スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
恋の勝利者
前回の記事に拍手&拍手コメントをしていただいた方、ありがとうございます!すごく励みになります。


11月に公開したかった、と書いたために、バースデーか結婚記念日のお話かと思われた方がいたみたいですが…すみません。

この人目線のお話、初めてです。

お付き合いいただける方は、続きからどうぞ。

... Read more ▼

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ついに、最後の学園祭か……

テニス部のロッカールームは、これから行われる試合に向けて部員達が慌ただしく準備をしている。
あたしは自分のロッカーの扉についている鏡を見ながら、髪を後ろでまとめていた。


大学4年の今、テニスウェアに身を包むのも久しぶり。恐らく、大学のコートでプレイするのも今日が最後になるだろう。

あーあ。どうせダブルスやるなら、最後くらい入江くんと組みたかったわ。でも彼は今日は審判。確かに彼と組んだら圧倒的に有利になるから、それは妥当な割り振りなのだろう。何しろ、彼はあの相原さんと組んで公式戦で勝利を挙げたことがあるのだから。

「全く、どういうつもりなのかしらね、須藤先輩。車まで用意して」

隣のロッカーを使っている妹――綾子が話しかけてきた。

「絶対何か企んでそうだけど。お姉ちゃん、何か言われたりしてない?」

「……してないわ」

妹に答えつつ、靴紐を結ぶ。

「しかし気分が乗らないわね。優勝したって軽自動車1台だし」

綾子が詰まらなそうに言う。

「ま、あの人が用意するならそれが関の山でしょうよ」

答えながら靴紐を結び終わり、あたしは立ち上がってラケットを手にした。




須藤さんの提案により、今日の学園祭、テニス部では一般来客との混合ダブルスのトーナメントが企画されていた。
優勝ペアには、須藤さんの用意した軽自動車1台が賞品として贈呈されるのだという。

正式に部を引退してから、ほとんどテニスからは遠ざかっていたけれど。
ラケットを握る、しばらくぶりのこの感触が、あたしの意識を引き締めてくれる。
まあ、優勝賞品が心惹かれないにしても、それは仕方ないとして。
テニスを愛するものとして――そして、このコートで長いこと練習してきた身としては、ここで無様な姿は見せられない。

やるなら、目指すは勝利のみ。
あたしはもう一度、ラケットを握りしめ、その感触を確かめた。



***



須藤さんの思惑はさておき――

腐っても、この人だって一応大会優勝経験者。多少ブランクは感じられても、即席のペア――しかも、片方はテニス初心者だったりする――にひけをとるわけもなく。

トーナメントを、あたしと須藤さんのペアは順調に勝ち進んでいった。

そして、迎えた決勝戦。
対戦相手は――


「いつまでも相原相原呼ばないでよ。あたしは入江琴子よ。恋の勝利者よ」


試合前のコート。
売り言葉に買い言葉。
須藤さんの挑発に、彼女――相原さんはそう言い放った。




恋の勝利者、ねぇ…


全く…

こんな試合直前に、人の心に火をつけるようなこと、言ってくれるわね。





パァン!

あたしが渾身の力を込めて打ったサーブが、ちょうど相原さんの足元に突き刺さる。

相原さんは、一瞬あっけに取られたような顔をして、打ったあたしを見た。

「15―0」

冷静な入江くんの声が響く。

相原さんのことだもの。どうせ、優勝して車を手に入れたら入江くんとドライブに行こうなんて考えているんでしょうけど。
おあいにくさま。手加減なんかしてやらないわよ。
あんなこと言われたら、余計にね。


試合は、1セットマッチ。序盤は拮抗していたものの、今はあたし達が圧倒している。
あたしたちペアは相原さんの相方、クリスという留学生の彼女に狙いを定め、ボールを集中させていた。
このペアが勝ち残ってこれたのは、ほぼ彼女の力だ。1セットとはいえ、何試合も一人で戦ってきた彼女の体力も、この集中攻撃にそろそろ限界にきている。あたし達の勝利も時間の問題と思われた。

