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恋の力
前作『雨のち晴れ』の続き、『覚めない夢』の裏側です。


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・・・・・・・・・・・・

朝――

俺はカーテンを少しだけ開け、外を眺めている。

――いい天気だ。
昇ってきた朝陽が眩しい。
木漏れ日が、木の葉を濡らす水滴にきらきらと反射している。

俺の気分もまた、この天気のように晴れやかだった。こんな朝を迎えるのは久しぶりだ。
昨日までは、眠ったはずなのに疲れは取れず、体も心も重かったというのに。

俺はまだ眠っている裕樹を起こさないように、そっと部屋を出た。





「あーら、お兄ちゃん。おはよう」

俺がダイニングに入ると、キッチンからお袋が顔を出した。
その顔も、昨日の朝とは全く違う、明るい顔だった。昨日までは、やたら機嫌が悪いか、疲れた顔をしているかのどちらかだったのに。
裕樹だって、腫れ物に触るかのように俺と接していたもんな。
俺が見合いをしてからというもの、家族にも暗い陰を落としていたんだな……。


「今日も早く行くの?」

「ああ」

「せめて、琴子ちゃんに会ってから行きなさいよ。きっと琴子ちゃん、昨日の今日で何が起きたかまだ信じられないでいるわよ」

…そうだよな。
お袋に言われるまでもなく、俺も同じことを思っていた。

いや……純粋に俺があいつの顔を見たいだけ、かもな。

「あいつ、まだ寝てるだろうから…」

椅子に座り、新聞を広げながらそう言った時だった。

2階の方から、かすかに物音が聞こえた。そして、ばん、とドアが開く音。

だだだっ…

ずいぶんあわてたような足音が聞こえた、と思ったら。

ドターン

「!?」

衝撃音に思わず立ち上がる。
こんなことをするのは、間違いなく。

「琴子!?」

俺は急ぎダイニングを出て、音のした方へ駆け寄った。
見ると、琴子が階段の下に突っ伏した状態で倒れていた。
どうやら階段から落ちたらしい。

「琴子っ」

俺は琴子のそばにしゃがみこむ。
琴子は俺の声に反応するように、首を動かし、上を見上げた。
どこか打ったのか、顔をしかめている。

「…大丈夫か?怪我してないか?」

俺と目が合った途端、琴子は目を見開き、そのままじっと俺を見つめてきた。

「入江くん……」

琴子の唇から俺の名前が零れ出た。
どこか怪我したか?見た目にはわからない。

「入江くん……入江くん……」

しかし、その口からは俺の名前しか出てこない。

「どこか打ったりしたか?」

態勢的に頭を打ったとは思えないんだが。
しかし琴子は俺を見上げたまま、

「ああ、これも夢?…入江くんが優しい……意地悪言わない……」

と呟いている。

「お前なぁ…」

思わずため息をつき、俺は額を指で弾いてやる。

「いたっ」

「痛いだろ?」

俺は、琴子の顔をじっとみつめて言った。

「だから、夢じゃないんだよ」

やっぱり、まだ信じられないんだな。
まだ、大きな瞳でひたすら俺を見上げている。

「ほら」

俺は琴子の手を取り、自分の方へ引き寄せる。
腕の中に収まった琴子をぎゅっと抱き締めた。

「昨日お前に言ったことは、夢でもなければ嘘でもない。お前お得意の妄想でもない」

そっと、耳元に囁く。
腕の中の琴子が、かすかに震えた気がした。
俺は頼りなげな細い身体をさらに力を入れて抱き締める。
柔らかい感触。
琴子のぬくもりが伝わってくる。

――ああ、気持ちいいな。
こうしているのが、たまらなく気持ちいい。
もっともっと、触れていたくなる。
こんな気持ちになるのは生まれて初めてだ。
そのことに気づき、俺はなんだか、くすぐったいような、こそばゆいような…そんな気分になる。

「忘れた訳じゃないだろ?」

もう一度耳許で囁くと、琴子がびくんと反応した。

「忘れるわけないじゃない!あたし、あたし……」

俺の腕の中で顔を上げ、琴子は潤んだ瞳を向けてきた。
その瞳に、俺は引き込まれそうな錯覚を覚える。

もっと、――触れたい。

思わず手が動き、その顔を引き寄せそうになった、その時。

「―――……」

視線を感じる。
目線だけ動かしていくと……、こちらを向いているビデオカメラが目に入って来た。


――お袋っ!

