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結婚式の夜
少し前に、『我らが息子に乾杯』で、お父さん二人のお話をまた読みたいとのお声をいただきまして。
連休中、結婚式にお呼ばれしたこともあり、こんな話になりました。
イリコトのラブラブは皆無ですが、よろしければどうぞ。


・・・・・・・・・・・・
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はあぁー…


もう何度目であろうか。重雄の口から深いため息が漏れる。

「アイちゃん……」

そんな重雄を少し心配そうにみつめつつ、重樹は重雄のグラスに酒を注いだ。

「ああイリちゃんすまねぇな」

はっと我に返り、重雄は親友の方を見て笑った。
が、その笑みはすぐに力ないものになる。

「あぁ…こんな日は焼酎が旨いなァ」

重樹に注いでもらった酒をちびりと口に含み、重雄はしみじみと言う。

「我らが故郷の酒だ。今日飲もうと思ってね、とっておきのやつだよ」

重樹は応えつつ、重雄を見やる。その顔はわずかに赤く染まっていた。

ここは重雄の和室。二人で飲む時は、大抵はここになる。
特に今夜は、誰にも邪魔されずにゆっくりと飲みたかったから――特に重雄が。

「琴子ちゃん、綺麗だったなあ」

重樹は自分のグラスにも酒を注ぎながら言った。

「あぁ…」

重雄は相槌を打ち、また酒を口に含む。

「ほんとに……奥さんにはあんなによく支度をしてもらって。おれだけじゃ、こうはいかなかっただろうなぁ」

「いや…紀ちゃんは琴子ちゃんにいろいろしてあげるのがもう生き甲斐になっているからね」

「ほんとに……有難いことだよ……」

息をつくように言うと、重雄はグラスをテーブルに置いた。

「しかし……」

そのまま俯き、ぽつりと呟く。

「まさか、こんなに早く嫁にいっちまうとはなァ……」

「アイちゃん……」

重樹はそんな重雄に何も言えなくなった。
しばらく、沈黙が流れる。

そう。今日は直樹と琴子の結婚式だった。

あの雨の日から2週間とちょっとで、あっという間に今日という日を迎えたのだった。
披露宴が終わり、直樹と琴子は披露宴の行われたホテルに泊まり、重雄と入江家の面々は家に帰ってきていた。
披露宴が終わっても、紀子は何やらやることが山積みらしく忙しく動き回り、二人の父親の方はこうして晩酌をしている。

「いや、すまねぇイリちゃん。つい愚痴みたいになっちまった」

重雄がようやく顔を上げ、親友に微笑む。

「めでたい日だっていうのになぁ。こう辛気臭くなっちゃいけねぇよな」

言いながら、重樹のグラスに酒を注いだ。

「いや、何だか感慨深くてな。少し前までは、まさか琴子が直樹くんと結婚するなんて思ってもいなかったから」

「そーだなァ。あの日は本当に驚いたもんなあ」

それは重樹も同じだった。あの雨の日、直樹が琴子を連れ帰ってくるまでは。

「琴子もちっともそんなこと思ってなくてな。あの少し前に、自分が金之助と結婚したら嬉しいか、なんて訊いてきたんだ」

重雄はその時のことを思い出して言った。
この家を出ていこうという話になり、引っ越し先を探していた自分と。
気丈に振る舞いながらも辛さを隠しきれないでいた琴子。
その時のことを考えると、今日のこの日がまるで夢のようで。
今日の琴子の幸せな笑顔が、重雄にはたまらなく眩しく見えた。

「そんなことを言っていたのかい。琴子ちゃんは」

重樹も驚いたようだ。

「ああ。まあおれは、そうなれば跡継ぎができて嬉しい、なんて言っていたんだが……」

「アイちゃん……」

「あ、いやいや。別におれは店継いでくれる奴と結婚してほしかったわけじゃないんだ。琴子にも、お前の気持ちが一番だって言ったんだよ」

困ったような顔をした重樹に重雄が慌てて言った。

「あいつは、琴子は……、直樹くんと一緒になるのが一番の夢だったんだ。本当に、こんなに嬉しいことはないよ」

そう言って笑うと、重雄は焼酎の瓶に手を伸ばす。

「さあ、めでたい酒だ。なあイリちゃん」

また、重樹にグラスを傾けさせたのだった。





「しかし、こうやってイリちゃんとゆっくり話をするのも久しぶりだなぁ」

「ああ、そうだな。ここ2週間ばかりは会社にかかりきりになっていたから」

退院間もない重樹だったが、会社の業績を考えるとそうのんびりと休んではいられなかった。紀子にいろいろ言われながらも毎日出勤し、精力的に動いていたのである。

「イリちゃんも直樹くんも、ここんとこずっと帰りが遅かったみたいだもんなぁ。おれには難しいことはよくわからねぇが…まだいろいろ大変なんだろう?」

重雄が心配そうに言った。

「まあ、そう簡単にはいかないだろうが……」

重樹はそこで酒を飲み干す。

「まあ、あの直樹が頑張ってくれとるし。実はわしはあまり心配はしてないんだ」

確かに北英社からの資金援助は得られることになった。それとは別に。

「何しろ直樹には、琴子ちゃんがついてるからな。あの雨の日から、あいつはまた変わったよ」

重樹はふっと笑った。

「変わった?直樹くんが?」

「ああ。今考えてみると、それまではどことなく悲壮感、みたいなものが漂っていてな。不甲斐ないわしが言うことではないが、本当に親として居たたまれなかった。それが……」