――まあ。
このまま優勝してもねぇ…ましてや、須藤さんの運転する車に乗る気もないんだけど。

でも、相原さんに負けるのだけは考えられない。

そのために――そのためだけに、あたしは全力で、この試合に集中していた。

そして。


須藤さんのショットが決まった。クリスは、コートに蹲っている。


「マッチポイント」

入江くんの声が聞こえた。相変わらず、淡々とした、落ち着いた声。

ふと。

入江くんは、この状況をどう思っているのだろう――

そんな考えが頭に浮かんだ。
学園祭の余興的な試合とはいえ、かなりのギャラリーが見守る中。
自分の奥さんが追い詰められている。相手は姑息な手を使って自分に有利なペアになるように仕組んで。
その相手に、敗れようとしている、この状況を。

その表情からは、何も読み取れない。
いつもと変わらない、感情の読めない顔。


――ポン、ポン。

須藤さんがボールを弾ませている。

まだ、試合は終わっていない。あたしは視線を戻し、ラケットを握り直した。目の前の試合に集中する。

須藤さんが、サーブを打つ。

力強いサーブは、相手のコートに沈むことはなかった。相原さんが食らいつくようにして打ち返してきたのだ。
打ち返したボールが、あたしの方へと飛んでくる。しかし、それは何とか当てたに過ぎず、力のないものだった。

「チャンスボール」

あたしはラケットを振り上げる。

「いただきだ」

須藤さんの声が聞こえた。
あたしが勝利を確信してショットを打った、その瞬間。

「琴子、右だ」


え――?


それは、間違いなく入江くんの声だった。

そして。

相原さんが、渾身の力を込めて打ち返したスマッシュが、須藤さんの頭上に上がった。
予想外の反撃に、無警戒だった彼は無理に体を仰け反らせ――

ぐきっ。

そんな効果音がぴったりな、不自然な態勢。須藤さんはコートに背中を仰け反らせたまま倒れていた――





……結局。
そのまま動けなくなった須藤さんは試合続行不能となり――恐らくぎっくり腰――あたし達ペアは棄権となった。

あーあ、全くとんだ茶番劇だったわよね。優勝してあたしとドライブする口実を作りたかったんだろうけど、結局救急車で搬送されてるんだから。ま、あんな手を使って、バチが当たったってことね。


――しかし。

あの時…試合の最後。
まさか、入江くんがあんなことするなんて。

あの一言は、コート内にいた者にしか聞こえていなかったらしい。須藤さんは文句を言っていたけれど、あの人にそんなこと言える資格はないし。

確かに、審判にあるまじき行為であることに違いない。
そんなことを、あの入江くんがしたのだ――相原さんのために。



入江くんは、いつだってクールで。
何でもできるからこそ、間違ったことなんてしない。そんな必要もないくらい完璧で、いつだって正しくて、嘘をつかない。そんな人だった。