なんなんだよ一体っ。

「…で、ホントに怪我はないんだな?」

俺は思わずキスしそうになっていたことを気取らないように、さりげなく琴子から体を離した。
そっと琴子の顔を覗き込む。

「う、うん。大丈夫」

「ったく…気を付けろよ」

「…うん、…ごめんなさい」

琴子は俺の衝動に全く気づいていない。
それが琴子らしくて、思わず苦笑した。

「じゃ、さ」

とりあえず怪我がなかったことに安堵して、俺は琴子の頭にぽんと手を置いた。

「コーヒー淹れて。琴子」

「うん!」

そう答え、眩しいくらいの笑顔を浮かべる琴子。
そして俺は――また琴子に触れたくなるのを体の奥で感じていた。





パシャパシャッ

ダイニングに入った途端、今度はフラッシュが瞬いた。

「琴子ちゃ~ん。おはよう~」

お袋が、今度はデジカメを構えている。
ったく…どーゆー素早さだよ。

「朝のさわやか~なツーショット写真、いただきねっ」

さっきの廊下での撮影成功も影響してるのか、えらくテンションが高い。

「ほらな。どっぷり現実だろ」

ため息をつきつつ、お袋を睨む。
……が、俺の視線なんかどこ吹く風だ。撮った画像のチェックなんかしてる。

「あ、入江くん、コーヒーよねっ」

琴子がキッチンに向かっていった。
俺は椅子に座り、また新聞を広げながらお袋に向き直った。

「何撮影してんだよっ」

「だって、初々しいカップルの朝の風景なんだもの~。是非ともカメラに収めなくっちゃ」

「いーからやめろ」

「あら?もしかしてお邪魔ってことかしら?」

……わかってんじゃねーかよ。

そうこうしてるうちに、芳しい香りが漂ってくる。
そして琴子が俺のカップを持ってやって来た。

…久しぶりだな。こうして、琴子の淹れたコーヒーを飲むのは。
笑顔で俺に近づく琴子。
と、そこでまたフラッシュが迸った。

「お袋っ。いい加減にしろよっ」

思わず声を荒げた。

「あーらいいじゃなーい。フィアンセに朝のコーヒーを運ぶ図なんて。素敵っ」
しかしお袋はしれっとしてそんなことを言い出した。
「フ、フィアンセ?」

琴子がお袋に聞き返す。

「だってそうでしょ。昨日、お兄ちゃんは琴子ちゃんと結婚するって言って、お父様にお許しをもらったんだから。間違いなくフィアンセ、婚約者よっ」

「フィアンセ……婚約者……」

琴子の動きが止まる。顔がみるみる赤くなっていき――

「おいっ琴子、またそこでのぼせるなっ」

「―――…」

昨夜と同じく、琴子はへなへなとその場に座り込んだ。





車は一路、会社に向かっている。
俺はハイヤーの後部座席に身を沈め、目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶのは、先ほどの琴子の顔。

ハイヤーが迎えに来る時間になって、琴子は玄関まで見送りに来てくれた。
こんなささいなことが、こんなに嬉しいなんてな。また、くすぐったい感情が沸いてきて、俺は戸惑いすら覚える。
お袋は……キッチンにいる。裕樹が降りてきたので、朝食の支度をしているのだろう。しばらくはこちらに来そうもない、と俺はこっそり確認していた。

