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黄金週間 2
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1日目 20:06p.m.

「東京では、もう夏休みに入ったのか」

俺の堅い声が、部屋に響き渡る。
目の前には、本来ここにいるはずのない琴子。落ち着かない様子できょろきょろ部屋の中を見回している。

ここは俺が独り暮らしをしているマンションの部屋。
今日、俺は担当する患者、椎名奈美ちゃんのことで、そのお母さんと公園で話をしていた。琴子はそこで下手な変装までして俺達の様子を見ていたのだ。
奈美ちゃんに追い回された挙げ句に俺に見つかった琴子は、何ともばつの悪い、情けない有り様だった。自分で言い出した約束をあっさりと破ってしまっただけでなく、こそこそと隠れていたところを見つかったのだから無理もない。俺の冷たい視線も相まって、琴子はここに来るまでの間、ずっと小さくなっていた。
今も、久しぶりの夫婦の再会の場面、とは程遠い。

「…ごっ、ごめんなさい」

琴子は泣き出しながら謝った。

「だ、だってね、あたし、あたしね、い…入江くんに会えないし電話してもいないし」

「当直で3日間帰れなかったんだ」

「なんだか勉強にも身が入んなくって、でも入江くんとの約束があったから…だ、だからこっそりと一目拝んで、すぐに帰ろうと思ってたの」

琴子は、目を擦りつつ、しゃくりあげている。

「けっ決して入江くんに迷惑かけるつもりなんてこれっぽっちも」

「……一目の割にはつけまわしてたよーだな」

「うっ」

言葉に詰まる琴子。
そう。一目見るだけなら、あの公園に琴子が来れるはずがない。
そういえば、昼間も奈美ちゃんが病院で「くいだおれ人形にそっくりな人がいる」と騒いでいた。それはこいつのことだったんだな。

「だ、だ、だって、い、入江くん、あんな美人な奥さんと……その……ただならぬ雰囲気をかもしだしてたから、その……」

歯切れの悪い口調で、琴子がそんなことを言い出した。

ただならぬ雰囲気、だと?
何をどう勘違いしてるんだ。

「あっ…べ、別に入江くんをし、信じてないわけじゃないの。そ、そう私全然疑ってなんか…」

俺に睨まれ、琴子は途端にしどろもどろになった。
疑っていない。そう言いながらも、琴子の目は忙しなくきょろきょろと動いている。嘘を言っているのがバレバレだ。

…ふうん。俺が浮気してるんじゃないかと疑っている、と。
俺を信じていない、と。

「…お前どーすんのこれから」

俺は、お前が聞きたいことなんて、言ってやらない。
さっさと話を変えてやる。

「も、もちろん帰るわよっ。まだ最終に間に合うし。言ったでしょ一目見れば帰るって」

言いながら、琴子は立ち上がった。

「入江くんの元気な顔見れたし。約束だもんねっ夏休みまでって。あっ、送らなくっていいわ」

不自然なくらいの笑顔でまくしたてる琴子。

ふーん。そうなんだ。送らなくっていいんだ。

「あっ、そう。じゃ、元気でな」

俺はあっさりと別れの言葉を口にする。

「う、う…うん。い……入江くんも」

顔をひきつらせながら、琴子はそろそろと玄関に向かい、靴を履いた。ドアを開け、部屋の外に出たところで振り返る。こわばったままの笑顔。

「じ、じゃあね」

ドアが閉まり、琴子の顔が見えなくなった。

と思ったら。

バターン。

「あーーごめん。リュック忘れちゃったー」

ドアが開いて、琴子が入ってきた。
置いてあったリュックを取り上げ、また玄関へ向かう。その間、その目は俺の方をちらちらと伺っていた。
…何か言いたげな顔。いや、言ってほしい顔だな。
でも俺は無言で見守る。

ドアを開け、琴子は俺を振り返った。

「じゃ、今度こそ、またね」


再び、ドアが閉まる。

と。

バターン

「あーーーやっだー。帽子も忘れてた。もー、ドジねー」

妙に勢いよくドアが開き、再び琴子が入ってきた。
取り繕うような明るい声が空々しい。

「ほら。もー何にもないからな」

俺はそばに落ちていた帽子を拾い、差し出してやる。琴子が俺の手から帽子を受け取った。
玄関から外に出て、開いているドアの隙間から顔を出す。その顔は存外明るいものだった。

