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Kissing you
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俺にとって、キスは会話。
いつだって、そうやって想いを伝えてきた。

――あいつだけに。





「いっ、入江くんのファーストキスの相手って……理加ちゃん?」

思えば、そう訊いてきた時から、琴子の様子はおかしかった。
妙に理加に張り合おうとしてムキになって。
理加と自分を比べたりすんなって俺は言ったのに。
挙げ句の果てに、今朝の喧嘩だ。琴子は理加を突き飛ばし、怪我をさせた。
もちろん、琴子がわざとそんなことをするわけがない。理加が何か言うかして、ひどく琴子を怒らせたのだろう。
でも、そこまでムキになるのがわからない。
あいつは俺と結婚してるってのに。俺があいつを選んでいるのに。
俺がこんなにも、あいつに惹かれているっていうのに――。



時計は、既に0時を回っている。
琴子はまだ帰って来ない。今朝のことを引きずって、帰るに帰れなくなっているんだろう。
お袋がさっきから大騒ぎをしている。
ったく……心配かけやがって。

ピンポーン

家のチャイムが鳴った。

「こっ、琴子ちゃん。琴子ちゃんだわ」

お袋があわてて玄関に向かう。
やっと帰って来たか。どこをほっつき歩いてたんだか。
玄関の方から、数人の人が入ってきた気配がした。

「お…おたくの飲んだくれ、連れてきました」

桔梗の声だ。
どうやら、看護科のメンバーと飲んでたらしい。さては酔い潰れたな。
お兄ちゃーん、とお袋が呼ぶ声がした。

「ったく、何やってんだ。悪かったな、桔梗。迷惑かけたな」

玄関に出ていくと、そこにはいつもの看護科のメンバー。琴子は桔梗に背負われ、隠れるように身を縮めている。

「ほら、さっさとこっち来いよ」

琴子の片腕をつかんで引っ張る。

「いやーっ」

琴子は悲鳴を上げ、もう片方の腕で桔梗の首にしがみついた。

「らってらって入江くん、あらしのことらんてきらいになったんれしょ」

酔っぱらって呂律が回っていない。

「大人気なくって暴力女で、目があきれてるって言ってるんらもん」

ったく、こいつは。

「よくわかってんじゃん。あきれてるね全く」

俺は桔梗の背中から琴子を無理やりひっぺがした。

「いやらーっ下ろしてぇ」

「うるさい」

米俵よろしく琴子を肩に担ぎ上げて、階段を登っていく。

「入江くんは入江くんはあたしなんかよりあたしなんかより理加ちゃんが理加ちゃんが」

肩の上の酔っ払いが喚いている。
ったく、何をそんなに卑屈になってるんだか。

「理加ちゃ…」

階段を昇り、2階の廊下を歩き出したところで、不意に琴子の声が途切れた。

すーっ、くーっ……

代わりに寝息が聞こえてくる。

「――ったく」

ため息を吐いていると、すぐそばの部屋のドアが開いた。

「琴子さん、寝ちゃったの?」

理加が顔を覗かせている。

「そーいうやつだよ」

俺はそう言って、琴子を抱え直す。

「まだ起きてたのか。足は?」

「うん、もう痛くない」

笑顔を見せる理加。
理加の足は軽い打撲だった。

「今朝は悪かったな。こいつが怪我させて」

「……直樹に謝ってもらいたくないっ」

…まあ、理加にしてみればそうだよな。怪我をさせたのは琴子なんだから。
…だけど。

「……お前もさ。あんまりこいつを挑発すんなよ」

「な、なによ。あたしがいつ……」

理加が目を見張って俺を見た。

あいつを挑発したら…しかも何をやらせても完璧な理加がそんなことをしたら、あいつは妄想を暴走させて手に負えない。

それに。
あいつを苛めるのも、傷つけるのも、俺だけでいい。
それは俺の、密かな願望。
「おやすみ」

何か言いたげな理加に告げ、俺は琴子を抱え上げたまま寝室に入った。





単に唇と唇が触れ合うことがキスっていうなら、確かに俺のファーストキスの相手は理加になる。
でも、俺からキスしたのは……俺がキスしたいと思ったのは、琴子だけだ。
ファーストキスなんて、気にすることはないのに。

