スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
黄金週間 1
もう6月になる、ということで。
原作のこのエピソードはそれくらいの時期なので、その裏側を私なりに書いてみました。

なお、病院についての記述で、おかしなところがありましても、素人が書いたということでスルーでお願いします(滝汗)・・・

そして、今までは構成力のなさから敬遠してきた中編(かな?)に挑戦してみたいと思います。
... Read more ▼
・・・・・・・・・・・・

1日目 7:15a.m.

昨日もやっぱり帰れなかった。
これで3日間、マンションに帰っていないことになる。
さすがに今日は帰りたいな…俺は仮眠室のベッドの中で伸びをした。
俺が帰る一番の目的は、溜まった洗濯物を洗うことでも、ゆっくり自分のベッドで眠ることでもない。留守電に入っているあいつからのメッセージを聞くことだ。

神戸に来てはや2ヶ月――
気がつけば、ゴールデンウィークも仕事で忙しくしているうちに過ぎ去り、今はもう新緑の季節。病院を訪れる人々の装いも、初夏のそれになっている。


「あたし、夏休みまで入江くんに会いに行かない!会わないで頑張る!!」

この前、やっと電話で会話できた時に琴子が言った。
あいつにしては珍しい。そんなことを言うなんて。
でも、あいつがそう決心したのなら、俺が言うことは何もない。毎日必死に勉強しても、成績は思わしくないあいつのこと。この1年で看護師になろうとするなら、それこそ1日だって無駄にはできない。神戸に来ている暇などないはずだ。

「お前にしてはいいこと言うな。お互い頑張ろう」

俺はそう、琴子に言ったのだった。
俺の方は、研修医として、毎日忙しく、不規則な生活を送っている。当直でここ3日間のように帰れないこともザラだ。実際に琴子が来たとしても、相手をする暇があるかどうかも怪しい。


夏休みまで、あと2ヶ月以上もある。
それまでは、電話と留守電のメッセージだけのやり取りが続いていくのだろう。
今日帰ったら、またメッセージが溜まってるんだろうな。そう思い、思わず笑みが零れた。



1日目 09:23a.m.

「陽太くん」

俺は自分の担当する患児の病室にいた。
ベッドの上で横になっている陽太くんに声をかける。が、返事はない。

「朝ご飯、食べなかったんだって?」

「………」

「ちゃんと食べないと、よくならないよ」

「………」

陽太くんは、向こうを向いたまま、黙っている。

患児にはいろいろな子がいる。医者になついてくれる子ばかりではない。長い入院生活でストレスを溜め、接するのが難しい子もいる。
俺はこの患児とのコミュニケーションの取り方で、壁にぶつかっていた。その中でも、この陽太くんはその最たるもので、俺と全く話をしてくれない。担当のナースとも、話すことはあっても一言二言くらいだという。

「朝、何も食べてないんじゃ、お腹空くだろう?昼はしっかり食べような」

俺は明るい前向きな声で言ったが、最後まで返事が返ってくることはなかった。


1日目 13:48p.m.

仕事の時はいい。忙しさに埋没し、何も考えずにいられるから。
でも――。


遅くなったけど、ようやく昼食。俺は食堂にやって来た。適当に定食を頼む。
出てきたのは焼き魚と里芋の煮物。

「ここ、ええか?」

俺がテーブルにかけ、食べていると、同じ診療科の先輩、川島先生がトレイを持ってやって来た。どうぞ、と言うと俺の向かいに座った。

「お、里芋や。俺、好きなんや」

川島先生は一つ箸でつまみ、口に入れる。

「うん。うまい」

「ええ。よく煮えてますね」

まさか先生は、俺が生煮えの里芋を思い出しているとは思いもしないだろう。

ここには、不味いけれど一生懸命俺のためだけに料理を作ってくれる人はいない。

「入江先生」

「はい?」

川島先生が食事をしながら声をかけてきた。俺は頭に浮かんでいた顔を急いで振り払う。

「ここんとこ、ちゃんと帰れてないやろ」

「…ええ」

「大丈夫か?」

「まあ、はい」

「そうか?なんかな、端から見てると無理しとるよーに見えんのや」

「……体調は悪くはありませんが」

確かに多少の寝不足はあるが、そんなに心配されるほど調子は悪くない。
しかし、川島先生はちょっと笑って首を振った。

「体調のことやあらへん。なんてゆーかなぁ、なんとなーく疲れとるように見えんのや。心がな」

「………」

「たまーにぼーっと何か考えとる時あるな?」

「…そう、ですか?」

ぼーっとしている……。この俺が……。

「まあ、ほんの短い間だけやけどな。なんか思い詰めたよーな顔しとったから、気になってたんや」

「…そうですか…」

そんな顔をしている時があるなんて、自分では全くわからなかった。

「たまには息抜きせんとあかんで。まあ、こっち来たばかりで難しいかもしれんがな」

言われて驚いた。
確かに、神戸に来て生活は激変した。研修医…学生ではなくなったというだけではない。
東京にいた時、あれだけ騒がしく、賑やかだった俺の周りは一転して静かになった。マンションに帰っても、当たり前だが誰もいない。そんなことに、初めのうちは確かに落ち着かない気がした。でも、こっちに来て2ヶ月が経って、自分ではもう慣れたと思っていたのに。

「…ありがとうございます」

東京にいた頃、俺はどうやって息抜きをしていたんだろう…
息抜きのために何かをしていた、という記憶が全くない。

川島先生にお礼を言いながら、俺はしばらく考えていた。




1日目 16:35p.m.