「うん、わかってる。じゃあね」

バタン。

みたび、ドアが閉まった。パタパタ…と、廊下を走っていく音が聞こえる。

…明らかに、無理をしている。
俺に聞きたいことがあるはずなのに、何も聞かずに。こんなんで帰ったら、余計に勉強に身が入らないんじゃないのか。
何を強がってるんだか。

いや――

強がってるのは……お互い様か。

「………ったく」

俺は立ち上がり、玄関のドアを開けた。外に出ようとし……動きを止める。

「あっ」

琴子が、廊下の少し先に座り込んでいた。
突然出てきた俺を見て固まっている。

「えへへ、え…えっと、えっとね」

笑って誤魔化せると思うのか、乾いた笑いが廊下に響く。

「……!今度は何だ」

「あわわ」

俺の表情を見て慌てる琴子。急いで立ち上がり…項垂れた。

「し…新幹線の最終に、ま、間に合わなかった…」

だんだんと、小さくなっていく声。

「…って、1時間後に言おうかと思って」

―――……

白状する琴子に思わず絶句した。
また、なんつー突拍子もないことを。
その一方で、やっぱり琴子は琴子だと思う。
いつだって、俺の想像を越えることをしでかして。
呆れながら、怒りながら、俺は。
そんなお前を、もっと見ていたいと思うんだ。
一緒にいたいと――思うんだ。

ことあるごとに、お前を思い出していた俺。
そんな俺が、お前に会えて嬉しくないわけないだろうが。
どうしてくれるんだよ。
こんなに、俺の気持ちを引きずり出してきて。
お前はいつもそうやって、俺を動かしていくんだ。
結局、自分の思い通りにしていくんだ。
――お前は気づいていないだろうけど。

「ったく。もういいから泊ってけよ」

「えっ、で、でも」

ため息混じりの俺の言葉に琴子が顔を上げた。大きな瞳が俺をみつめる。

「どのみちきっとそうなるよ」

――そうだ。
本当は、気になって気になって仕方ないんだろう?俺と椎名さんの関係を。
そんなお前が東京に帰れるわけがないだろうが。
そして、それを突き放せずにこうしてドアを開けて出てきた俺。

認めるよ。もう、俺の完全な敗北だ――

「い……いいの」

途端に瞳を潤ませる琴子。そして、うあーーん、と声を上げて泣きだし、俺に抱きついてきた。

「本当はね、すごくすごく会いたくって一緒にいたくって、あの人のこと気になって」

俺の腕の中で泣きながら、琴子はようやく胸の内を吐き出す。

「…ったく。さっさと素直にそう言えよ」

俺は片方の手で琴子を抱きしめ、もう片方でぽんぽんと琴子の頭を軽くたたき。
敗者の負け惜しみでしかない台詞を口にした。



1日目 23:16p.m.

「………あの親子、椎名さんっていうんだけど」

今、俺たちは狭いシングルベッドの上にいる。
俺は横になり、その隣に琴子は脚を伸ばして座っていた。
久しぶりのこの距離感。手を伸ばせば届くところに、琴子がいる。
それだけで、この部屋がまるで別のものに見えるから不思議だ。

「奈美ちゃん、俺の担当の患者なんだ。主治医もいるけどね」

「えっ、あんな元気そうなのに」

「まーね。今は元気にしてるけど」

確かに知らなければ奈美ちゃんは病気とは思われないだろうな。
散々追い回されたこいつならなおさらだ。

「生まれつき心臓に問題があってね。今までに何度か発作も起きてる」

「心臓に」

目を見張る琴子。

「ある程度大きくなるまで手術を待ってたらしくって時期的に今がいいと思ってるんだ。何年か前に奈美ちゃんのお父さん亡くなったらしくって、もしかして自分も死ぬんじゃ……って手術を嫌がってるんだ。母一人娘一人で奥さんも心細いんだろ。いろいろ相談にのってたんだよ」

