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その先に得るもの
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どんよりした雲が、空を覆っている。
もうしばらくしたら、おそらく雨が降りだすだろう。今日は早く帰った方がいいだろうな。
そう思いながら、俺は正門を通り抜ける。

久しぶりに訪れた大学。
もう多くの生徒は放課後の時間だ。1日のうちで、一番活気がある時間かもしれない。

学内のあちこちから、いろんな音が聞こえてくる。

バンドの練習中か、ドラムの音。
陸上部だろうか。ランニングの掛け声。
ダンスのステップを踏む音。

俺はその音をどこか遠くに聞きながら進んでいく。
まるで、夢の中にいるみたいだ。

やがて、喧騒を通り抜けた先に着いたのは。

『すごいね、ここにいる人、皆、お医者さんになるんだ』

『なれないやつもいるさ』

あいつが言った言葉に、俺はそう応えた。

医学部の校舎――。

あいつとあんな会話をした時は、まさかこんなことになるとは思っていなかった。
思い描いた未来を信じて、疑いもしなかった。

けれど――


俺は、校舎内を進んでいく。
どれくらい、ここに来ていなかっただろうか。
毎日通っていたとは思えないくらい、別世界のように感じる。数ヶ月前までは俺もその中にいたというのに。

ああ、こういう感情を懐かしい、というのか。

――懐かしいという感情の奥底には、諦感がある。

以前どこかで読んだ言葉が蘇った。

あきらめ、か。


もう戻ることのない日々。
今度来る時は、退学届を出す時だろうか――





今日大学に来た目的は、置いたままにしていた荷物をまとめ、持ち帰ること。俺は肩からバッグを下げ、学内を歩いていた。今日は会社は休み。家に帰っても特にすることはない。

理工学部の教室――
あいつ、いつもここから覗いて松本とやりあっていたよな。

ここは唯一あいつと同じ講義を受けていた教室。あいつ、全然ついていけないくせに毎回出席してたっけ。

図書室。ここであいつ、わかりもしないのに医学書広げて見てたよな。
そういえば、中川と金之助が琴子をめぐってケンカしてたのを聞いたのもここだった。

早く帰った方がいい、と思っていたのに、何故か俺はなかなかそうできずにいる。
特に目的もなく用事ももうないのに、学内をさ迷い続る――

大学内を巡りながら、いろんなことが思い出される。その中にいつも出てくるのは、栗色の髪の小柄な姿。


ぽーん
ぽーん

黄色いボールが弾み、行き交う。


気がつくと、俺はテニスコートのそばに来ていた。
テニス部員が今日も練習に励んでいる。

「雨が降ろうがテニス部は休まんぞーっ」

…須藤さん、相変わらずだな。俺は苦笑し、コートに近づいてゆく。
求める視線の先に、あいつの姿は…なかった。





「入江くん入江くんっっ!ほら、大学見えてきた!」
「うるせーな。わかってるよ、ったく」

あれから、また数ヶ月経って――


俺は今日から大学に復学する。
隣には、こいつ――琴子。
今日、正式に俺の奥さんになった。
区役所で婚姻届けを出してから、一緒に登学している。
そのせいで、こいつはさっきから浮かれた様子で俺に話しかけてくる。

「入江くん、もしかして単位足りない?あたしと仲間?」

「…ったく、一緒にすんじゃねーよ」

「え、でも夫婦で同じっていうのもいいじゃなーい」

「ごめんだね」




「ねぇ入江くん、大学来るのって久しぶりだよね?懐かしい?」

正門を抜けたところで、琴子が俺の腕をつかまえ、訊いてきた。

「…いや」

俺はすぐにそれだけ答える。
そう。俺はこうしてここに戻ってこれたから。

あの時、テニスコートに行かなければ、今こうして琴子と並んで大学を歩くなんてことはなかったかもしれない。
いや、結局あの時も、俺は琴子を探していたんだな。
俺はどうしても、琴子を諦められなかったんだ――

これからは、一度は諦めた夢を叶えるために。
こいつがくれた夢を実現するために。
俺はこうしてこいつと歩いていく。

こうして――

「あっ入江くんっ、今日って何時くらいに帰れるの?」

「琴子ーっ、おはよっ。あ、入江くん。やっと復学するんだねー」

「もう琴子ったら、昨日からすっごい浮かれてたのよ~」

…それはもう、にぎやかな日々が。

「あーっ入江!おんどれ何今さら琴子と一緒にここにおんねん!!」

「ちょっと金ちゃん、だからそれは言ったでしょー!」

…どっぷり、俺はまたこの騒動のど真ん中にいる、らしい。


「おい入江っ、俺はまだ納得してないんやで!!なんとか言わんかい!!」

「もうっ、金ちゃん!」

…そうだ、こいつにはちゃんと言っとかないとな。

俺は立ち止まり、しっかり金之助を見据える。

「な、なんやっ、言いたいことがあるならはっきり…」

「俺と琴子、入籍したから」

琴子の肩を抱いて、はっきり言ってやる。

「なっ…」

「入籍ーっ!?琴子っ、ホントにぃっ!?」

金之助は絶句し、石川と小森は声を揃えて叫んだ。

「うん…そ、そうなんだ」
はにかみながら頷く琴子。
「そういうわけだから。ほら、琴子、行くぞ」

だから、俺と琴子が別れるのを待ってたってムダなんだよ。
そう、金之助に一瞥して。おれは琴子の手を取って歩き出す。

「じゃ、じゃあもう入江琴子ってわけーっ」

「やーん、琴子っ、おめでとう~っ!」

後ろからそんな声が追いかけてきた。

それとともに、周りにざわめきが広がっていく。

「え、入籍?」

「マジで?別れたんじゃないの?」

「へえーっ、おめでとうー」

こいつと一緒にいると、ほんと、こーなるんだな。
でもまあ、それも悪くない。
俺は、思わず顔が綻ぶのを感じながら、隣を見やる。
そこには、弾けるような琴子の笑顔があった――。




☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ


新生活のシーズンだあ、と思ってたら浮かんだお話。時期は4月じゃないんですが…(^^;

これから、新たなスタートを切る方々が、夢を実現できますように。
駄文、失礼いたしました…
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たまち様

コメントありがとうございます!

そうそう、このころの直樹のダメっぷりっといったら!
変に大人になろうとしてたっていうか、大人ぶってたというか。
天才天才と言われていたから、なかなか素直になるのも難しかったのでしょうか。

金ちゃんについては、会社に乗りこんだりしていましたし、多分お互いに言いたいことがあったのではないか、と妄想して書いてみましたが、私の中の嫉妬直樹がもう文句言わせねーぞとばかりに早々に釘を刺してしまいました(笑)。

プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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