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天才医師の休息(前)
息子が夏休みに入る前に、更新ペースを上げたいな、とは思っていたのですが、思うようにはいかず・・・。

今回のお話も、長くなってしまって前後編に分かれてしまいました。
後編もなるべく早く公開できるように頑張ります・・・。


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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


本当なら、難なく受け止められるはずだった。
弁当と一緒に階段の上から降ってきたあいつ。
階段を駆け上がって、腕を伸ばして。
ただ、必死だった。
あいつを助けること――それしか頭になかった。
そしてそれは、うまくいくはずだった。
悲鳴をあげながら落ちてくるあいつを両腕の中に収めて、いつもみたいにバカだのなんだのと怒鳴り付けてやるはずだった。

だけど――……



***


目を開けると、まず真っ白な天井が目に入った。

ここは……?
ぼんやりしていた頭が、少しずつ動き出す。
自宅の寝室ではない。
病院の仮眠室でもない。
どこだ、ここは…
戸惑いとともに、焦りが浮かびかけた時。

「痛っ」

足に鈍い痛みが走った。
見ると、足に包帯を巻かれ、吊るされている。
その様子をみた途端に、一気に記憶が蘇った。

そうだ…確か、弁当と琴子が降ってきたような。

琴子を受け止めて、それから俺は階段から落ちたのか…。
足…やっちゃったか。
ったく、しょーがねーな……俺。

いや、それよりも。
琴子は大丈夫だったんだよな…?
あの時……階段から落ちた時。
琴子を腕の中に受け止めて俺はどこか安堵してしまったのかもしれない。それから、どうなったのか……記憶が曖昧だ。
ただ、何としても琴子を助けること。それしか頭になくて――それしか覚えていない。
ちょうどその時。

「おはようございまぁす。検温なんですけど」

控えめな声がして、そろりと病室のドアが開いた。

「あーっ入江くんっ。目が覚めた!?」

ドアを開けたのは琴子だった。俺の顔を見た途端に顔を輝かせている。
あまりのタイミングの良さと、その勢いに思わずびくっとしてしまう。

「よかったよかったぁー!あのね、昨日手術したんだよ入江くん。それからずっと眠ってて。西垣先生が執刀してくれてね。それで」

「検温だろ」

放っておいたらいつまでも喋っていそうだったので、とりあえず口を挟んでみる。

「そ…そう。じゃワキに挟んで。血圧測ります」

さすがにそれくらいは慣れたのか、危なげない手つきで計測していく。
計測が終わると、サイドテーブルに置いていたファイルに書き込んだ。そのまま、それに目を走らせ、えーと、と呟く。

「今日は採血と点滴2本あります。それから」

「俺の症状は」

俺はまたも口を挟んだ。
とにかく、琴子が無事だと分かった以上、一番知りたいのはそこだった。

「えっと、左下腿部の単純骨折です。腫れがひどく折れた骨のずれが大きいのでしばらく入院して吸引療法で」

「牽引だろ」

「は、はい。そーです」

しどろもどろで説明する琴子の誤りを訂正しつつ、自分の症状がわかり、とりあえずほっとする。
単純骨折なら、まあ時間はかかるかもしれないが、深刻なものではない。

しかし。

「それから、極度の過労からくる貧血で……」

そう言った琴子の顔は浮かないものになっていた。

「睡眠不足、栄養不足……」

俯き、言葉に詰まる。
しかし顔を上げると表情が変わっていた。

「だから、あたしのせいなの!」

打って変わって強い口調の言葉が、その口から溢れ出た。

「入江くんが貧血になったのも、入江くんが骨折っちゃったのも全部あたしのせいなの」

目に涙が浮かべ、琴子は言い募る。

「だからだから、このあたしが責任を、全責任をもって入江くんの看病を、お世話をする。入江くんが全快するまであたしが入江くんの足になるから」

「お、おい」

「それが妻&看護婦であるあたしの役目なの!入江くんは大船にのったつもりでいてね。ねっ!」

琴子は俺の目を見つめ、そこまで一気に捲し立てた。

「朝食持ってきまーす」

言いたいことを言い終わると、琴子はバタバタと病室を飛び出していった。

言葉を挟む暇もなかった……
勢いに押されたというか。まるで台風だな。
あいつ、何だかパワーアップしてないか?
俺としたことが、度肝を抜かれたぞ。
ああ、でも、これが琴子なんだよな。
ああやって、俺のペースを乱して。その勢いに引き込んで。
そうだ。これが、琴子だ。
そう思ったら、何だか自然に笑みが溢れた。
これまで体のどこかに余計に入っていた力が抜けた。そんな気がした。



