スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
慰安旅行のウサギさん
... Read more ▼
ここは伊豆の旅館“よし乃”。
正面玄関を入ったところには黒いボードに「歓迎・斗南病院外科病棟ご一行様」と書いてある。
夜の帳が降りてきた今、大広間では件の一行が宴会に興じていた―――




「いたいた琴子、悪いけどちょっと手伝って」
酒の席に乗じて夫に近づく不埒な輩にキリキリしていた琴子は、何故か智子に引っ張っていかれてしまった。
「ちょっとちょっとっ、あたしは入江くんをっ……あれ、モトちゃん?」
「 あ、琴子、来たわね」
連れて来られたのは、宴会場の次の間。
そこでは、何やら発泡スチロールの箱と、紙袋がいくつか置かれている。
「何これ、どうしたの?」
「ふふっ、あたし、今日はこのために朝から頑張ったのよ」
答えになっていない返事をした智子は、傍目にもウキウキしている。
そして、発泡スチロールの箱を開けた。
「え……」
智子が中から取り出したものを見て、思わず絶句する琴子。
それは……どう見ても内臓、ではなかろうか。
「琴子はほら、これ着て」幹が紙袋から取り出したものを琴子に渡した。
「え…これって」
「ふふっ。可愛いでしょ~。アタシ、こーゆーの一度着てみたかったのよね」
幹も何だか嬉しそうだ。
「ほら、もうすぐ出番よ。琴子も早く着替えて」
「いや、でもあたし、入江くんを」
こうしている間にも、同僚ナースが直樹に迫っている。琴子は気が気ではない。「まぁまぁ。いーからいーから」
智子と幹に急かされ、琴子は何だかよくわからずに着替えさせられた。




宴会場では、医学事典の暗唱を始めた船津が、ステージから引きずり下ろされていた。
相変わらずやることがずれている同期を横目で見つつ、直樹はビールのグラスを傾ける。
「はぁい、入江先生、どうぞ」
すかさず、空になったグラスにビールが注がれた。
「…どうも」
先ほどから、直樹の周りにはナースが数人居座り、何だかんだと世話を焼いていた。正直、少々鬱陶しいのだが、ここは職場の宴席。追い払うような無粋な真似は憚られる。
(そういや、琴子の奴、どうしたんだ?)
直樹のこんな状態を放っておくはずがない琴子である。
しかし、さりげなく宴会場を見回してみたが、その姿は見当たらなかった。

(……)

そんな時。
「わかっております。お待たせしました!」
女出せーっ、の野次に応え、余興の進行役の声が響いた。
「斗南第一外科のアイドル、この人こそ白衣の天使!小倉智子さんとその仲間たち!」
おおーっとばかりに、宴会場に声が沸き起こる。
直樹もその声につられてステージに目をやり、
「……!」
思わず絶句した。
ステージの真ん中には黒い帽子を被り、マジシャンのような衣装を着た智子。
そして、その後ろには。
(な、なんでそんな格好…)
2本の長い耳のついたカチューシャ。
赤い蝶ネクタイ。黒いジャケットの下は……レオタードではなかろうか。
さらに極めつけは、やはり黒の網タイツ。すらりとした琴子の脚をこれでもかと引き立てている。
一応、ステージには琴子と同じ格好をした幹もいたのだが、直樹の目には琴子しか映っていなかった。

(なんだよ……こんなの聞いてねーぞ)

琴子も知らなかったのだから無理もないのだが、直樹の胸中には苛立ちが募った。
何が悲しくて、夫の自分も初めて見る妻のこんな姿を、こんなに大勢の目に晒さなければならないのか。
直樹は智子の趣味に溢れた“誰のナイゾーショー”をほとんど見ることもなく、ビールを煽った。


☆☆☆


出し物も終わり、直樹は宴会場を後にしていた。
「入江先生、よかったら飲み直しません?」
勝手についてきたナースが、甘ったるい声をかけてくる。
「いや、俺これからひとっ風呂浴びてくるから。じゃ」
酔いにまかせて掴まれた袖を軽く振り払い、直樹は男風呂に向かう。
あの琴子の姿を見てイライラしている気分を変えたかった。
まさか、直樹に振り払われたナースが、その腹いせに琴子に嘘を教えるとは、この時直樹は想像もしていなかった―――。





直樹は露天風呂に身を沈め、息をついた。
日頃、不規則な勤務形態であるため、ゆっくり風呂に浸かる暇などそうそうない。
それに加え、今日は行きのバスからナース達に囲まれてなんだかんだとまとわりつかれ、落ち着かなかった。ようやく、人心地ついた気がする。