――理加がアメリカに旅立つ日。
玄関であいつにいきなりキスされた時、俺は特に何も感じなかった。
思えば、そんなことをしたあいつの気持ちを、当時の俺はちっともわかっていなかった。

――この人は、自分のもの。

そう刻みつけるように。
溢れそうな自分の気持ちを、伝えるために。
思わずキスしてしまうくらいの大きな感情があるなんて、俺は全く知らなかった。

――琴子に会うまでは。



担ぎ上げていた琴子をベッドに下ろす。
その衝撃も、すっかり寝入っている琴子を起こすには至らなかった。
そっと、琴子の唇をなぞる。
あの、卒業式の日の夜。

俺はこの唇に触れることで、気持ちを語っていたんだ。
もっとも、あの時は自分の気持ちがよくわかっていなかったけれど。

“俺を忘れるなんて、許さない”

今思えば、そんな気持ちとともに、奪った唇。
そんな強烈な想いを向けたのは、後にも先にもお前しかいない。

「俺にはお前だけ、なんだよ」

眠る琴子の耳許で、そっと囁く。
お前、ホントに馬鹿だよな。俺が普段言わないことを珍しく言う気になった、こんな時に寝てるんだから。
俺はそっと、あいつの隣に横になると、目を閉じた。




「お兄ちゃんお兄ちゃん、大変なんだっ。琴子と理加が…!」

よく晴れた日曜日。
お袋の提案で、家族全員、庭でバーベキューをしていた。
和やかでのんびりした時間は、裕樹が俺を呼びに来たことで中断した。

「もし直樹があたしの方がいいって言ったら、直樹をあたしに返してもらうね」

「いいわよ。聞きなさいよ。そんなに入江くんのことが好きなら」

「そうする」

俺が二人のいるところに行くと、そんな会話をしていた。

「聞いたでしょ、直樹」

理加が視線をこちらに向けてきた。

「大体ね」

それに応えると、俺に気づいていなかったらしい琴子が驚いて俺を見た。

「あたし、直樹が琴子さんを好きになった理由がわかんない。あたし、琴子さんよりも直樹にふさわしいと思う」

真っ直ぐに俺をみつめ、理加は自分の気持ちを紡ぐ。

「あたし、直樹が好きだった。琴子さんよりずっと前から」

「アメリカで直樹が結婚したって聞いて、どんなにショックだったかわかる」

理加がそう言った時。

「だったら……」

それまで黙っていた琴子が口を開いた。


「だったら、アメリカなんて行かなきゃよかったのよ。どーして好きな人と何年も離れてられるのよ」

強い口調でそう言う琴子。

「な…しょーがないじゃない。あたし中1で、親についていかなきゃ」

「関係ない」

理加が言い終わらないうちに、琴子が言い放った。

「そんなに好きな男性なら離れられないじゃない。あたしだったらアメリカに行かなかった」

琴子は、涙を浮かべて言い募る。

「あたしなら入江くんを見てるだけでもそばにいたかったもん」

溢れ出る想いを。

その強さを。

「理加ちゃんの好きの長さには負けるかもしれないけど、あたしの好きの重さにはかなわないわよ」

そこまで言い切ると、琴子は肩で息をしていた。

いつものパワーそのままに、ぶつかってくる琴子。


ああ、そうだ。

俺は、このパワーに、何よりも惹かれたんだ――


「い…入江くんはどーだかわかんないけど、あたしは…そーいうことだから」

そう言って、ごし、と目をこすり。
琴子は身を翻して走って行った。

「…………」

理加は琴子の勢いに気圧されたように、何も言えなくなっていた。
ただ、琴子が走っていくのを見送っている。

「あーいうとこ」

そんな理加の背中に、俺は言葉を投げ掛ける。
しかし、視線は走っていくあいつの背中をみつめたままで。

「あいつのあーいうとこが、決め手だったかな」

俺は、琴子の姿が見えなくなっても、まだその走っていった方向を見ていた。

「本当に何もできない奴で、お前とは大違いなんだけど。あいつのあのパワー、好きなんだ」

俺は、自分の気持ちを言葉にしていた。
考えたら、あいつのどんなところが好きかなんて、あいつにも言ったことなかったな。

「理加よりも好き?」

理加が訊いた。

「ああ。理加よりも」

俺が答える。

紛れもない、真実を。

「そっか」

静かに、理加はそう言った。

「確かに琴子さんなら、あの時アメリカに行かなかったかもね」

「そーだろうな」

俺はそう答え、ぽん、と一瞬理加の頭に手を載せた。

そして、歩き出す。

真っ直ぐ、琴子のところへ。