***



“カッコいい入江くん”

いつだってお前に頼られる、完璧な俺。
いつまでも、そんな存在でありたかったのに。
そうあるはずだったのに。
あー。こんな怪我しちまって。こんなはずじゃなかったのに。
何だかカッコ悪いよな。
金之助には笑われたが、俺だってそう思ってる。
そんな思いが、俺にとってこの入院を余計に重いものにしている――。




「そーか、なるほどね。参考になったよ」

俺の説明を聞いた外科の鈴木先生が、深く頷きながらそう言った。
時たま、俺の病室にはいろんな診療科の先生が来ては患者の治療法について相談していくようになっていた。

「いや、時間とらせて悪かったね。じゃ、お大事にな」

「いえ、こちらこそご迷惑かけてすみません」

ドアを開けて病室を出ていく鈴木先生を見送ると、ふうっと溜め息が出た。
俺が入院して離脱してしまったせいで、他の先生達にその分しわ寄せが来ているはずだった。
相談には乗れるものの、やはり役に立てない申し訳なさはある。
今は療養するしかないとはわかっていても、何もできないもどかしさは如何ともし難かった。
そんな気持ちを抱えたまま無機質な病室にずっと一人でいると何とも言えない気分になってくる。

全治2カ月。西垣先生からはそう言われた。
2か月・・・今のおれには長すぎる期間だ。
確かに最近忙しくて、まともな時間に家に帰れないくらい仕事に忙殺されていた。
でも、それでも俺は充実していた。
早く・・・早くこんな研修医なんて立場じゃなく、一人前の医師になりたかったから。この忙しさが、医師として認められることにつながるのなら、それこそ望むところだったのに。

それなのに、こんなところでこんな足止めを食らうなんて・・・・・・

どう足掻いたって、動かない脚。
今の俺は、何もできない。

これは、焦燥というものだろうか・・・・・・
何ともつかない、覚えのない思いがふとした時に沸き上がってくる。
こんな心情が浮かんでくるのは初めてかもしれない。

これが、入院患者の気持ちなのか…

俺はまだ、時が経てば回復することがわかっている分、まだいい。もっと、明日のことすら考えられない患者だっているだろう。

俺がもう一度ため息をついた、その時。


――トントン

「入江くーん。お散歩しよっ」

ドアが開いて、顔を覗かせたのはやっぱり琴子だった。満面の笑みを浮かべ、車椅子を押して部屋に入って来る。
また、すごいタイミングでやって来るんだな。お前。

「散歩って…お前、仕事は」

「え?これだって仕事だよ!あたし、入江くんの担当なんだから。それに、他の患者さんのことは一通り終わらせてきたから大丈夫」

にっこり笑ってそう言うと、琴子は車椅子をベッドの横につけ、俺を移そうと体を寄せてくる。

――ふわり。

触れた手から、肩から、温もりが伝わる。
途端に、先程まで心の底の方に溜まっていた沈んだ感情が晴れていく――

「っとに、大丈夫かよ。何か忘れてたりしないだろーな」

そんな心の内を知られたくなくて、俺はわざと意地悪な口調で言う。

「大丈夫だってば。…はい、じゃ、行きましょー!」

どこまでも明るい声とともに、俺は琴子に車椅子を押してもらい、病室を出た。


***



…ったく……。
俺は、さっきまで車椅子に乗っていたとは思えない疲れ方で、病室のベッドの上にいた。
俺と一緒の時間に明らかに浮かれ気味の琴子がよそ見ばかりしているもんだから、俺は何回ぶつかりそうになったことか…
琴子は、俺をこの病室に送り届けた後、清水主任に引っ張っていかれた。
あいつがいなくなった病室は、妙に静かだ……。