(ったく、慰安旅行じゃねーよな……)

本当にゆっくり羽を伸ばすなら、家でのんびり読書でもしていた方がいい。もちろん、琴子が淹れたコーヒーは必須として。

(だから来たくなかったんだよな……)

琴子は楽しみにしていたようだが、旅行中直樹と一緒にいられないことくらい、少し考えればわかりそうなものだ。

(部屋も別々だしな…)

直樹の部屋は、何の因果か大蛇森と一緒だった。今も、露天風呂の入口からねっとりした視線を送ってくる。
気づかないふりをした、その時。
ガラッ!
やたらと大きな音を響かせ、露天風呂の入口の引き戸が開いた。

「入江くんっ」

何事かと目線が入口に集中し……露天風呂は騒然とする。

(琴子?)

そこには琴子が立っていた。硬直した顔をしながらも、足を踏み入れてくる。

「おいおい…琴子くん。いくらなんでも君ぃ、男風呂に入って来るなんて…やり過ぎなんじゃあ」

皆が唖然とする中、誰かがようやく声をかける。

「お、男?」

琴子が一瞬にして固まった。
「だ、だって、ここは…混浴じゃあ」
直樹はため息をついた。
いつもの早とちりで、ここまで突っ込んで来たのだろう。

(さしずめ、俺が混浴に行ったと誰かに吹き込まれたってところか)

妻も一緒の職場の旅行で、直樹がそんなことをするわけがないであろうに……それでもこんなことをしでかすのは琴子の琴子たる所以といえようか。

(ここまで俺を追っかけてくるんだから……ったく、しょーがない奴)

少々呆れつつ琴子を見ていると、視線をさまよわせていた琴子とふと目が合った。

「男風呂だよ」

直樹が言った途端。
きゃーっと悲鳴をあげ、琴子は身を翻した。

「ごめんなさいっ」

が、濡れた浴場内のこと。足を滑らせた琴子が引っくり返る様子が、直樹にはまるでスローモーションのように見えた。次の瞬間、

「琴子っ」

直樹が駆け寄った時には、琴子は頭を強打し気を失っていた―――


☆☆☆


客室には重い空気が漂っている。
琴子は部屋の隅で膝を抱え、こちらに背をむけていた。どよーん……と音がしそうなほど、落ち込んでいる。

あの後。
頭を打ったことで、すぐには動かせなかったが、幸か不幸か周りは医者だらけ。脳外科の専門家までいたのだから、悪運が強いとしか言いようがない。
深刻な所見は見られないということで、直樹は琴子をここまで運んできたのだった。
しばらくして気がついた琴子は、自分のしでかしたことが夢ではないと聞かされ……それからずっと、この状態で今に至る。
直樹と一緒の部屋に泊まれることになったのだが、それでも今の琴子の気分は変わらないようで。

「おい」

直樹はそんな琴子の背中に声をかけた。
「気分どーだ」
「うん…もう大丈夫」
こちらを向くこともなく、琴子は小さく返事をする。
「俺、寝る前に風呂入って来るけど」
「うん…行ってらっしゃい」
これまでさまざまな騒動を起こしてきた琴子も、今回はさすがに相当堪えているらしい。直樹は今日何度目かのため息をついた。

「一緒に入るか?」

小さくなっている背中に問いかける。

「頭大丈夫なら、の話だけど。せっかく温泉に来て、一度も入らないのもな」
直樹の言葉に、ようやく琴子がこちらを向いた。大きな瞳をさらに見開いている。
(ま、いつまでも落ち込んでられるのもな)
せっかく夫婦同室になったのだ。
自分の台詞としては意外なものだったかもしれない。でも。
(慰安旅行、だしな)
少しくらい癒されてもいいだろう。
(お互いに…な)