「……そ、そうだったんだ。あたしったら……」

事情がわかり、琴子はしゅんと落ち込んでいる。と、その瞳が大きく見開かれた。

「入江くんっ。入江くん、小児科行くの!?」

俺の顔を覗き混み、訊いてきた。

「そうだけど。知らなかった?」

「……知らなかった。…あたし、てっきり外科に行くものだとばっかり」

…そうか。そういえば、ちゃんと話したことはなかったな。

「できれば小児外科をやっていきたいんだ。今の病院はその分野で成果あげててね」

俺は起き上がって言った。

「はじめは外科に行こうか迷ったけどね。ただ、自分が何をしたかったのか、何目指して医者になろーと思ったのか。そう思うと意外に答えは簡単に出たからね」

「入江くんがお医者さんになろうとしたきっかけ……?」

琴子は目を見開いて俺をみた。
――全く心当たりがないというように。

「まあ、些細なことだけどね」

「えーー何?何?」

…覚えてないのか?
俺の人生を変えた、一言を。

「……教えない」

「えーっ。どーして。聞きたいーーっ」

「もう寝るぞ」

声を上げる琴子を遮り、俺は再びベッドに横になろうとする。

「聞き…」

なおも言いかける琴子の唇を、自分のそれでふさいだ。

よく来たな。
会いたかったよ――本当は、俺も。

そんな気持ちをも込めた……久しぶりの、触れるだけの軽いキス。
そして俺の不意打ちに力の抜けた琴子を引き寄せ、寄り添うように横たわらせる。

「おやすみ」

腕の中の琴子に囁く。

「う…うん。おやすみ」

さっきと打って変わって、琴子はおとなしくなった。しばらく、そのままじっとしている。

が、不意に俺のパジャマの胸の辺りをぎゅっとつかんだ。

「わぁ……」

俺に腕枕をされた状態で、琴子は大きな瞳をさらに見開き、俺を見つめた。

「なんだよ」

「入江くんがいる」

「なんだよそれ」

押し掛けて来といて何を言ってるんだか。

「入江くんの匂いだあ……」

琴子は目を閉じ、すう、と空気を吸い込んだ。
そして目を開け、ふわりと笑った。

――ったく……

そんな目で見るんじゃねーよ。
お前、明日帰るんだろ。
俺だって仕事だし。

なのに。
腕から、胸元から――触れているところから、じわりと伝わる琴子の感触が、俺を捉えていく。
その、柔らかい感触が。
俺は無理やり目を閉じた。身体の奥にひそやかに灯った熱を、そうして押さえ込む。
――ダメだ。
そんなことをしたら帰したくなくなるじゃねーか。
自分自身に叱咤して。
しーん、と部屋に訪れた静寂。
はあ、と思わずため息が漏れ……琴子に気づかれたかと急いで顔を覗き込む。

「………琴子?」

返事はない。
もう一度よく顔を見る。

すーっ、すーっ……

規則正しい寝息が聞こえてきた。
琴子は眠っていた――幸せそうな笑顔のまま。
また、思わずため息が漏れた。
ったく……
お前、今俺が何を考えていたかなんて知らないんだな。
そんな安心しきったような顔しやがって。

そして、その晩。
俺は片腕にかかる甘い責苦のような重みに悩まされつつ……、それでもそのぬくもりに確かに癒されながら、いつの間にか眠りについていた。




☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

直樹って、自分でも言ってたけどやっぱりマゾ体質かも…と、今回あらためて思いました。
(*≧m≦*)
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Re: たまち様
コメントありがとうございます!

消えてしまったコメント、書きなおしていただいてありがとうございました。

ようやく会えたのに、意地悪な直樹。
おそらく直樹はこの時、琴子に浮気を疑われたのでお仕置きしてたんだと思います~。
俺がそんなことするわけねーだろ!って。

でも、患者の家族と時間外に外で会うって、疑われても仕方ないような気が。
私もそれ、原作読んだ時そう思いましたよ。

そしてまた、生殺し(笑)。
うちの直樹はずいぶん辛い目にあっております。

ああ、そうか!
AB型でしたね!極端だー。相手をする琴子が大変かも。でもそのコメントに納得しました。
No title
何だかんだ?入江君、琴子ちゃんには、甘い、弱いですよね?態度こそ出さないけど、思い切り、強がっていますが。琴子ちゃんが好きすぎて、かわいすぎて、入江君は、たまらないて感じ、琴子ちゃんも、入江君をわかっているんでしょうが、入江君の、やりたい、分野お医者様として、一番の、理解者、応援者ですね。v-100斜体の文太字の文
Re: なおちゃん様
コメントありがとうございます!

そうなんですよね!
なんだかんだ言って、直樹って結構琴子の言うことを聞いてしまうんですよね。
特にこの頃は、ずっと琴子と離れていて、ことあるごとに琴子のことを思い出してしまうくらい琴子不足だったのですから余計ですね。
一見クールで、琴子をあしらっているように見えながら、実は琴子に甘い直樹、というのも結構私は好きだったりします(笑)。
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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