自分に何ができることがないかを訊いてきた琴子。
必死な顔が可愛くて――

「じゃ、教えてやるよ」

そんなのは決まっている。こうして、そばにいてくれればいい。

そんな想いを込めて、そっと口付ける。

琴子の唇は柔らかくて、俺はすぐに夢中になった。気がつくと、どんどん深く唇を求めていた。

――ああ。どうかしてる。俺。

「んっ……んんっ……」

琴子の唇から苦しげな声が漏れ出た。
こんなキス、初めてだもんな。ようやく唇を離してやると、琴子は少しよろけ、涙を湛えた瞳で俺を見上げた。

「夢じゃない、証拠」

そう言って、琴子の顔を正面から見た俺は思わず動きを止めてしまった。

…ヤバい。離れられなくなりそうな予感がし、俺は急いで頭を切り換える。

「…行ってくる」


俺はそれだけ言うと、振り返らずに家を出た。そして、車に乗り込んだ――



琴子がそばにいる時――
俺は今までにない感情が沸き上がるのを感じるんだ。
こんなに琴子に触れたい。抱き締めたい。キスしたい。
さらに、もっと――

「………!」


俺は今、何を考えていた?
会社は相変わらず大変な状況だ。資金援助はもう得られなくなるだろう。
沙穂子さんにも話をしなければならないし、大泉会長にだって――問題は山積みだ。
そんな時に――

「どうかされました?」

その声に前を見ると、運転手がバックミラー越しに俺を見ていた。
座席に身を沈めていた俺が急に身を起こしたので、声をかけてくれたようだ。

「いや…、ちょっと暑いですね」

「そうですか?」

それならエアコンを、という運転手に、

「いや、窓を開けてもらえれば…」

と頼む。
忽ち、朝の清涼な空気が車内に入って来た。
俺は火照る頭と身体を冷やしながら出勤した。
自分の中の熱と見慣れない感情を押し込めて。

今日は忙しい一日になる――



☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ


琴子ちゃんから見たら余裕綽々に見える入江くんが、実はそうじゃないってことを書きたくて。
何しろ遅ーい初恋ですから、戸惑う部分も多かったんじゃないかな~。
前作とは雰囲気を別にしたくて、それぞれ違うお話にしました。
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Re: たまち様
コメントありがとうございます!

ご褒美に・・・なりました??嬉しいです!

天才にも普通の男の子らしいところがあるんだってことを書きたくて、これを書きました。
特に初恋だし。戸惑うこともあるだろうなと。
たまち様のいうとおり、我慢を重ねてましたから相当ため込んでたものがありそう(笑)
そして、雨の日の出来事は、やっぱり直樹にも衝撃だったと思いますよ。自分でもこんなことしちゃうんだっていう。それこそが、恋の力♪ってことで。
Re: ちょこましゅまろ様
コメントありがとうございます!

入江くんこんな感じだった、って言っていただけて嬉しいです!
入江くんだって21歳の男の子ですから、衝動はあるし、それに戸惑う部分もあるし…ってところが
書けてればいいんですけど。
そうそう、会社のことがある!って一生懸命衝動を抑えてるって部分もあるし。
いろいろ抱え込んでて入江くんも大変ですが、とりあえず琴子が手に入ったのですから、もう百人力!
その勢いで、結婚式や新婚旅行のために頑張っていくのでしょう。
Re: ねーさん様
コメントありがとうございます!

いえいえ、読んでもらえるだけで嬉しいです♪
わあ、全部のお話好きって・・・幸せなお言葉ありがとうございます!!

でも私、ねーさん様のサイトのガツガツの入江くん好きですよ☆

沙穂子さんに謝った時の心境ですか・・・難しそう。
入江くんの心情はなかなか書くの難しいんですよね。でも書いてみたいと思います!
今の私の描く力では、ちょっと修行が必要かもですが・・・
二人っきり。
やっと、お互いの気持ちが、通じ合った、所ですね、入江君の姿勢が、まだまだ。半信半疑な琴子ちゃん、階段から落ちた、琴子ちゃんに、入江君駆け寄りました、入江君が前の晩に話したことを、しっかりと、琴子ちゃんに伝えました、紀子ママも、テンションが、高いのは、わかるけど、だから?二人っきりにしてあげればいいのに、二人の邪魔して、ビデオ録画なんて?しっかり、邪魔虫な、ママでした、ママがいなきゃ?ここで、入江君の、キッスの、一つや、二つが、あったでしょうけど、でも、よかったね、琴子ちゃん。
Re: なおちゃん様
コメントありがとうございます!

自分に自信のない琴子のことですから、あの雨の日の次の日はきっと夢じゃないかと思ったんじゃないかと思って描いたお話です。
さすがに、直樹もここで夢だと思われたらまずいですから(笑)、しっかりと気持ちを伝えましたね。

これから、直樹は結婚を実現するべく、一直線になっていくんですね。
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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