「ここがほんとの混浴なんだね。脱衣所は別にあるんだね」
「当たり前だ。ったく」
露天になっている混浴風呂には、誰もいなかった。
直樹よりだいぶ遅れて混浴風呂に入ってきた琴子。ようやく、夫婦で同じ風呂に入ったが、琴子は隅で小さくなっている。
「だ、誰か来ないかな。大丈夫かなァ」
琴子は落ち着かないのか、そんなことを言う。
「もう夜中の3時だから、皆酔いつぶれて寝てるよ」
「そ、そうだね」
直樹の言葉にそう答えた琴子だったが、それでも落ち着かない様子で隅に縮こまっている。
「なんでそんなすみっこにいんの」
「えっ…だって、なんだかねぇ、照れちゃうじゃない」
琴子は真っ赤になっている。
「何を今さら」
「だって、一緒にお風呂入るなんて初めてだし」
「そーだっけ」
「そ、そうだよ」
怒ったように言い返す琴子。
その様子に直樹の悪戯心が擽られた。
「ふーん」
直樹はスイスイと湯の中を琴子の方へと移動する。
「なっなっ…」
近づいてくる直樹に焦る琴子。
その肩に、直樹の腕が回される。
「せっかく二人っきりなんだし」
「!!」
意地の悪い笑みを浮かべて囁く直樹に、琴子はさらに顔を真っ赤にした。
「もしかして…入江くん、面白がってない?」
「わかる?」
「……!」
口の端を持ち上げ、ニヤリと笑う直樹に、琴子は何も言えなくなったようだ。
「これは“慰安”旅行なんだろ?」
ことさら“慰安”を強調して言ってやる。
「だったら、堪能しなきゃな」
そう言って、直樹は琴子の二の腕を撫で上げる。
彼女の肌はさらさらとしていて気持ちがいい。
琴子はさらに顔を赤くしてぎゅっと目を瞑っている。
「……あの格好」
「え…?」
ぼそりと呟いた直樹に、琴子が目を開けた。
「あの余興の時。お前、あんなとこであんな格好するんじゃねーよ」
言いながら、鼻をつまんでやる。
「い゙、い゙たい」
「ったく…、あれ、自分から着るって言ったのか?」
「あ、あたしも恥ずかしいって言ったんだけどっ、モトちゃんが」
「…へぇ、桔梗が、ね」
「でもっ、西垣先生は似合うって言ってくれたよ。忘年会とかでもまた着たらって」
「………」
今度会ったらどうしてくれよう、と直樹は内心呟く。
「そ、そんなに変だった…?」
直樹の沈黙を違う意味に捉えた琴子が、不安げに見つめてきた。
「ばーか」
直樹は琴子の額を小突いた。
「お前は一応、人妻、だろ?」
「え?う、うん」
「だから、あんなとこであんな格好すんな」
「………」
「わかったか?」
「は、はい」
じっと直樹をみつめる琴子。
「それって…」
「ん?」
「ひ、人妻なんだから、もっと…慎ましくしろってこと?」
「………」
「そっか。そうよね、うん。人妻、だもんね。あたし」
琴子は人妻、という響きに過剰に反応したらしい。
えへへ…と笑っている。
「わかったわ、あたし。もっと入江くんの妻として、ふさわしいように……んっ」
言いかけた台詞は直樹に唇を塞がれ、飲み込まれた。「もういいから黙れ」
「え、だって…」
「いいから」
「んっ…いり、え、くん…?」
「黙れって」
「あ……」


その後。
よくわからないまま、琴子は直樹によって、何も考えられなくなっていった―――







☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ


あの慰安旅行の話の中で、男風呂に突っ込んできた琴子に直樹があまり驚いてなかったんですよね。
普通なら驚くか怒るかするだろうに…というわけで直樹の心情を書いてみたいなあ、と。
あと、あのバニー姿も、奥さんがあんな格好してたらなんか反応するよね?と思いまして。

スポンサーサイト

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

Secret
(非公開コメント受付中)

ありがとうございます。
ari様

拍手コメントありがとうございます!!

あの巻はラブラブで私もよく読み返してます
(^-^)b
楽しんでいただけて幸いです。
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
慰安旅行
たまち様

そう!バニーちゃん琴子、絶対直樹には衝撃だったはず!!
宴会場、黒オーラは確かに充満していたことでしょう。
うーん、描ききれなかったのはうっかりでした。

悪い看護師ですね!
わざと?男風呂を、混浴と、教える看護師いくら?嫉妬したって、他人の、旦那さんなんだから❓横恋しようなんて、最低な、ナースですね!バニーちゃん、琴子ちゃん?入江君は、琴子ちゃんバニー何て?誰にも、見せたくないんですよね?見せるんなら、入江君だけですよね、琴子ちゃん、若手いないな?天然娘ですもんね。
Re: なおちゃん様
コメントありがとうございます!

あの意地悪なナースたちは確かにひどいですが、そんな横やりはものともせず、この二人はラブラブです♪
直樹さんの所有欲、琴子はまだまだわかっていませんね。はい、相変わらず天然です(笑)。
No title
琴子ちゃん、本当に、鈍感!入江君は、確かに妻としてなんだけど?琴子ちゃんの、そゆう姿を見せたくなかったんですよ、しかも?ただでさえ、嫉妬深い、彼なんだもん?琴子ちゃんも、少しは、気が付いてあげればいいのに、入江君、本当は、琴子ちゃん、以上に愛してるのにね。
承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
カウンター
リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。