ちゃんと、伝えるために。



琴子は少し離れたところで、家の壁にすがり付くようにして泣いていた。
俺は拳で軽く頭を叩いてやる。

「ひでぇ顔」

「――――」

振り返った琴子は、真っ赤になって腫れそうな目を俺に向けた。
…ひどい顔。
でも、何故か可愛く…見えたりするんだな。

「何泣いてんだよ」

琴子を見下ろし、訊いてやる。

「だ…だって…」

俯く琴子。

「もしかしたら入江くんとはもうお別れかもしれないって」



「入江くんとの楽しかった日々を思い出してたら、涙が止まらなくなってきて」
そう言いながらも、あとからあとから、涙が零れ落ちる。

「こ、これから…ひ、一人で強く生きていく決心を、決心を今…」

泣きじゃくりながら、そんなことを言う琴子。

ったく…こいつは。

どうして、未だにわからないんだろうな。

俺は琴子の頭に手をのせると、そのまま傾けさせる。
そして、かがみこんで唇を塞いだ。


一人で生きていく?
そんなことできないだろ。俺だって同じだよ。


そんな想いを込めた――キス。


遠くで、家族の賑やかな声が聴こえてくる。
そんな中、俺たち二人だけ、まるで時間が止まったかのように。
キスで、想いを伝え合う。

――ほら。

お前の唇は言ってるんだ。俺から離れられない、って。



唇を外して、じっと琴子を見つめる。
琴子も涙が溢れた瞳で俺を見つめ返し。
俺の腕に飛び込んできた。

――そうだ。
わかっただろ。
俺がこうするのは、お前だけなんだ。


「決心できた?」

「…で、…できない」


そうだろ。
もう、俺たちは、お互い離れられないんだ。


俺は琴子の頭に手をのせ、今度は俺の顔に向けさせる。

「俺がいつ、お前に疑われるような態度取った?俺はそんな覚え一度もないぞ」
じっと琴子の目を見て、頭を撫でながら言う。

「俺がお前を選んでんだから、もっと自信持てよ」

そうだ。
紛れもなく、この俺の唯一絶対の存在なんだから。

「う……うん。……うん」

琴子は目をぎゅっと瞑って頷いた。
そんな琴子の頭を、俺は引き寄せ、自分の胸に押し付ける。
すると、琴子がぽつりと呟いた。

「でも、入江くんの好きより、あたしの好きの方が何倍も重たそう」

「そりゃそうだろ」

俺は即答する。

そうだ。お前のパワーから放たれる俺への想いは、きっと世界中のどんなものよりも重いよ。

「でも、まあ」

「え?」

「いや。何でも」

俺はそう言って、琴子の顔を今一度上向かせる。
そして、再度琴子の唇を塞いだ。


――その重さこそが、俺には必要なんだ。


わかるか?

――琴子。




☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ


直樹のファーストキスのお話です。
もう少し早く書けるかと思っていたのですが…息子がこの4月から幼稚園に行き始めてバタバタしてまして。
さらに娘が熱を出し、治ったら私が熱を出し…で、もう大変。
皆さんも風邪にはご注意下さいね。
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Re: たまち様
コメントありがとうございます!

というか・・・そんな状況の中、ここにコメント書いていただいて・・・すみません。
ぱそ子ちゃん来ましたら、また元気なコメントお待ちしています!!
ねーさん様
拍手コメントありがとうございます!

このエピソードの最後、入江くんの「でもまあ・・・」の続きは、おそらく読者の方がそれぞれいろんな台詞のイメージをお持ちだと思います。これはまあ、あくまで私のイメージなのですが・・・・・・しっくりきた、と言っていただけてよかったです。
私はその語らない直樹の心の内を暴いてみたくて(笑)、二次創作を始めたんです。なかなかむずかしいんですけどね。
家族構成、うちも同じです!うちは兄が3歳、妹1歳ですが。まさに今回、風邪はリレーしてまして、娘→私と来て、今は旦那がぶっ倒れて死んでます。息子だけやたら元気で、それはそれでこっちはツライ・・・・・・
お互い家事に育児、頑張りましょうね!

プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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