あの、お花見の夜も。


だから、今回のことは、あたしには驚くべきことではある、のだけど――






この試合の結果、優勝は入江・クリス組となり、約束通り、車が二人に贈呈された。
部員達からの拍手に包まれ、二人は満面の笑みを浮かべている。

あたしは、祝福の輪の真ん中にいる相原さんの方に足を向けた。

「ま、一応おめでとう、って言っとくわね」

「あ、ありがと松本姉」

あたしが声をかけると、ちょうど後輩に写真を撮ってもらっていた相原さんは、振り返って笑顔を浮かべた。

「ペアの彼女に感謝するのね。彼女じゃなかったら、こんなに勝ち進んでこれなかったわよ」

「う…、だから、車はクリスに乗ってもらうの!」

「あら、それはよかったわ。その方が社会のためよね」

「どーゆー意味よっ…って、あれ?でも車…欲しかったりした?須藤先輩の助手席に乗りたかったとか」

「そんなわけないでしょ!あんな人の運転する助手席なんてまっぴらよ」

そう。別に賞品目当てで試合してたわけじゃないわ。
勝負に負けるのは絶対に嫌なのよ。どんな勝負であろうともね。

「公式戦で、あのスマッシュが見たかったわね。ま、あなたには無理な話でしょうけど」

「な、何よそれっ。あたしだってねぇ、この日のために猛特訓してたんだから!あれくらい出来るのよっ」

「あらそう」

猛特訓って…全然進歩が見られなかったけど。どうせ一人で闇雲に素振りかなんかしてただけでしょうね。

まあでも。

「あそこであんなことができちゃうのが、あなたなのよね…」

「え?」

相原さんはきょとんとした顔をしている。まるで意味がわからないっていう風に。

と、そこに。

「琴子、行くぞ」

少し離れた所で後輩と談笑していた入江くんが、相原さんに声をかけた。

「あ、待って入江くん。じゃ、松本姉、またね」

既に歩き出していた入江くんの後ろ姿に、相原さんが慌てて走り出す。
程なくして相原さんは追い付き、何か話しながら一緒に歩き始めた。

二人の後ろ姿は、そうして一緒にいるのが自然で、当たり前で。
何者にも、割って入れない、そんな空気が漂っている――



全く、負けたわよ。
あそこであんな一言を発した入江くんにも。
4年間テニス部にいたとは思えない腕前のくせに、入江くんのたった一言によってあんな一撃を放った相原さんにも。




“恋の勝利者”――


相原さんが須藤さんに言った言葉。
あの時は、単に、好きなひとに振り向いてもらえた、両想いになれた――そんな意味で使ったのかも知れない。

確かに、紆余曲折を経てその想い人の心を射止め、学生結婚までした彼女は勝利者と言えるけれど。


でも、彼女が本当に勝利したのは、そんな意味合いだけじゃない――


恋愛だって、勝ち負けよね。
一人の男と、一人の女の。
より多く、想った方が負け――


それでいくと、きっと彼女は、自分は負けているって思うんでしょうね。
自分が彼を想うほど、彼は自分を想ってはいない、と。
彼女はきっと、そう思っているんでしょうね。

だけど、本当は――




入江くんにあんなことをさせる人なんて、彼女以外にいるかしら。
ううん、今回のことだけじゃない。
ずっと前から、彼女だけが、入江くんを動かしてきた。彼を、変えてきた。

それは、あたしにはできないことだったのよね…悔しいけど。

こんなこともまた、彼女はきっと、気づいていないのだろうけど。


それに。
あの時入江くんが発したたった一声。
それに応えるように、相原さんは見事なスマッシュを打ち返してきた。
あんな球、あの相原さんが打つなんてね。万年球拾いとは思えない一撃だったわ。
まるで、入江くんの声が力を与えたように。
事実、きっとそうなのだろう。
これまでだって、相原さんは、入江くんによって、信じられない力を発揮してきたのだから。



ああ、こんなことなら、留学生の彼女じゃなく、相原さんに集中攻撃してポイント奪ってやるんだったわ。

改めて、こんなことを見せつけられるくらいなら。


それにしても…
あの車が、相原さんの手に渡らなくてよかった。
あの人が運転するなんて、あまりに危険すぎるもの。社会のためにも、それはぜひ遠慮してほしいところね。

ま、万が一そんなことになっても、なんだかんだで入江くんがさりげなく助けたりするのかもね。
この二人は、きっと、そうやっていくんだろう――
これから先も、ずっと。



あたしは、そんなことを思いながら、まだ試合の余韻が残るテニスコートを後にした。




☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ


そんなわけで、学園祭のお話でした。

甘いお話も書きたいのですが…なかなか思うように書けず
(>_<)

まとまったお話にならないショートショートみたいなものなら何とか時間かからずに書けるかな…?っていう感じです。


今回、松本姉目線はすごく楽しく書けました。相変わらず、第三者目線が好きな私です(笑)。

スポンサーサイト
Secret
(非公開コメント受付中)

