれど。
琴子は俺の奥さんで。
確かに頭は悪いし美人でもないけれど、それでも。
俺にはもう、欠くことのできない存在なんだ。

神戸に来てからは、離れて暮らしているけれど、そばにいないからこそ、俺は自分の中のあいつの存在の大きさを感じてる。
奈美ちゃんに言った言葉、琴子はストレートすぎると言ったけど、じゃあなんて言えばよかったんだよ。
子供にこそ、嘘は言えないだろ。
琴子は俺の奥さん。それはもう、未来永劫変わらないんだから。



3日目 0:30p.m.

いつの間にか、日付が変わっている。
今日もやっぱり帰りが遅くなってしまった。
体は疲れてはいるが…俺の足取りは軽い。
マンションへの道を歩きながら、今日の夕方のやり取りを思い出す。


「ほら」

俺はポケットから出したものを掌に載せ、琴子に差し出した。
それは、キーホルダーも何もついていない、鍵。

「え…これって」

「俺のマンションの部屋の鍵だ」

「え、でもこれ、あたしが持ってていーの?入江くん困るんじゃ…」

「ほら」

俺はもう片方の手で、もう一つ、鍵を取り出し、琴子に見せた。
全く同じ鍵が、二つ。
俺はそのうちの片方を再度琴子に差し出す。

「これは合鍵。お前のだ」
「入江くん…」

ぱあぁ…っと、琴子の顔が輝いた。

「いーの?いーの?あたしこれほんとに受け取っていーの?」

「いいも何も。これがないと、お前うちに入れないだろ。俺は何時に帰れるかわからないし」

「わぁ…こんなのもらえるなんて、何だか彼女みたーい」

合鍵を受け取った琴子は、それを嬉しそうに握りしめてはしゃいでいる。
彼女って…お前は俺の奥さんだろうが。
お前はこういう時、いつもこういう反応なんだな。


「ねえねえ、何か夜食とか作っとこうか?」

「…いい。ほんと、何時になるかわかんねーし」

「えー、そんな遠慮しなくても」

「いいって。お前は先に寝てろよ。戸締り忘れんなよ」

つまんなーい、せっかく新婚さんみたいなのにー、とふくれる琴子。その髪をくしゃっとなでて、俺は病院から送り出したのだった。



マンションが見えてきた。いつもは真っ暗な俺の部屋の窓から明かりが灯っているのがわかる。
俺は知らず知らず、口角が上がっていた。足を運ぶスピードが上がる。
マンションに入り、エレベーターの上ボタンを押す。なかなかやってこないのがもどかしい。
こんな気持ちで帰宅するのはこっちに来て初めてだな。
やっと来たエレベーターに乗り、俺は自分の部屋に辿り着いた。
ガチャリ。
夜のしんとした空気の中、鍵をあける音が響く。
そっとドアを開け、俺は中に滑り込むように入った。
1枚ドアを隔てた向こうから、明りが洩れている。
起きているのか?しかし反応はない。
ドアを開け、中を見た俺は――固まった。

琴子は、部屋の中央に置いてあるローテーブルの上に突っ伏して眠っている。
幸せそうな寝顔。すっかり熟睡だな。
テーブルの上には看護科のテキスト。一応、勉強できるように持ってきていたんだな。
まあ、それはいい。
しかし。
その格好は――

「お前……」

思わず声が出た。
俺のパジャマの上しか着てないんじゃないのか、それは。
当然サイズが大きすぎるその裾からは、ほっそりした生足が出ている。
見慣れた自分のパジャマを琴子が着ただけで、こんなに艶めかしく見えるとは……
こいつ、わざとこんな格好したのか!?
確かに、パジャマなんか持ってきてはいなかっただろうけど。

ったく・・・・・・

「襲うぞ」

耳元で低く言ってやる。
だが、一度眠りに入った琴子が、何があっても朝まで起きないことは、おれが一番よく知っている。

結局。
俺は昨日に引き続き、またしてもこいつの無意識(だよな?)の仕打ちに悶々としながら、一夜を明かしたのだった――



☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

またしてもこの展開・・・・・・
すみません!
でも一度、直樹のパジャマの上だけ着る琴子、を書いてみたかったのです。
ホント、それだけのためにここまで書きました。
そしてこのお話、無駄に長くなりそうです。
なんか妄想が止まらず・・・・・・
自己満足まっしぐら!になりそう・・・・・・
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Re: たまち様
コメントありがとうございます!

琴子は強いです!まさに恋の勝利者ですから。
本人は気付いていませんが直樹にもずっと勝ちっぱなしですものね。
無自覚ゆえの強さでしょうか。直樹にしたらたまったものではないでしょうが(笑)。

神戸でもモテたでしょうね、直樹。いつもなら琴子が追っ払ってくれるのに、これまではいませんでしたから
ちょうどいい機会だ、とでも思ったようです。

最後は・・・せっかく急いで帰ってきたというのに、うちの直樹はこんな目にばっかりあっていますね。
あわせてるの私だけど(笑)。
直樹をいじめるのは書いていて楽しいのです♪
No title
琴子ちゃんらしいね!奈美ちゃん、を、説得したり、琴子ちゃんは入江君には、著lと難しい所、その一方で、琴子ちゃんもきずかない、お色気で、入江君を、悩殺ですね❓v-24
Re: なおちゃん様
コメントありがとうございます!

直樹ができない10%をやってしまう琴子、の例の一つが、この奈美ちゃんのエピソードなんでしょうね。
まあ、とんでもない手を使っていたのが、あとでばれるわけですが(笑)。

その一方で、こうして無意識に直樹を悩殺・・・無意識だからこそ強いのでしょうか。直樹としてはたまったもんじゃないですけどね。(笑)
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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