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遠くの空から君を想う
※このお話は「旅立つあいつに」の続編になります。

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* *
* *


「入江くん」
「入江くん、だーいすき」
琴子が微笑んでいる。
俺に向けられたいつもの台詞。

―知ってるよ。

俺は、いつものように返事をして、手を伸ばす。
が、何故か届かない。いくら手を伸ばしてもそれは空を切るばかりだった。

そして、琴子の姿が薄くなっていく――



「琴子っ」
叫んで、がばっと体を起こす。
目に入ってきたのは、いい加減見慣れてきたマンションの部屋。
東京の家とは違い、最低限のものしか置いていない部屋はひどく殺風景だ。
そう、ここは神戸。
俺は一人、研修のために琴子と離れ、ここで生活している。
昨日はやっと仕事が一段落して、ようやく3日ぶりに帰って来れたんだった。
確か、疲れすぎて帰るなりベッドにぶっ倒れたような…
――そうだ。
俺はまだ重い体を動かし、電話に歩み寄った。
赤いランプの点滅が目に入る。

ピー。

「35件ノメッセージガアリマス」

――35件って…またテープいっばいに入れたのかよ。
「もしもし、入江くん?おはよう。えっと、ちゃんと食べてる?寝てる?い、忙しいよねっ。でも、もしできたら、電話をくれたら嬉しいです。あ、ほんと無理しなくていいんだけどねっ。うん。元気かどうか気になって。あ、あたし今日は」

ピー。

「あっ、メッセージ入りきらなかった。あのね、今日はテストがあるの。頑張るからね。ああ、それからこっちはみんな元気だよ。あのね、…」

…相変わらず、要点のまとまっていない録音メッセージ。
もういい加減、慣れろよな。
でも、あいつらしくって笑ってしまう。

こんな感じでメッセージは再生されていき…35件めのメッセージが流れた。

「入江くん…まだ帰れないの、かな…ちゃんと寝てる…?もう3日も入江くんの声を聞いてないんだよね…」

ひどく暗い、寂しさが溢れた声。

「入江くん、は……寂しくないのかな……あたしは、寂しいよ…」



留守電の録音なんて聞くんじゃなかった。
あいつの声は聞こえるのに、あいつはいない。
あいつは、自分ばかりが寂しいって思ってるんだろうな…


『お前言ったよな。俺が人間らしくなれるのは、琴子がそばにいる時だけだ、って。そんな大事なモンおいて行って、平気なのかよ!?』


卒業式の日に、鴨狩に言われた言葉が、不意に甦った。
あの時は、琴子を探している途中で、琴子とどう話をするか、そればかり考えていたけど。
今となっては、実際に神戸に来たら俺がどうなるかを見透かされていたようで、何だかムカついてくる。

そう。
今、俺は無性に琴子に会いたくて仕方ない――



それでも、時間は止まってはくれない。
俺は、何とか立ち上がり、キッチンに向かった。
電気ケトルでお湯を沸かす。
マグカップにはインスタントコーヒーの粉末。
間もなく湯が沸き、俺はカップに注ぎ込んだ。
一口口に含むと、インスタントの薄っぺらい味が広がる。

ああ、琴子のコーヒーが飲みたい。
ったく、俺も重症だな。
溜め息を吐き、今度は椅子の上に無造作に置かれていた上着を手に取り、ポケットから小さな箱を取り出した。
そこから取り出した1本の煙草。
それを手にして、ベランダに出た。
煙草を口に加え、ポケットに一緒に入っていたライターで火をつけた。
ゆっくり燻らせ、しばし味わう。
コーヒーと煙草は相性がいい。
そんなことを知ったのは、神戸に来てからだった。
もともと俺は、煙草はほとんど吸わなかったのに――今ではすっかり手離せなくなっている。
あいつが笑顔で持ってきてくれるコーヒーには遠く及ばない、このインスタントのコーヒーの味を誤魔化すために。
手にした煙草から煙が立ち上って行く。
その煙を目で追っていくと、青い空が目に入ってきた。
今日はいい天気だ。朝陽の光が眩しい。
この空の向こう、あいつがいる。
あいつも、きっと、頑張っている。
俺は、煙草がすっかり短くなるまで、そこで空を眺めていた。



今日もまた、一人きりの1日が始まる。

二人で再び歩み始める、未来のために。




☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ


「旅立つあいつに」を書いた時から、直樹目線で話を書こうと決めていました。啓太の予言通り、琴子がいなくて寂しい直樹です(笑)。


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(非公開コメント受付中)

遅くなりました
ari様

返信が遅くなってごめんなさい。
拍手コメントありがとうございます。

留守番電話って、寂しさ満載ですよね。
これだけ携帯が普及していると、なんだかそれも忘れていましたが。
ほんと、琴子と離れるってことを甘く見ていた直樹さんです(笑)
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No title
最近は、携帯電話の、復旧で、あんまり、留守電の意味もなくなりましたよね?特に、今は、スマートホンですもんね、ちょっと❓味気ないって思うのは、私だけかな?私も、今は、一人暮らしで、スマホに、頼って、メールなど、親、ともできるので、あえて、固定電話ないので。入江君は、琴子ちゃんのいないさみしさ、に途方くれてるんですね。
Re: なおちゃん様
コメントありがとうございます!

普通の電話の留守電っていうのが時代を感じますね。みんな携帯を持っている今だったら、このお話の趣も変わってくるのでしょうけれども。
はい、直樹は琴子と離れることが自分にこんなにダメージを与えるとは思っていなかったんですね。原作には書かれていませんが、大学時代はいつも琴子の方から寄ってきてくれていたのに、神戸に来たらそれがまったくなくなってしまい、かなりギャップがあったと思います。
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あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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