管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
Re: マロン様
コメントありがとうございます!
返信が遅くなって申し訳ないです…

このエピソード、好きなんですよ。
わかりにくい直樹の愛情が垣間見えて。この場面を、松本姉はどんな気持ちで見ていたんだろう、と思ってお話にしてみたんです。

松本姉はいい人ですよね。度量が大きいというか。私も好きです。



> 松本姉の完全燃焼、気持ちののにま消化をさせていただいて、ありがとうございました。私も、清々し気持ちになりました。
>

そういっていただいて私も嬉しいです。
ありがとうございました。
(*^^*)
Re: たまち様
コメントありがとうございます!
返信が遅くなってしまってごめんなさい。

パソコンの問題は何とかダンナが解決してくれました。私にはさっぱりだったので(^^;


私も松本姉好きです。ほんと、潔くてカッコいい!
仰る通り、男前!


>人生のペアなんだから、ついつい気持ちが負けない方向に(笑)

確かに!(笑)
この試合、琴子は頑張ってましたから、見ている直樹も実は気持ちが入っていたんでしょうね。
直樹は、琴子が他人に負けるのは許せないんじゃないかと。(特に、卑怯な真似した須藤さんには)

楽しんでいただけたみたいで、私も嬉しいです。第三者目線、私好きでつい書きたくなるんですよ。また、妄想浮かんだら書いてみたいと思います。
Re: 紀子ママ様
コメントありがとうございます!
返信が遅くなって申し訳ないです……
そして、お帰りなさいというお言葉、とっても嬉しかったです。ありがとうございます。


松本姉はほんと、カッコいいですよね。仰る通り、ちゃんと琴子の良さも認められる度量が素敵です。

とても頭がよい彼女のこと、イリコトから少し距離をおいた頃のこのエピソード、彼女から見たらどう映るのかな、と思ってこのお話を書きました。


> 彼女と須藤さんは絶対一緒になって欲しくないわ〜(笑)

同感(笑)。あの人にはもったいないですよね。
(^^;
Re: ねーさん様
コメントありがとうございます!
返信遅くなってごめんなさい。



>
> 題名からして恋の勝利者と言われ松本姉目線だったので驚きましたが、内容を読んで納得。
> 暗に直樹の方が惚れてるって読める文章にニマニマしちゃいました。


恋の勝利者、というフレーズは琴子が言ったんですが、松本姉からすると、琴子が言ったのとは他の意味に捉えそうだな、と思ったんです。
琴子は自分が彼を想うよりも直樹が自分を想っているなんて思いもしないでしょうし、直樹はそんなことは
おくびにも出さなそうだし…それを見抜いている人は限られていますよね。そういう人物からの目線、書いてて楽しくって(笑)。


> 入江くんって自分以外の人に負ける琴子って許せないんだと思います。


それはありますよね。
直樹自身負けず嫌いだし、琴子は自分のものですから。
ほんと、わかりにくい男ですけどね。
Re: ゆい様
はじめまして。コメントありがとうございます!
返信が遅くなって申し訳ありませんでした。
数あるイタキスサイトの中、こんな辺境のブログにきていただいてありがとうございます。

ゆい様はドラマから入ったんですね。
こうしてまた、イタキス好きな方と出会えて嬉しいです。

温かいお言葉、ありがとうございます。更新が本当に遅いブログですが、今後もよろしくお願いします。

No title
ウ~ン!入江君を、突き動かしたのは、琴子ちゃん誰にも、入江君の、心を,動かすことができなかったこと、素直で、優しい琴子ちゃん、勉強も、何もかも苦手な彼女、でも素直で、何時も、一生懸命な彼女だからこそ、入江君の、心も動かせたことなんだろうね、入江君も、琴子を、だれより、愛して、かけがえのない相手ですもんね。
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
カウンター
リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。