――コンコン

その静かな病室に、またノックの音が響いた。
誰だ?
琴子はさっき仕事に戻ったばかりだし。

「はい」

返事をすると、静かにドアが開く。

「――直樹くん。具合はどうだい?」

顔を覗かせたのは、お義父さんだった。

「お義父さん……わざわざすみません。足を折っただけで、大したことはないんです」

店だってあっていつも忙しいのに、ここまで来てくれたのか。

「いや、大したことだろ。あれだけバリバリ働いてた優秀な医者が入院したんじゃなあ。この病院、えらく困ってんだろーなあ」

お義父さんはそう言いながら俺のベッドの側までやって来た。

「ま、ありきたりだが果物を持ってきたよ。後で琴子に剥いてもらってな」

お義父さんはそう言って、サイドテーブルに色とりどりの果物をが入ったバスケットを置いた。

「ありがとうございます」

無機質な病室に、わずかに彩りが添えられた。

「さっきまで、クリスのところにも行ってきたんだが、まあ金之助の奴が騒がしくてなあ。病院には迷惑だろうな」

「……そうですね」

溜め息混じりのお義父さんの言葉に、ここにクリスを運び込んで来た時の金之助を思い出す。

「見たことないことくらい、血相変えて俺のところに駆け込んできましたからね」

「ああ、クリスのことも、直樹くんが診てくれたんだってな。他の診療科に行けと言われたのを、無理に診てもらったって言ってたが」

・・・・・・そうだった。
ここは小児外科だって何度も言われているのに、金之助はまるで聞き入れず、俺のところまでやって来た。
ただただクリスを助けてほしい、その一心で。
その気持ちは俺にもよくわかる。
だから俺は、それまでの疲れも何も関係なく、診察をしたんだ――



「直樹くん。ありがとうな」

ベッドの側の椅子に座ったお義父さんは、あらたまったようにそう話を切り出した。

「琴子から聞いたよ。あいつを庇って階段から落ちたって」

「いえ。そんな」

「いや、それだけじゃない。琴子から聞いたんだが…直樹くん、ずっと働き詰めだった上に、琴子のせいで寝不足と栄養不足にもなっていたって」

「…別に、琴子のせいというわけでは…ないんです」

琴子は、自分を責めていたけど。
俺は本当に、そう思っていた。

「俺は医者なんですから…自分の体調管理をしっかりしておかなければならなかった。あいつのせいではないんですよ」

そうだ。
確かに、あいつの看護計画を手伝って徹夜することになったけど、それは結局のところ、俺があいつを放っておけず、つい付き合ってしまっただけのことだ。
あいつに頼られることが、俺の中ではもう当たり前になっていて。
それで寝不足になろうが、そんなことはあの時、関係なかったんだ。
だから、これは琴子のせいじゃない。
俺が自らしたことの結果でしかないんだ。


「……君は意外に、頼られると嫌とは言えない質だよな」

あの時のことを思い出しながら言葉を紡ぐ俺を、お義父さんはじっと見つめていた。

「俺が、ですか…?」

自分では、そんなこと思ってもみなかった。
戸惑いが顔を出たのだろうか、お父さんはわずかに笑みを浮かべている。

「君は優秀な医者なんだ、それだけでもあちこちから頼りにされるだろう。金之助の奴だって、何だかんだ言って君を信頼しているからこそクリスを君のところへ運び込んだんだろう」

「……」

「いろんなところから頼られて、それに応えつつ、脇目もふらずに仕事をしていく…男ってのはそーゆーもんだからな」

お父さんは、頷きながらそう言った。
それは、これまでプライドを持って自分の店を守ってきたお義父さんらしい言葉だった。

「長い入院中、焦る気持ちもあるだろうが、今は、これまで頑張ってきた分、休暇をもらったんだ。そう思ってゆっくりするといい。そしてな」

お父さんはそこで一度言葉を切り、俺の顔を見つめて笑った。

「そういう時ってな、それまで気づかなかったこと、忘れていたことが見えてきたりするもんだよ」

その笑顔には、今まで過ごした時間の重さを物語るような皺が刻まれている。

「何より、君は琴子の大事な大事な旦那さんだ。体を大切にしてくれよ。それに――君は、俺の息子でもあるんだからな」

そう言ったお義父さんの目は、優しく、深い色をしていた――



☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ


あの入院は、直樹にとってホントに「こんなはずじゃ…」という感じだったと思います。それまでは、琴子のピンチをそつなく救ってきて、それが当たり前でしたから。

それから、重雄さん!好きなので、久々に出してみました。
重雄さんは、直樹のよき理解者だと思います。というかこの二人、意外に似たところがあるのでは、と。この二人のシーン、前から書いてみたかったので今回かなり満足♪

後編は、イリコトのシーンをもっと出せたらな、と思っています☆


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琴子ちゃんがお弁当とともに降ってきたら
そりゃ直樹さんは、やっぱり琴子ちゃんを助ける為に、てを伸ばすわよね♪
この時ばかりは、どうにもならず、骨折してしまいましたが.... ....
これからって時に!
って、自分の今の状況を歯がゆく思ってたら、相原パパがお見舞いに!
相原パパって、普段はなかなか直樹さんと顔会わせることないけど、ちゃんと直樹さんと琴子ちゃんのこと見ててくれてるのよね♪
そして、何気ない相原パパの言葉は直樹さんを励ましたり、安心させてくれたり
悩んでることのヒントをくれたり、直樹さんにとって大切な存在よね
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Re: たまち様
コメントありがとうございます!