「そーか…陽太くん、食欲が落ちとるか」

午後の回診が終わり、俺は師事する教授のところにいた。

「入院も長くなっとるし、そのせいでストレス溜めとるのかもな」

教授は椅子に深く腰掛け、カルテを見ている。

「ところで」

カルテから目を離し、教授は俺の方を見た。

「君、3日間、帰っとらんやろ。今日は早よう帰り。家でゆっくり休みなさい」

「ありがとうございます」

「あ、君は単身赴任やったなあ。それじゃゆっくり休むばかりでもいられんか」

教授はそう言って笑う。
教授には、結婚していることを赴任当初から言ってあった。

「まあ、そのせいかもしれんなあ」

不意に、教授は声の調子を変えた。

「何がですか?」

「最近、君はどーも余裕がない気がするんや」

「余裕、ですか」

「何か、切羽詰まってるというか、な。」

そう言って、教授は軽く息を吐いた。
そして、机に両肘をついて手を組み、座ったまま俺を見上げる。

「君はとても優秀や。知識も申し分無い」

「…ありがとうございます」

「けど、そればかりではいい医者にはなれんのや。特に、小児科医にはな」

教授は俺の目を見て、言い聞かせるように言う。

「今日の午前中、陽太くんの病室にいたな」

「はい」

「陽太くん、ちっとも話をしてくれんかったやろ」

「…はい」

見ていたのか。全然気づかなかった。

「君は、患者の声を聞こうとしとらんのや」

「声、ですか」

「せや。ああいう入院患者は、自分の中に溜め込んどるもんがあるもんや。特に子供は、それがわかりにくい」

「………」

「それを引っ張り出すことが、往々にして治療の近道だったりするんや」

「君は、優秀やし、非常に熱心や。患者を何とかしたい、と思っているのがよく伝わってくる」

「…………」

「患者を早く治したい、と思うことは勿論悪いことやない。だが、そればかりで患者本人のことが見えとらんと、治療はうまく進まんもんや」

「患者本人のこと……」

「そうや。患者の心がな。君は余裕がないあまり、そのことを忘れとるんやないか?」

「………」

余裕がない…
切羽詰まってる…

それは、昼に川島先生に言われたことと似ていた。

二人の人に言われるくらい、俺は今普通じゃない状態なんだろうか……
それも、仕事にも影響が出るくらいに。
教授の医局を出ても、俺の頭はそのことで占められていた。




確かに――

疲れていると、琴子の笑顔が頭に浮かんだ。
たまにぼーっとしているというのは、そんな時なんだろうな…
正直、あいつがいないということが、こんなにも俺に影響を与えるとは思っていなかった。
マンションに帰り、誰もいない部屋のドアを開けた時。
ベッドで目覚め、傍らに誰も眠っていないことに気づく時。

そんな時、俺は確かに、琴子を思い浮かべている。…琴子に会いたい、と思っている。

こんな調子で、夏休みまで、か……

あいつは…琴子は、俺がこんな風になっているなんて、きっと想像もしていないだろうな…

「あっ…と」

考えながら歩いていたら、ナースステーションに差し掛かった。現在の時刻が目に入る。

5時に中央公園。今日は担当患者の奈美ちゃんのことで話をすると、お母さんと約束している。
少し遅れてしまうかもしれないな。俺は帰り支度をするべく、更衣室に急いだ。



☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

そんなわけで、次、再会です。
スポンサーサイト

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

Secret
(非公開コメント受付中)

管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
Re: まみるく様
コメントありがとうございます!

すごく嬉しいです!ありがとうございます!
このタイミングで記事を更新して良かったです(笑)。

私は原作大好きで、その雰囲気を少しでも出せればと思って書いているので、
まみるく様のコメントに勇気づけられました。
書いて更新している側も、ドキドキなんですよ。読んで下さる方が
どう思われるかって、やっぱり気になりますし。

書くのが本当に遅いので、お待たせしてしまっていて申し訳ありません。
少しでもまみるく様にまたドキドキしていただけるようなお話を早く書いていきたいと思います。
今後ともよろしくお願いします!!
Re: たまち様
コメントありがとうございます!

はい。直樹は琴子不足で大変です☆琴子が禁断症状なら、直樹だって同じくらい辛いはず!
でも、琴子の強がりを覆してこっちに来いよとは言えないし・・・

そうそう、直樹の息抜きはまさに琴子とのかかわり。いきなり息抜きしろを言われると困ってしまうのです。
というか、直樹って何か趣味があるんでしょうか?今回このくだりを書いててふと疑問に思いました。

はい、教授はずばりと指摘してます(笑)。
原作では直樹側の事情というか近況は書かれていないのですが、絶対何か壁にぶつかってるよなあ、と思って
こんなエピを入れてみました。天才といえども、順風満帆なはずはないっと思ったのです。
たまち様の言うとおり、これは避けては通れないから大変ですよね。

そんなこんなですが、もうすぐ琴子と再会できます♪
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
カウンター
リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。