そこでその頃の直樹を思い出して少し苦しげな顔をした重樹。

「生気がみなぎるというのかな。あの雨の日から、まるで生き返ったみたいだった」

「………」

「それも、琴子ちゃんのお陰だな。あいつはやっと自分に素直になって、やっと幸せになれるんだ。親として、これ以上の喜びはないよ」

「ああ、そうだな」

そこで二人は顔を見合わせ、笑う。

「しかし、直樹くんがそこまで琴子を想ってくれていたとはなあ…」

重雄は感慨深げに呟く。

「そうだなあ。親なのに、ちっとも気づかなかったよ。あの大泉会長は気づいていたと言っていたが」

「気づいていた?本当かい?」

驚く重雄。

「ああ。そう言っていたよ」

重樹は頷き、

「親だっていうのにな。まあ、わしもまだまだだな」
そう言ってまた笑った。





それからも二人の晩酌は続き。
いよいよ重雄の顔は酔いの回ったそれになっていた。
酒は昔から好きで、それなりに強い重雄であったが……今日はいつもより酔いが早いかもしれない。
きっと、今日ははじめから感情が昂っていたのだろう。

(無理もないな)

重雄の赤い顔を見ながら、重樹は思う。
何しろ、父一人娘一人で長いこと暮らしてきたのだ。明るく話をしていても、どこか寂しさが滲み出ているようだった。
如何ともし難いやるせなさをもて余すように。
息子しかいない重樹には想像するしかなかったけれど。

「ああ…、今日は泣かねえと思っていたのになぁ。きっと母ちゃんも見て笑ってただろうな」

重雄はそう言うと振り返り、仏壇の上を見やる。そこには琴子の母、悦子の写真があった。

「ああ、悦子さんもきっと喜んでいるだろうなぁ」

「あぁ……」

だんだんと、重雄の瞼が重そうになってくる。

「…イリちゃん」

しかし重雄は、あらたまったように重樹に向き直った。

「おれたち二人を……迎えてくれてありがとうな」

「アイちゃん?」

重樹は目を見張る。

「いや、琴子は、小さい時に母親を亡くしてからずっと寂しい思いをしてきたから……一人でいる時間も多かったし」

「ああ、そうだっただろうなぁ」

「でも、ここに迎えてもらって、こんなに賑やかで温かい家庭ってもんを……団欒を、あいつは手に入れることができた。そのことは、本当に、イリちゃんに感謝してもしきれないよ」

「アイちゃん……」

「本当に、ありがとう………」

そこまで言うと、重雄の体はがくっと傾いた。卓袱台の上に突っ伏した格好になる。
それまで半分ほど開いていた瞼が、すっかり閉じている。程なく、寝息が聞こえてきた。

重樹はふっと笑った。

(アイちゃんにとっては、琴子ちゃんはいつまでも、大事な…小さな女の子なんだよな)

すっかり寝入りながら、幸せそうに微笑む重雄。
もしかしたら、小さな琴子を肩車して家族3人、帰り道を歩いた遠い日を夢に見ているのかもしれない――


☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

渋いですね……まるで番茶…(何それ)

次はコーヒー牛乳くらいのお話にしようかと。
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こんばんわm(_ _)m
あおい様、更新有難うございます♪
そして父2人のお話有難うございます♪
染み入りました。琴子ちゃんパパの「花嫁の父」、23年前私が結婚した頃の父の姿と重なりました。
琴子ちゃんが嫁いでも全く環境が変わらず一緒に住むのに、でもやはり「嫁ぐ」事に変わりはなく嬉しいけれど寂しいんでしょうね。
その心を吐露できて以上の所も理解してくれる「婿の父」入江パパ。
配偶者と違う意味の伴侶?だと思います。
お話全体の空気感がスゴく好きです。


Re: たまち様
コメントありがとうございます!

重雄さん、私も好きです。
懐が深くてあったかい人ですよね。
それゆえに、直樹との結婚もすぐに許したのではないかと思います。
確かに、直樹の所有欲って知ったらびっくりでしょうね。

重樹については、・・・あんな押しが弱くて、はたしてあの九州のアクの強ーい
おじーちゃん(紀子さんのお父さん)が、よく紀子さんとの結婚を許したなあ・・・
と、最近原作読み返したときに思ってしまいました。
Re: ジェニィ様
コメントありがとうございます!

いえいえ、こちらこそ、リクエストありがとうございました。
花嫁の父の心情は、私も娘の立場から想像するしかなく表現しきれたのか不安でしたが、
そう言っていただけてほっとしました。
ジェニィ様のお父様も、きっと嬉しいけれど複雑な感情だったでしょうね。

このお話書いていて、私も珍しく父のことを考えて、なんかほっこりしてしまいました。
リクエストいただいたお陰ですね。このブログ書いていてよかったなとつくづく思いました。
こちらこそ、ありがとうございました!
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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