そうですよね、直樹は良い格好しいですね。
琴子といる時は、常に自分のペースで、琴子にかっこいいと思ってもらいたいんだと思います。
そうそう。琴子をわかってない直樹!
特に、常に完璧な直樹が弱さを見せるなんてそうそうないですから、こんなシチュエーションの時こそ、琴子は直樹のお世話をする気満々です。

重雄さんいいですよね。
入院した直樹にこんなこと言えるの、他にいませんしね。実の父親よりもある意味直樹は尊敬しているのではないでしょうか。
Re: マロン様
コメントありがとうございます!

その通り!
直樹はいつも琴子のピンチを救える人でありたいと思っているでしょうから、それが最大のミッションですよね。
本当は自分が怪我をすることもなく救えたはずだったと本人は思っていたでしょうけど。

はい、重雄さんはいい男ですね。
将来について悩んでいたころから、あんなふうになれたら・・・と直樹は思っていましたよね。
あと、このエピソードを今回入れたのは、直樹が一番素直になれる人物が重雄さんではないかと思ったからです。
神戸に行く前、夜中に重雄さんに自分の気持ちを話していましたが、あんなふうに話せるのは重雄さんしかいないのではないかと。
この二人の関係も、私は好きで、今回書いてみたかったのでした。

Re: りょうママ様
コメントありがとうございます!

直樹は、研修医という立場から、早く抜け出したいと思っていると思うので(西垣先生不在の時の手術の時、それを嫌というほど感じたと思います)ほんとにこの入院中は歯がゆかったのではないでしょうか。

そんな時に、冷静に励ましてくれるのは、重雄さんしかいないかな、と思って今回出してみました。
こんな風言ってくれるのは、彼しかいないと思います。両親は言わないでしょうしね・・・

はい、とても大切な存在でしょうね。
Re:ありがとう 様
拍手コメントありがとうございます!

重雄さんの存在は、直樹にとって大きいですね。
直樹が一番素直になれる相手かもしれません。この二人の関係も私は好きで、今回重雄さんを出してみました。

Re: 紀子ママ様
コメントありがとうございます!

確かに仰る通り、以前の直樹だったらあの看護計画、手伝わなかったかもしれませんね!神戸に行って離れ離れになったことが、また一つ直樹を変えたんでしょうね。

私もドラマのあのシーン、感動しました!カッコよかったですね。

ああ、確かに琴子といると怪我をすることも納得する部分はあるかも(笑)。

重雄さんのお見舞いについて、頷いていただいて嬉しいです。
こういうことを直樹に言ってあげられる人物は彼しかいないと思います。
実の両親は・・・紀子さんは写真撮って騒いでいるだけでしたしね・・・

後編もなるべく早く書きますね。

No title
ウ~ン、さすが?琴子ちゃんと、琴子ちゃんの、お父さんだね?お父さんも、これまでの、いろんなな、経験やつらいことも、しているしね、琴子ちゃんの、お母さんがなくなり、琴子ちゃんを育て、これまで、土壇場というものを、味わてきたからこそ、わかることですね、琴子ちゃんも、しっかり、入江君の足に、なってるみたい。
Re: なおちゃん様
コメントありがとうございます!

重雄さんは、いろいろ苦労してきたせいでしょうか、とっても懐の深い人だと思います。私、大好きなんです。
男手ひとつで娘を育てるって、並大抵の苦労ではなかったでしょうしね。
琴子ちゃんは、もう、入江くんのお世話ができるのが嬉しくって仕方ないんじゃないでしょうか。普段、彼に頼られることってほとんどないですもんね。
プロフィール

あおい

Author:あおい
「イタズラなKISS」にはまり、妄想のあまり書いた二次創作小説と言う名の駄文置き場です。
ひそやかに、かつマイペースに更新いたしますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。

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